スーパースプリントシリーズ特集

 競走距離1,000メートル以下のレースのみで構成されるシリーズ競走、『スーパースプリントシリーズ(略称:SSS)』。7年目を迎える本年は、昨年同様5戦のトライアルおよびファイナルの習志野きらっとスプリントが行われます。
 SSSは、超短距離戦で能力を発揮する異才の発掘と、各地方競馬場で実施可能な最短距離を極力活かすためワンターン(コーナー通過が3〜4コーナーのみ)のスプリント戦によるシリーズとして2011年に創設されたもので、各地区の超スピードホースが、トライアル、そしてファイナルで極限の速さを競い、初夏の地方競馬を大いに盛り上げます。

 創設からラブミーチャンが三連覇ののち、8歳のナイキマドリードや3歳のルックスザットキルがファイナルを制しているこのシリーズ。昨年は4歳のフラットライナーズがファイナルを制しました。今年は古豪が意地をみせるのか、それとも新星が誕生するのか。

 激戦必至の究極のスプリント戦をぜひお見逃しなく!

※下の“タブ”をクリックするとご覧になりたいレースの記事に切り替わります。

短距離路線で実績を重ねる
9歳にして念願の初タイトル

 早池峰スーパースプリントはエーシンシャラクが逃げ切って優勝した。このレースの前身、早池峰賞(2007年から2015年まで盛岡ダート1200メートル)を含めても、ここ10年で逃げ切りは2009年フリーモアの1度だけ。意外に逃げ切りの難しいレースであるが、ここしばらく雨の多い盛岡競馬場のダートは高速馬場。エーシンシャラクの高松亮騎手は「久々にちょっと緊張した」そうだが、好スタートで「腹をくくっていった」と逃げの手に。B2級在籍馬ながら、好時計で短距離戦を5連勝して重賞へ挑戦してきたスティルプリンスの競りかけを振り切り、自分のペースを取り戻した。最後の直線で迫ってきたのは、今季転入の元JRAオープン馬キングオブローだったが、馬体を併せるには至らず。コースレコードに0秒1と迫る58秒9でのゴールインだった。
 エーシンシャラクは岩手競馬に転入後、9回のオープン、あるいはA級特別勝ちがあったが、重賞では11戦して2着が4回あり、3、4、5着が各2回。10回までも着順掲示板に入りながら、どうしても勝ち運に恵まれなかった。それだけにここは戦前から「なんとか1つタイトルを獲らせたい」と板垣吉則調教師が語っていたように、陣営に力の入る局面。高松騎手の緊張も「人馬でいつかタイトルを」、また「若い頃からお世話になってきた(浅間勝美)厩務員さんの担当馬だったので」と、転入初戦からほとんどのレースで騎乗してきた経緯がそうさせたことは想像に難くない。ダート重賞では初めて1番人気となり、最大のチャンスが来たことをそれぞれが強く意識していたのであろう。
 エーシンシャラクの近走成績には、7走続けて『スプリント特別』のレース名が並ぶ。岩手競馬では短距離重賞が行われる開催以外で、オープンクラスの短距離戦『スプリント特別』の設定が増えている。実施されるのは水沢、盛岡の1400メートル以下で、エントリーが一定頭数あれば番組が成立する(盛岡芝1000メートルは『OROスプリント特別』として実施)。
 エーシンシャラクはすでに13戦して8勝。まさに『スプリント特別』の常連であるが、毎回様々なメンバーが短距離戦を狙って入れ替わりエントリーしている点に価値がある。全国の地方競馬を見ても、これほどオープンクラスの短距離戦(しかもコース、距離を変えて)が多い地区も珍しいだろう。
 岩手競馬はスーパースプリントシリーズに参入して2年目だが、『スプリント特別』によって、その土台となる部分が年々充実してきた。そもそもエーシンシャラクがこれまで重賞タイトルに手が届かなかった一因は、地元の短距離重賞を総なめにし、現在ダートグレード路線を戦い続けるラブバレットの存在。このラブバレットも短距離路線で活躍するきっかけとなったのは、4歳春に路線変更した『スプリント特別』での連勝だった。この番組編成が続く限り、ラブバレットやエーシンシャラク、またこれに続く存在が続々と現れるだろう。
 エーシンシャラクは9歳。レース間隔をとったローテーションを組んでいることもあり、板垣調教師は今後のレースについてはこれから考えるとしながらも「(習志野きらっとスプリントの)出走権があるんだよね」と確認はしていた。7月25日なら、まだ時間はあるだけに全国レベルの舞台を走る可能性はありそうだ。
高松亮騎手
レース前は久々にちょっと緊張しました。人馬でいつかタイトルをとりたいと思っていたので嬉しいですね。ゲート次第でしたが、上手に出たので腹をくくって先行策、あとは馬を信じて行きました。前走は少しうるさかったですが、今回は1000メートル戦であることを分かっているようでした。
板垣吉則調教師
馬場状態もあって逃げの手に出ましたが、特に指示はしておらず、騎手が良い判断をしてくれました。レース間隔をとって、状態も良かったですね。今後のローテーションはこれから考えていきますが、地元であれば1400メートルまでなら今後も好レースができると思います。


取材・文:深田桂一
写真:佐藤到(いちかんぽ)