当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。
短距離路線の充実でレベルアップ
ファイナルはスアデラが圧勝
2017年8月3日
目立つリピーターの活躍
特異な距離で争われるため、トライアルからファイナルを通してリピーターの活躍が目立つレースだが、今年もおおむねそのような傾向となった。早池峰スーパースプリントを制したエーシンシャラクは昨年の4着馬。兵庫でのデビュー以来ほとんど1400メートル以下を中心に使われてきた。かつて地方競馬はどこも古馬の上級クラスや重賞ともなると長距離偏重が顕著だったが、本レースのレースハイライトにもあるとおり、近年、岩手競馬では古馬短距離の番組が充実し、盛岡ではダート1000メートル、水沢では850メートルの特別戦が組まれるようになったのは、この馬の成績を見てもわかるとおり。そうした状況で、休養明けの昨年秋以降、早池峰スーパースプリントまでは8戦6勝、2着1回という成績。短距離路線の充実がこの馬に活躍するチャンスを与え、その結果として9歳にしての重賞初制覇となった。
川崎スパーキングスプリントは、フラットライナーズが連覇。昨年が55キロで、今年は58キロを背負っての勝利。2着馬との着差は1馬身だが、その2着馬が53キロで、5キロ差があったことを考えれば圧勝といえる内容。フラットライナーズは短距離に路線変更して成功を収めた。残念ながらファイナルの連覇までには至らず、あとで詳しく触れるが今年はファイナルの出走馬のレベルが高かった。
名古屋でら馬スプリントを制したのは、800メートル戦はデビュー戦以来の出走だった笠松のハイジャ。名古屋でら馬スプリントでは、第1回からラブミーチャンが3連覇、その後ワールドエンドが2連覇と、短距離で圧倒的に強い馬の存在があったが、ここ2年はやや低調。昨年の勝ち馬ハナノパレードもデビュー戦以来の800メートル戦で、必ずしも超短距離に適性があるとも思えず、今年も出走していたが4着だった。ラブミーチャン、ワールドエンドによる計5回の勝ちタイムが46~47秒台だったのに対し、ここ2年の勝ちタイムが48秒台であることを見てもレベルの違いがわかる。
グランシャリオ門別スプリントを制したのは、中央から再転入2戦目のタイセイバンデット。このレースは2年前に重賞に格上げされたが、その2年前の勝ち馬がポアゾンブラックで、昨年がケイアイユニコーン、そして今年のタイセイバンデットと、中央からの転入初戦もしくは転入2戦目の馬が3年連続で制することになった。2歳戦が主体のホッカイドウ競馬はどうしても古馬線戦の層が薄くなりがちで、短距離路線に限ったことではないが、そこを狙って中央の上級クラスから転入してきた馬が重賞で活躍することになる。
園田FCスプリントは、一昨年のこのレースで惜しくも半馬身差の2着だったマルトクスパートが差し切った。わずかにハナ差、粘りきれなかった高知のカッサイは昨年に続いての2着で、リピーター同士の決着となった。高知所属馬は全国に遠征しての活躍が目立つが、特にこのレースでは存在をアピール。2013年エプソムアーロン、2015年サクラシャイニーと2度の勝利があるほか、2着が2回、3着が3回。2011年(第1回)から今年までの7回で、高知勢が馬券にからめなかったのは2012年の1回しかない。
転入初戦馬の存在
迎えたファイナルの習志野きらっとスプリントには、SSSトライアル5戦の勝ち馬のうち、エーシンシャラクを除く4頭が出走してきた。2014年には、当時行われていたSSSトライアル4戦すべての勝ち馬が出走してきたことがあったが、それ以来の高確率でのSSSトライアル勝ち馬の出走となった。一方で、今年目立っていたのが中央から転入初戦の馬が5頭もいたこと。オープンから3頭、準オープンから2頭。いずれも、中央所属として地方のダートグレードに出走しようと思えば除外される可能性が高いクラスの馬たちだ。地方他地区枠なら出走が容易になり、おそらく8月15日のクラスターカップJpnⅢ出走を期待しての移籍なのだろう。ただし、南関東では転入後少なくとも1走しなければ他地区のダートグレードへの遠征は認められず、それゆえのここへの出走だったのだろう。実際にクラスターカップJpnⅢには、5頭の中からシゲルカガ、ブルドッグボス、ワディの3頭の登録があった(ワディはその後回避)。
ブルドッグボスは習志野きらっとスプリントで3着に敗れたが、初めての1000メートル戦でもあり、それがひと叩きということであれば、あらためてクラスターカップJpnⅢでは有力馬として評価するべきかもしれない。
今年は習志野きらっとスプリントへの出走条件で変更もあった。昨年までは川崎スパーキングスプリントの1、2着馬に出走権があったが、今年から同レースの優先出走権は1着馬のみ。替わって、SSSのトライアルには含まれないものの(距離が1200メートルのため)、5月3日に船橋で行われた閃光スプリントの1、2着馬に優先出走権が与えられるようになった。
その新たなトライアル、閃光スプリントを勝って臨んだのがスアデラだった。
スアデラは今年5月の復帰からこれで3連勝。短距離への路線変更が見事に当たった。2着に6馬身という着差は、1000メートル戦ということを考えれば大差といってもよく、2013年(第3回)のラブミーチャンによる5馬身差を上回る、このレース最大の着差となった。
2着のタイセイバンデットは、今回まで7回の歴史でようやく3頭目となった北海道からの遠征馬。これまで地元南関東以外の馬で3着以内に入ったのは第1回から3連覇を果たしたラブミーチャンだけで、他地区馬による3着以内はそれ以来2頭目。勝ち馬から6馬身離されたとはいえ、さまざまな意味で健闘といえる2着だった。
勝ち馬6頭の血統を見ると、父は見事にダートもしくは短距離で活躍する種牡馬ばかり。タイセイバンデットの父がおなじみサウスヴィグラスで、フラットライナーズとハイジャは同じシニスターミニスター。エーシンシャラクがタイキシャトルで、フラットライナーズの母の父もタイキシャトル。マルトクスパートの父はアメリカの快速馬アルデバランⅡ。そしてスアデラがゴールドアリュールとなっている。
最後に、昨年から習志野きらっとスプリントがナイター開催となったのは、たいへん良い。
この時期は梅雨明け直後で、関東地方の最高気温は30度超えもめずらしくない。しかも船橋競馬場はベイエリアにあるため湿度も高く、蒸し暑いことこの上ない。かつて3連覇を達成したラブミーチャンは暑さ対策にかなり苦労していた。また以前、グランシャリオ門別スプリントを勝った馬の陣営から「関東地方は暑過ぎるので遠征はしない」という話を聞いたこともある。2015年に高知から遠征し、3番人気で4着だったサクラシャイニーは夏負けの症状があったという。涼しい北海道からの遠征はもとより、それ以外の地区からの遠征でも酷暑の中での輸送は馬への負担も小さくない。この時期のナイター開催は、馬にも人にも優しい。
文:斎藤修
写真:いちかんぽ
写真:いちかんぽ