当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。

8カ月という長期に渡るシリーズ
戦いながら成長しファイナルへ

2018年1月26日

トライアルで目立った地元騎手の活躍

 2017年から新たに始まったこのシリーズ。4月26日のトライアルラウンド初戦から、年末のファイナルラウンドまで、8カ月という長期に及ぶことも驚きだったが、JRAは3月に、地方は4月に、それぞれデビューしたばかりの新人騎手まで、こうした騎手交流戦に出場するということもちょっとした驚きだった。
 しかしその新人騎手がいきなり活躍を見せたのが、5月10日のトライアルラウンド笠松だった。その第1戦。外枠からのスタートで2番手につけ、強気に3コーナー過ぎで単独先頭に立ったのが地元の渡邊竜也騎手。これに4コーナーで並びかけてきたのが、2年先輩の栗原大河騎手(金沢)。直線では一騎打ちとなり、残り100メートルを切ったところで完全に栗原騎手が前に出たものの、渡邊騎手は差し返してアタマ差での勝利。デビューしてわずか1カ月、ここまでわずか1勝しか挙げていない新人騎手らしからぬ、見事な騎乗だった。
 このシリーズでの勝利が、地元での初勝利という騎手もいた。
 2016年4月1日、同期の中でいち早くデビューした中越琉世騎手(川崎)は、なかなか勝利が挙げられないでいた。初勝利を挙げたのは、その年の10月から始めた高知での期間限定騎乗でのこと。そして5月16日に行われたトライアルラウンド川崎には、期間限定騎乗中の参戦。その第2戦を5番人気馬で逃げ切り、地元川崎で、さらに南関東での初勝利となり、多くの祝福を受けた。
 トライアルラウンド最終戦となった11月22日の浦和では、怪我のためデビューが遅れ、そのわずか1カ月ほど前にデビュー戦を迎えたばかりという地元の赤津和希騎手(浦和)が、12頭立ての11番人気で勝利。これが記念すべきデビュー以来の初勝利でもあった。
 トライアルラウンドでの地方騎手は、所属する競馬場での勝利が目立った。上記のほか、名古屋で加藤聡一騎手、門別で山本咲希到騎手、盛岡で鈴木祐騎手、船橋で臼井健太郎騎手、浦和で保園翔也騎手がそれぞれ勝利。また金沢で期間限定騎乗中だった塚本雄大騎手(高知)の金沢での勝利も入れると、トライアルラウンドで地方騎手が挙げた11勝のうち、じつに9勝が、所属する競馬場での勝利だった。
 JRA騎手では、行く先々で注目の的となる藤田菜七子騎手もトライアルラウンドで活躍を見せた。勝ち星こそ盛岡第2戦での1勝のみだったが、騎乗した6戦すべて5着以内。トライアルラウンドで騎乗したレースすべてで掲示板を確保したのは、出場した46名のなかでただひとり。トライアルラウンドポイントでは、JRA東日本で1位、JRA全体では3位の成績でファイナルへ進出した。デビューが地方の川崎(2016年3月3日)だった藤田騎手は、JRA騎手の中では地方競馬での騎乗数が突出して多く、2017年末までの2年弱の間に地方競馬で142戦(15勝)。トライアルラウンドで騎乗した川崎、盛岡、船橋はすでに騎乗経験があり、そのアドバンテージは大きかったことだろう。
 出場全46名の中で、トライアルラウンドポイント最高を獲得したのは、JRA(栗東)の森裕太朗騎手。佐賀では2戦ともに勝利し、続く園田での第1戦も制し、トライアルラウンドでの騎乗機会3連勝。シリーズ3勝を挙げたのは森騎手が唯一だった。2勝を挙げたのは、デビュー2年目の菊沢一樹騎手(JRA美浦)、そしてこの年にデビューしたばかりの渡邊竜也騎手(笠松)の2名。渡邊騎手は新人ながら、地方騎手24名の中でトライアルラウンドポイント1位でファイナル進出となった。

ファイナルでも地の利を味方に

 ファイナルラウンド大井では、第1戦を船橋の臼井健太郎騎手が、第2戦を浦和の保園翔也騎手が、ともに1番人気にこたえての勝利。残念ながら大井所属騎手はファイナル進出はならなかったが、南関東からはほかに川崎の中越琉世騎手が出場。その中越騎手は、大井の第1戦4着、第2戦3着と、2戦とも上位を確保し、ファイナルラウンド大井の2戦を終えた時点では、地元南関東の3名がポイント上位を占める結果となった。
 一転、ファイナルラウンド中山では、2戦ともJRA騎手のワンツー。ここでも“地の利”は大きかった。
 スポーツ全般にいえることだが、こうしたトーナメントやリーグ戦方式の勝ち残り戦では、技術の高い選手(チーム)が途中で敗退することはあっても、明らかに技術が劣る選手(チーム)が優勝したり、上位に進出することはほとんどない。
 そういう意味で、トライアルラウンドで活躍が目立った騎手が、ファイナルラウンドでも結果を残した。優勝した臼井健太郎騎手は、トライアルラウンド6戦のうち5戦で3着以内。地方東日本では1位だった。2位の岩崎翼騎手のトライアルラウンドは1、2、3着が1回ずつ。そしてトライアルラウンドでただひとり3勝を挙げた森裕太朗は、ファイナルラウンド中山の第2戦を制して3位となった。
 またファイナル出場騎手では、シリーズ期間中に減量を卒業する騎手も目立ち、保園翔也騎手(浦和)、加藤聡一騎手(愛知)、栗原大河騎手(金沢)、岩崎翼騎手(JRA)の4名は、ルールなどの変更がなければ、今年のシリーズが最初で最後の出場となる。

若手騎手にとって飛躍の舞台に

 優勝した臼井健太郎騎手は、トライアルラウンドから落ち着いた騎乗が目立っていた。特に地元の船橋。第1戦では、前半やや速いペースを9番手で構え、直線馬群を縫うように8番人気で差し切り勝ち。第2戦は、一転前半スローペースとなり、普段は中団追走の馬ながら逃げの手に出て、7番人気馬を3着に粘らせた。また浦和の第1戦では先行3頭前残りの流れを、中団から1頭だけ前に迫って3着に食い込んだ。しかしそれでも悔しがる姿が印象的だった。
 ファイナル大井の第1戦は、単勝1.2倍という断然人気に本人は相当緊張していたようだが、前半行きたがる馬を2番手でなんとか我慢させ、残り100メートルで逃げ馬をとらえて突き放すという完勝。そしてファイナル中山の第2戦では、本人曰く「イチかバチかの騎乗をしました」と、ペースが速くなると読んで後方に控える作戦。4コーナーでもまだ中団という位置から末脚を生かし、9番人気ながらクビ+クビ+1/2馬身というきわどい4着まで持ってきたことが優勝につながった。
 かつてワールドスーパージョッキーズシリーズで表彰台に立った吉原寛人騎手(金沢)や赤岡修次騎手(高知)は、その活躍がきっかけとなって、いままさに全国区で活躍を見せている。このヤングジョッキーズシリーズでも同様に、ここでの活躍がその後の飛躍のきっかけに、ということはおおいにありそうだ。
 今後デビューしてくる新人騎手にとっても、このシリーズは、騎手として最初に目指すべき大きな目標となることだろう。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ