当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。

第16回JBC総括

施設が充実しての川崎開催
地方競馬の売上レコード更新

2016年11月15日
文●斎藤修
写真●いちかんぽ、NAR

■内馬場、来賓席が充実

 JBC開催を機に施設の大規模改善を行う競馬場はこれまでもあったが、今回の川崎競馬場はかつてないほどの大変貌を遂げた。
 まずはかつてスタンドがあった場所に建設された複合ショッピング施設『マーケットスクエア川崎イースト』。もちろんこれはJBCが行われるから誘致したわけではなく、日本の競馬場にはこれまでになかった競馬場と一体になった複合ショッピング施設がオープンしたタイミングでの、JBC誘致となったわけだが。
 週末はWINS川崎として稼働し、平日は南関東の開催がある川崎競馬場は、“365日、馬券が買える”ことを標榜している。それだけに競馬ファンだけでなく、家族連れを呼び込むということでは、今回のJBCはかなり目標が達成されたのではないか。もともと内馬場には広大な芝生広場があり、JBC開催に合わせて可動式の日よけ屋根やキッズルームがオープン。特にキッズルームは、子供向けの玩具や子供が遊ぶ場所などを総合的に提供する著名企業のプロデュースだというから、その気合の入りようが感じられた。
 そういうわけで、前日の真冬のような寒さとは打って変わって、この時期にしては気温も高く、好天に恵まれたのは何よりだった。スタンド側からでも、内馬場ではお子さんを連れたたくさんの家族連れが遊んでいるのがわかった。
 スタンドだった場所がショッピング施設に変わったことで、当然のことながら競馬ファンが滞留するスタンドとその周辺のスペースは以前より明らかに狭くなった。とはいえ、普段の開催では、これは問題にならない程度。狭いと感じるのは大レースの開催日や正月開催の特異日だけ。そういう意味では、施設が充実した内馬場に一部のファンや家族連れなどを逃がすことに成功したといえるだろう。
 施設のリニューアルで特筆すべきは、スタンド3階にオープンした来賓席だ。事前の見学会の際に見学させていただいたが、そこは海外からのVIPを呼んでも自慢できるような豪華な空間だ。
 何年かに一度JBCの開催が巡ってくる以外、普段はGⅠ/JpnⅠ競走が行われていない競馬場でこうした施設をつくるのは無理があるが、年に何度かGⅠ/JpnⅠが行われるような競馬場には必要のように思う。
 当たり前のことだが、競馬で勝ち馬になれるのは、1つのレースに出走する十数頭のうちの1頭。圧倒的に負けることが多いのが、競馬というゲームだ。つまり馬主にしてみれば、勝ったときの喜びを味わう機会より、負けて悔しい思いをすることのほうが多い。そうしたところで、たとえ馬が勝つことはできなくとも、快適に楽しく過ごせるかどうかは重要な要素。たとえ馬が負けても楽しい思いができれば、またここに馬を連れてこようという気になる。そう感じるオーナーが増えれば、その競馬場に素質馬が集まるようになるし、レースにもより能力の高い馬が出走してくるようになる。
 川崎競馬場は、馬券ファンはもちろん、馬主などの関係者から家族連れまで、さまざまな層が、それぞれに楽しめる施設になった。


■地方馬の勝利ならず

 レース詳細については各レースのレースハイライトをご覧いただくとして、ここではレースの全体的なことについて触れておく。
 いまだJBCでの地方馬の勝利は、2007年JBCスプリントでのフジノウェーブが唯一だが、今年は例年以上に地方馬にも期待の持てる馬がいたように思う(特にレディスクラシックとスプリント)。しかし残念なことに、JBCレディスクラシックでは有力な1頭、ララベルが競走除外となってしまった。
 1番人気にこたえて強いレースを見せたのはホワイトフーガで、昨年に続いての連覇。今年で第6回とまだ歴史の浅いJBCレディスクラシックだが、第1、2回のミラクルレジェンドに続いて2頭目の連覇達成となった。
 そして今回が初ダートだったレッツゴードンキが、あわやという場面があっての2着。能力のあらたな一面を見せたといっていいだろう。
 かつて中央・地方交流の黎明期には、芝でGⅠを勝っていたホクトベガが、ダートの交流重賞戦線に参戦して10連勝と圧倒的な強さを見せたことがあった。当時、牝馬のダート交流重賞はエンプレス杯(川崎)しかなく、スパーキングレディーカップ(川崎)、マリーンカップ(船橋)、TCK女王盃(大井)などが新設され、またクイーン賞(船橋)や3歳の関東オークス(川崎)が交流競走として開放されたのはその後のこと。
 そしてダートの牝馬限定戦としては初めてのJpnⅠとして2011年に新設されたのが、このJBCレディスクラシック。ダート牝馬路線の充実は、特に中央所属馬にとっては、あらたな能力を開花させる場ともなっている。
 JBCスプリントでは、昨年1番人気ながら2着に敗れていたダノンレジェンドが圧倒的なレースぶりで、念願のJpnⅠ初制覇となった。
 レース後、管理する村山明調教師の話が印象的だった。「(ダート短距離の)ジーワンは年に一度しかないので、1年間ずっと悔しい思いをしていました」というもの。しかもその年に一度しかないダート短距離のJpnⅠは、開催場によって1000~1400メートルと条件が変わる。それを考えると、1頭の馬がJBCスプリントという、ダート短距離では唯一のJpnⅠを勝てる機会というのはきわめて限られるといえる。2000メートル前後の路線に比べて短距離の層が薄いように感じるのは、それが要因のひとつであろう。中央でも地方でも、もうひとつ春にダート1400メートル以下のGⅠ/JpnⅠがあってもいいのではないか。
 そして地方競馬的には、2番人気と期待されたソルテが実力を発揮できなかった(6着)のが残念だった。今年は1400メートルが舞台だったからこその大目標で、来年は大井開催でJBCスプリントは1200メートルになるため、距離適性的に挑戦は難しい。
 JBCクラシックはさすがに中央勢の層が厚く、1~5番人気の中央馬が掲示板を占めた。勝ったのはアウォーディーで、ダートに転向して6連勝。負け知らずのまま頂点に立つことになった。それにしても武豊騎手は、 JBC16回の歴史で、JBCクラシックを8勝。すごい記録だ。
 この路線の中央勢の層の厚さは、今年のフェブラリーステークスGⅠを制していたモーニンが除外されたことにも象徴される。日本テレビ盃JpnⅡを勝って優先出走権を獲得したアウォーディー以外の中央馬はいずれもGⅠ/JpnⅠ勝ち馬だけに、仕方ないといえば仕方ない。日本テレビ盃でのアタマ差の決着が、アウォーディーとモーニンの明暗を大きく分ける結果になった。運もあったかもしれないが、しかしそれこそがアウォーディーの勢いというものだろう。


■1日の売上げで大井の記録を超える

 ところでJBCでは以前から気になっていることがあって、それは表彰式が長いこと。普段の重賞と違って副賞や協賛が多いこともあり、カップやトロフィーだけでなく、賞品などの授与が多い。たしかに栄誉なことではあるのだが、表彰式が長いことのデメリットは少なくない。
 連続騎乗がある騎手は、次のレースへの騎乗がある。調教師も同じだ。たとえば今回、JBCスプリントをダノンレジェンドで勝った村山明調教師は、表彰式を終え、その後の共同インタビューを終えたころには、JBCクラシックの出走馬すでに返し馬を終えていた。JBCクラシック3連覇のかかるコパノリッキーを出走させていたが、その直前の状態も確認できないし、騎手への指示もできない。
 ファンにしてみれば、表彰式を見ていたのでは、次のレースのパドックを見ることもできないし、予想して馬券を買うための時間も限られてしまう。そうした状況であれば、表彰式を見ることを諦めるファンも少なくないと想像される。
 表彰式は、普段の重賞と同じ程度に、なんとかもう少しコンパクトにできないものだろうか。
 さて、当日の川崎競馬場の入場人員28,718人は、さすがに昨年の大井(34,153人)よりは少ないが、前回の川崎開催だった2014年(11月5日、平日月曜日のナイター開催)の14,797名の倍近くにもなった。
 JBC各レースの売上げは次のとおり。
 レディスクラシック 851,709,200円
 スプリント     1,015,377,000円
 クラシック     1,617,341,100円
 スプリントこそ第1回の大井で記録した1,061,103,600円に及ばなかったが、レディスクラシック、クラシックは売上レコードとなった。
 また当日1日の売上4,874,022,850円(SPAT4LOTO含む)は、地方競馬の歴代最高だった昨年の大井・東京大賞典当日(4,851,444,950円)を更新した。ちなみにJBC開催では2012年の前回川崎開催が、JRAネット投票でも発売された最初の年。そのときの1日の売上は2,692,252,800円で、その年との比較では181.0%。
 その1日の売上のうち、2012年のJRAネット投票が985,975,800円だったのに対し、今回は1,933,129,600円で196.1%と倍近い伸び。そして1日の売上に占めるJRAネット投票の割合では、2014年が36.6%で、今回は39.7%。全体に占める割合では4割弱とそれほど変わらず、現在の地方競馬の売上が好調なのは、JRAネット投票が押し上げている一方で、地方側のシステムによる売上も相当に伸びていることがわかる。