当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。

難しかった日程の調整
北海優駿馬には三冠の期待

2016年7月1日

■売上げは全6戦2年連続アップ

 11年目を迎えたダービーウイークで、まず気になったのは日程の分散。これまでは6日連続か、長くても8日間に収まっていた。それが今年は最初の佐賀から最後の園田まで18日間。これには賛否両論、というより“否”の意見が圧倒的に多かった。
 まずこのことについて、ダービーウイークなど地方競馬のシリーズ競走の調整を行っている、地方競馬全国協会・企画部にうかがった話をもとに検証してみたい。
 地方競馬の中でも南関東は早い時期に開催日程や重賞日程が発表されるが、東京ダービーの6月8日は、ダービーウイーク施行以降では2011年と同じでもっとも遅い日付。対して例年最初に行われる佐賀の日付が、ダービーウイーク施行以降ではもっとも早い5月29日に設定された。ただ近4年は6月1日か5月31日に行われているので早すぎるという印象もなかった。3年連続でJRAの日本ダービーと同じ日付でもある。まずここだけで11日間と日程が開いてしまった。
 そして兵庫に関しては、ダートグレードの北海道スプリントカップJpnⅢがこれまででもっとも早い6月9日に設定されたところに難しさがあった。全国発売の関係で兵庫ダービーはダートグレードと同日開催というわけにはいかず、1週早めて6月2日にすればダービーウイークとしては11日間に収まるところだったが、のじぎく賞から中1週になってしまうことが問題だった。のじぎく賞は3歳牝馬の重賞だが、地方競馬では牝馬の“ダービー”出走もめずらしくないゆえ仕方ない。それで兵庫ダービーはうしろにずらすしか選択肢がなかったようだ。
 ただ連続開催に縛られなかったことで、これまで金曜開催で地方競馬IPATの発売がないという貧乏くじを引いてきた名古屋が、地方競馬IPATで発売される火曜日に移行できたというメリットはあったようだ。
 それにしても北海道スプリントカップJpnⅢは、過去10年では6月11日~19日の間に行われており、例年通りの16日に引き下がっていれば兵庫ダービーが9日になって、ダービーウイークが12日間に収まったのだが……。とはいえホッカイドウ競馬もグランシャリオ門別スプリントとの兼ね合いがあったものと思われる。
 ただ地方競馬全国協会の見解として、何より重視すべきはジャパンダートダービーJpnⅠの前哨戦という位置づけ。兵庫ダービーが6月16日でも、今年は7月13日のジャパンダートダービーまで十分に間隔があることで、18日間のダービーウイークで妥協することになったようだ。
 事は各地の“ダービー”の日程調整だけでは済まされず、ダートグレードとの日程調整に加えて全国発売や地方競馬IPATでの発売もからんでくると、来年以降もダービーウイークの短期集中開催は難しいかもしれない。
 今年は岩手ダービーのみが地方競馬IPATでの発売がなかったという状況で、それぞれの“ダービー”1レースの売上げ、および前年比は次のとおり(カッコ内は、昨年→今年の地方競馬IPATでの発売の有無)。

 九州ダービー 74,522,300円 100.7%(有→有)
 北海優駿   132,660,000円 158.8%(無→有)
 岩手ダービー 68,316,500円 150.1%(無→無)
 東海ダービー 87,974,900円 138.9%(無→有)
 東京ダービー 666,150,600円 113.5%(有→有)
 兵庫ダービー 120,581,200円 107.0%(有→有)

 佐賀がわずかに前年を上回ったという程度だったが、全6レース、2年連続で前年比100%超となった。昨年、地方競馬IPATでの投票がなく今年は発売された北海優駿、東海ダービーの伸びが顕著だったのは当然として、昨年も今年も発売がなかった岩手ダービーは昨年から5割増。地方競馬IPATでの発売がなくとも、岩手ダービーは在宅投票が前年比170.1%で全体の売上げを押し上げた。


■全6戦に騎乗した吉原寛人騎手

 全体的な傾向としては、九州ダービー、北海優駿、岩手ダービー、東海ダービーと、単勝2倍以下の1番人気馬が4連勝。しかし堅い決着はひとつもなく、2着馬はいずれも4番人気以下だった。その後、東京ダービーは中央から転入初戦の3番人気馬が勝って、2着はブービー14番人気。最後の兵庫ダービーは断然人気馬が着外に沈み、6→2→9番人気と、後半2戦は大波乱といえる決着だった。
 血統的なことでは、かつて地方のダートの活躍馬にはサンデーサイレンス系自体が少なかったのが、最近はサンデーサイレンスの孫の世代の種牡馬もめずらしくなくなり、日本じゅうにその血が溢れてきた。勝ち馬の中では父・母ともに輸入馬というスティールキング(北海優駿)、エンパイアペガサス(岩手ダービー)以外の4頭はすべて父がサンデーサイレンス系の種牡馬。しかも波乱の立役者となったバルダッサーレ(東京ダービー)、ノブタイザン(兵庫ダービー)は、ともにサンデーサイレンスの3×3という血統だ。
 そして今年注目となったのは、金沢の吉原寛人騎手がダービーウイークの全6レースに騎乗を果たしたということ。近年では重賞なら騎手の所属に関係なく騎乗できるようになり、ここ1、2年で吉原騎手の全国での活躍は際立っていた。それにしても自身の所属場にダービーウイークの該当レースがないところで、全レースに騎乗するというのはスゴイとしか言いようがない。一昔前の地方競馬では想像もできなかったことだ。その中で吉原騎手は、3番人気ながら伏兵ともいえたバルダッサーレで東京ダービーを制し、九州ダービー栄城賞では4番人気のオダツで2着に入った。
 また兵庫の木村健騎手は、レースハイライトの本文でも触れられているとおり、近6年の兵庫ダービーで5勝という活躍。今年、6番人気ながら勝利に導いたノブタイザンは、3歳になってからの2戦がさっぱりという成績。展開的なことがあったにしても“ダービー”の舞台で2歳時の期待馬を復活させたという劇的なレースとなった。


■目立った生え抜きの活躍

 3歳のこの時期ということでは、例年ホッカイドウ競馬から全国にちらばった馬の活躍も目立つが、今年のダービーウイークでは、北海優駿を別とすればホッカイドウ競馬出身馬が制したのは九州ダービーのドンプリムローズだけ。北海優駿のスティールキング、岩手ダービーのエンパイアペガサス、兵庫ダービーのノブタイザンが地元生え抜きで、東海ダービーのカツゲキキトキトも地区内での移籍(笠松→名古屋)という、生え抜き馬の勝利が目立った。
 生え抜き馬の勝利ということでは、ダービーウイークではないが、高知優駿にも触れておきたい。高知優駿はディアマルコが制し、2000年のオオギリセイコー以来16年ぶりに地元デビュー馬の勝利となった。高知は近年、売上げがV字回復し、昨年の2歳戦線では早い時期に高額賞金の2歳新馬戦が組まれ、ディアマルコはまさにその勝ち馬だった。またこの世代から、高知デビュー馬が3歳12月末までに地元重賞を勝つと、30万円の特別付加賞金が支給されるようになったということもあったかもしれない。
 そしてシーズンが終わると強い2歳馬の多くが他地区へ転出してしまっていたホッカイドウ競馬でも、それなりの実力馬が転出せずにとどまるようになったというのも、ここ1、2年の傾向だ。昨年、北海優駿での落馬で惜しくも三冠を逃したオヤコダカは、2歳時に兵庫ジュニアグランプリJpnⅡで2着という実績があった。今年、王冠賞で三冠を狙うスティールキングも北海道2歳優駿JpnⅢで2着という実績ながら、移籍することなく北海道にとどまった。
 北海優駿のレースハイライトでも触れたが、ホッカイドウ競馬では今年から3歳三冠馬に2000万円(二冠の場合は250万円)のボーナスが設定されたということも大きい。
 地元生え抜き馬でダービー戦線まで盛り上げようとすれば、そうしたボーナス的な設定は必要なのかもしれない。
 移籍ということでは、東京ダービーを制したバルダッサーレが中央からの転入初戦だったことが話題になった。ちなみに南関東のクラシックには、1994年から中央からの転厩初戦でも出走できるようになっているとのこと。
 ダービーウイーク各レースの今年の1着賞金は、佐賀、北海道、岩手、名古屋が500万円で、園田が800万円なのに対し、東京ダービーは4200万円。ユニコーンステークスGⅢ(1着3500万円)より高額だ。近年、ユニコーンステークスGⅢは2勝クラスの馬では抽選で除外になる可能性もある。であれば、今後も中央から移籍して東京ダービーを狙うというケースは考えられる。移籍初戦の馬が“ダービー”を勝つのはどうかという意見も聞かれたが、賞金的にも中央と互角に渡り合うレベルが求められる南関東にあっては、すでにオープンになっているものは閉じるべきではないと思う。移籍や交流などを制限してしまうと、地区ごとに行われていた、かつての地方競馬に逆戻りしてしまう。
 ダービーウイークからジャパンダートダービーJpnⅠへということでは、前半に行われた九州ダービー、北海優駿、岩手ダービーの勝ち馬は出走に消極的だが、その後の東海ダービー、東京ダービー、兵庫ダービーの勝ち馬はいずれもジャパンダートダービーJpnⅠ挑戦に前向きのようだ。



文:斎藤修
写真:いちかんぽ