当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。
地方らしいダート血統が活躍
素質開花で短距離の頂点に
2016年7月27日
トライアル(5戦)+ファイナルの全6戦で2011年にスタートしたスーパースプリントシリーズ(SSS)だが、荒尾競馬の廃止によって2012年からはトライアルが4戦となって続けられてきた。しかし今年から盛岡にトライアルが新設、ファイナルも含めて全6戦に戻っての施行となった。
各地のトライアルからファイナルの習志野きらっとスプリントへというのが理想であるならば、トライアルに参加しようとすれば海を越えて園田に遠征しなければならない高知と佐賀、もしくはそのどちらかにトライアルが設定されるべきと思う。とはいえ、両競馬場ともSSSの条件に合致する1000メートル以下では、現状、古馬のレースは下級条件しか行われていない。高知、佐賀ではラチ沿いの砂を深くして2、3頭分空けて走ることがほとんど。スピードの出る古馬のオープンで、その距離は危険と考える面はあるのだろう。
たしかにそのような心配がされてもしかたない場面がないわけではなく、今年は川崎スパーキングスプリント、習志野きらっとスプリントで、両レースとも外枠に入ったリコーシルエットがスタート後に内に切れ込んでいき、内枠から行き脚をつけてきた馬が手綱を引いて減速せざるを得ない場面があった。
また名古屋では、名古屋でら馬スプリントへ向けたステップレースがA級、B級、C級それぞれで組まれるが、今年はそのステップレースがすべて不成立となってしまった。そのあたりはシリーズを盛り上げる上で、来年以降の課題となりそうだ。
■短距離路線の充実でレベルの底上げにも期待
SSS創設の目的として掲げられた“超短距離戦で能力を発揮する異才の発掘”ということでは、たしかにこの舞台でこそという馬が年を追うごとに増えているように思う。
今年、川崎スパーキングスプリントからファイナルの習志野きらっとスプリントを連勝したフラットライナーズが、まさにそれ。3歳2月までに5戦4勝という成績を残し、京浜盃でも2着に入ったことでクラシック路線を目指したものの、羽田盃、東京ダービーではともに二桁着順。今年4歳になって短距離路線に活躍の場を見出した。
2歳時は能力の違いだけでマイルくらいまで距離をこなしても、本来はスプリンターだったという例は少なくない。習志野きらっとスプリントを第1回から3連覇したラブミーチャンもそれに当てはまる。2歳時には1600メートルの全日本2歳優駿JpnⅠを制したが、3歳以降に力を発揮したのはダートの1400メートル以下だった。
地方の競馬場は多くが1周1200メートル以下で、現在稼働している競馬場で例外的に長いのは1400メートルの船橋と、1600メートルの門別・大井しかない。それゆえこの3場以外では、コースレイアウト的に古馬のレースとして一般的に組まれる最短のレースが1300もしくは1400メートルというところがほとんど。園田には1230メートル戦があるが、これもコースを1周する。
コーナーを4つ回るレースは道中で息が入る流れになることがほとんどで、短距離戦とは言いがたい。コーナーを回るのは3~4コーナーだけ(1~2コーナー、3~4コーナーをそれぞれひとつのコーナーと考えるアメリカ的な言い方なら“ワンターン”)という純粋な短距離戦でこそ能力を発揮する馬は確実にいて、そういう意味では、これまで地方競馬においては、短距離馬が活躍する舞台は限られていた。
今年岩手に新設された早池峰スーパースプリントで一騎打ちを演じたサカジロヴィグラスとエゴイストはまさにそういう馬で、ともに中央ではダートの1200メートルをメインに使われていた。
グランシャリオ門別スプリントを中央からの転入初戦で制したケイアイユニコーンも、中央時代は芝とはいえ1200メートル戦ばかりを使われていた。また同レースでは3着に敗れたものの、習志野きらっとスプリントに参戦(5着)したクリーンエコロジーも中央では1200~1400メートル戦を使われていた。中央の広いコースでは1400メートル戦は“ワンターン”のため短距離での資質が要求される。
園田FCスプリントを勝ったランドクイーンも中央では1200メートル以下を使われていた。
今まで地方競馬ではあまり行われていなかった、本来の意味での短距離戦が古馬の上級クラスにも増えてくれば、中央からそうした素質の高い馬が転入してくる機会も増え、レベルの底上げにもつながりそうだ。
■地方のダートでこそという血統
かつて「地方競馬に血統は関係なし」などと揶揄された時代もあったが、それは地方競馬に距離体系がほとんど存在しなかったため。昭和の時代には3000メートルの東京大賞典と1200メートルの東京盃に同じようなメンバーが出ていたこともあったし、平成の時代になっても2800メートルの東京大賞典の上位馬が、当時1月に1400メートルで行われていた東京シティ盃に普通に出ていたりした。
それでも近年では層の厚い南関東を中心に距離体系ができつつあり、さらにダートグレードの盛り上がりによって地方でこそ活躍する血統というのも見えてくるようになった。
その代表がサウスヴィグラスといえるだろう。今年のSSSでも、サカジロヴィグラス(早池峰スーパースプリント)、ランドクイーン(園田FCスプリント)と2頭の勝ち馬が出た。特に後者は母の父がサクラバクシンオーという典型的な短距離血統。中央時代は1400メートル戦に一度出走した以外は1200メートル以下をのみ使われた。兵庫に移籍後に1400メートル戦を使われたのは、おそらく番組上の都合だろう。その後1230メートル戦を2戦してSSSに参戦。日本では4つコーナーを回るレースとしては最短距離の1230メートルという設定がある園田への移籍は正解だったといえそうだ。
今年のシリーズチャンピオンとなったのはフラットライナーズ。父のシニスターミニスターは、インカンテーション(平安ステークスGⅢ)、ディーズプリモ(東京湾カップ)、ロックハンドパワー(スプリングカップ)らを出したダートの中距離血統だが、短距離適性は母の父タイキシャトルから来ているのだろう。
名古屋でら馬スプリントのハナノパレードは、必ずしも短距離血統ではないが、ゴールドヘイロー×アジュディケーティングは典型的な地方のダートでこそという配合だ。
グランシャリオ門別スプリントを勝ったケイアイユニコーンの父はキングカメハメハ。その産駒は何か不都合でもない限り、金額的に地方でデビューすることはまれで、今回は新たな活躍の場を求めての移籍と思われる。母のケイアイギャラリーが短距離のみを使われ、全5勝のうち4勝をダートで挙げていたことから、地方でもと期待されての移籍なのかもしれない。
SSSは、血統面でも新たな才能を発掘する舞台といえる。
文:斎藤修
写真:いちかんぽ
写真:いちかんぽ