未来優駿 タイトル
 10月中旬~11月上旬にかけて行われる各地の2歳主要競走(計7レース)を約3週間のうちに短期集中施行するシリーズ(2008年創設)。

 3歳馬によるダービーウイーク同様、各地の主要競走が短期間で楽しめる贅沢感や、先々への期待感を醸成できることが当シリーズ最大の魅力。また、11月以降のダートグレード競走(兵庫ジュニアグランプリ・全日本2歳優駿)への出走意識を高めることで、競走体系の整備促進にも資することが期待される。


2012年未来優駿の総括はこちらです
※下の“タブ”をクリックするとご覧になりたいレースの記事に切り替わります。


直線抜け出し混戦を断つ
菅原勲調教師が新たな一歩

 今年から岩手の2歳路線は実施形態が大幅に変わり、重賞などの上級競走がJRA認定競走に指定されるようになった。従来の特別がJRA認定競走となって重賞に格上げされ、重賞のレース数は大幅に増加したが、JRA認定競走の総数自体は減少したため、いずれもが激戦の連続。9月9日に水沢1400メートルで行われたビギナーズカップは10番人気のワタリルーブルが大逃げを打って後続を振り切ったが、ゴール前では5頭が横一線になる争いだった。
 岩手の2歳三冠路線は若駒賞、南部駒賞、金杯(明け3歳)と従来からの伝統ある3競走。デビューから芝、ダートに分かれて走っていたメンバーがここで合流。若駒賞は未来優駿シリーズに相応しく、まさに岩手競馬の未来を担う期待馬が勢揃いした。近年はワタリシンセイキ、ロックハンドスター、ベストマイヒーローにアスペクトと、単勝1倍台の馬が順当に勝利を収めていたが、今年は芝の若鮎賞を勝ったマンセイグレネードが1番人気となるも、ヴェルシュナイダー、ロックハンドパワー、ハカタドンタクと上位4頭が人気を分け合う形となり、実力拮抗の好メンバーとなったことがうかがえた。「ここで結果を出せば……」と各陣営から遠征のプランも聞こえてくる中で、若駒賞のゲートが開いた。
 しかし最終的にゴールで脚光を浴びたのは、ロックハンドパワーだった。ビギナーズカップを逃げ切ったワタリルーブルが再度ハイペースの大逃げに出るも、スムーズに差を詰めていったのはロックハンドパワーだけ。鞍上の村上忍騎手が「思っていた以上の反応でビックリした」というほどの勢いで、直線抜け出すとアッサリ3馬身差をつけてゴール。近走で僅差の勝負を続けていたライバルたちに決定的な差をつけた。ヴェルシュナイダーも勝負どころで突き放されたが、ゴールでは2着を確保し、今季開業した菅原勲調教師の重賞初制覇はワンツー・フィニッシュとなった。
 「ロックハンド」と聞けば、岩手の競馬ファンなら、昨年東京競馬場で行われたマイルチャンピオンシップ南部杯JpnⅠで競走中止し、この世を去ったロックハンドスターのことを思い出さずにはいられない。不思議なネーミングの馬だったが、ロックハンドスターは岩手3歳三冠を制し、ダービーグランプリでは他地区の強豪も倒して、まさにその名のとおり岩手の星となった。千葉浩オーナーが、今年も何頭もの2歳馬をデビューさせている中で、あえてこの馬を「ロックハンドパワー」と命名し、それがロックハンドスターの主戦騎手であった菅原勲厩舎の初重賞制覇につながるというのは、なにか不思議な力を感じさせる。菅原勲調教師に言わせれば「まだデビュー戦から一度も順調にきたことがない。それでこれだけ走るのだから、想像以上に成長している」というのも、今後への期待感を増幅させている。
 「トウケイニセイやメイセイオペラのような馬を育てたい」とは、菅原勲調教師が厩舎開業の時からあちこちで口にしていた言葉だが、早くも大きな舞台に立つチャンスをつかみそうだ。「将来全国に通用するように、遠征にも挑戦していきたい」というように、ロックハンドパワーで川崎の全日本2歳優駿JpnⅠへの挑戦が実現するかもしれない。騎手・菅原勲が引退して岩手競馬の一時代が終わったが、今年の若駒賞は岩手競馬の未来へ向けて調教師・菅原勲が一歩を踏み出す一戦となった。
村上忍騎手
1600メートルなので、出たなりで位置は考えていませんでした。展開はある程度予想通りで、仕掛ければ反応してくれる馬ですが、思っていた以上の反応を見せてくれました。まだ成長過程で幼さもありますが、距離はオールマイティで走れます。菅原勲厩舎の重賞初勝利になったのでうれしいですね。
菅原勲調教師
調整が上手くいかないところもあったのですが、思っている以上に強い勝ち方になりました。想像以上に成長しているので、もっと育てていきたいですね。騎手時代からそうですが、調教師になってからも2歳馬を走らせるのが一つの目標。次走は南部駒賞ですが、そのあとは全日本2歳優駿を目指します。


取材・文:深田桂一
写真:川村章子(いちかんぽ)