マイペースで逃げ切り勝ち
牝馬の戴冠で無敗馬に土

　まぶしい青空の下で行われた兵庫ダービー。昨年、一昨年は兵庫チャンピオンシップJpnⅡの上位入線馬がエントリーしていたが、今年はJRA所属馬が5着までを独占して、地方所属馬の最先着は6着のトライ。そういうメンバー構成なら、一冠目の菊水賞を制してデビューから5戦5勝となったポアゾンブラックに注目が集まるのは当然といえるだろう。
　そのポアゾンブラックの単勝オッズは、兵庫ダービーの出走馬がパドックを周回し始めた時には1.0倍を表示。最終的には1.1倍となったが、パドックで同馬にまたがった松浦政宏騎手もその数字は当然とばかりに胸を張って、自信に満ちた表情をみせていた。
　対して2番人気だったメイレディは、気合を前面に出して「早く走らせろ」とでも言いたげな動き。馬連複の人気はその2頭の組合せに集中し、離れた3番人気にトライ。単勝5番人気以降は50倍以上という一騎打ちムードのオッズとなった。
　その人気2頭はともに逃げ先行タイプ。展開がどうなるかと案じられたが、いちばんいいスタートを切ったのはメイレディ。そのまま今回も隊列を引っ張っていった。
　逆にポアゾンブラックはスタート後の出脚がいまひとつ。しかしすぐに順位を上げて、正面スタンド前ではメイレディを右斜め前に見る形。2周目の向正面では単独2番手に上がって、いよいよ先頭を射程圏内に入れてきた。
　しかしその差はなかなか詰まらない。最終コーナーではポアゾンブラックの松浦騎手が懸命に手を動かしているのに対し、木村健騎手はメイレディの首筋にこぶしを置いたままで、その手応えはあまりに対象的。そして最後の直線に入ったところでメイレディがラストスパートをかけて、セーフティリードの確保にかかった。
　しかしポアゾンブラックは終わっていなかった。残り100メートル付近で左手前に替わった瞬間にギアが入り、再び猛然と先頭を狙ってきた。しかしながら、その勢いを生かすにはゴールまでの距離が短すぎた。一完歩ずつ両者の差は縮まっていったが、ゴール地点ではメイレディが3/4馬身、リードを保っていた。
　メイレディ鞍上の木村健騎手は、昨年のオオエライジンに続いて兵庫ダービーを連覇。昨年は涙の勝利だったが、「今年はすがすがしいですね！」と満足気な表情を見せていた。一方、ダービーに手が届かなかった松浦騎手は「（2周目の）3コーナーで手前を替えたとき、いつもとちょっと違うと感じました。本当ならそこで脚を溜める余裕があるんですが……」とコメント。菊水賞から兵庫ダービー直行で備えてきたとはいえ、ポアゾンブラックにとってはもう少し時間が欲しかったというところなのかもしれない。
　兵庫ダービーの表彰式が終了し、ファンの声援に応えながら検量室に戻ってきた木村騎手を出迎えたのは、この日、日本ダービー優勝セレモニーに招かれていた岩田康誠騎手。2人はガッチリと握手して、何やら言葉を交わしていた。その会話にどんなニュアンスがあったのか、私にはわからない。それでも今年のダービーを制した2人の騎手からは、ダービージョッキーとしての誇り、そして兵庫の競馬を熱く想う気持ちが強く伝わってくるように感じられた。