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当時の写真や映像を交えて90年代の名勝負を振り返ります!

2020年1月15日(水)

第65回 『26年ぶりの三冠馬』
1996年 六甲盃
 ケイエスヨシゼン

「緊張で吐きそうだった」。岩田康誠騎手は今でもその時のことをそう振り返る。ウォッカ、アドマイヤムーン、ブエナビスタ、ジェンティルドンナ。数々の名馬とコンビを組んだ岩田騎手だが、その中にケイエスヨシゼンを必ず挙げる。

阪神・淡路大震災に見舞われた1995年の7月。ケイエスヨシゼンは姫路競馬場でデビュー戦に勝つ。父は大井のアラブ二冠馬ミスターヨシゼン、母ニユーマルセイユー。2歳時は園田3歳優駿に勝ち、市川賞、園田ジュニアカップはいずれも快速テンリライダーの後塵を拝し2着の8戦5勝。クラシック有力馬の1頭に数えられていた。

明けて3歳。古馬との対戦は敗れることもあったが、3歳馬同士のアメジストカップに勝ち、姫路の古馬混合を叩いて、まず一冠目の菊水賞に臨んだ。

1番人気に推された菊水賞は、ハナ切ると目されたテンリライダーが出負けし行きっぷりも悪く、押し出されるようにケイエスヨシゼンがハナに。鞍上は2歳最終戦の園田ジュニアカップから手綱を取る22歳の岩田康誠騎手。マイペースに持ち込んだケイエスヨシゼンは快調に飛ばし、4コーナーから直線に向いても手応え抜群で、持ったままで2着に5馬身の差を付け快勝。まずは一冠目を手にした。

続く楠賞全日本アラブ優駿でも、文句なしで快勝。前哨戦が不成立で使えず「状態は今ひとつ」(保利調教師)だったが、2番人気の大井・アレッポオーが飛ばすやや速い流れを、中団の5~6番手で折り合い、キタノプリンスが仕掛けたところを見計らってスパート。粘る菊水賞2着馬イワノボーイを1馬身半差交わし、二冠達成。久々に現れた大物に、1970年のアサヒマロット以来となる、兵庫2頭目となる三冠の期待が高まった。

夏場は休養せず、厩舎で調整しながら古馬相手の摂津盃でフェイトスターの2着、同じく大阪スポーツ賞でヒカサクィーンの2着。いよいよ三冠達成に向け、六甲盃へ臨む。

圧倒的単勝1番人気に推されたケイエスヨシゼン。2番人気は前走古馬相手に勝ったハッタキセキ、3番人気にテンリライダー。予想通りテンリライダーがハナに。ケイエスヨシゼンは出負けして4番手追走。しかし、折り合いに気を使った春からうまが成長し、ピッタリと折り合って追走。向正面で仕掛け、4コーナーで先頭に立つとあとは独走。2着テンリライダーに6馬身の差を付ける圧勝だった。

場内から岩田コール。それに応えて3本の指を掲げる岩田康誠騎手。28年ぶりの兵庫三冠馬が誕生した。

「これで肩の荷が降りました」と保利照美調教師。そして冒頭の言葉を残した岩田康誠騎手。三冠のプレッシャーから開放された顔は晴れやかだった。

ケイエスヨシゼンは西日本アラブダービー、タマツバキ記念名古屋杯も制し、NARグランプリ’96の年度代表馬、アラブ系4歳最優秀馬に選出されることになる。

重賞12勝を挙げ、2001年のサマーカップを最後に引退。心残りは大井の全日本アラブ大賞典に出走しなかったこと。それだけは少し残念である。その年の年末に引退式を行い、種牡馬となったが、運悪く各地でアングロアラブの競走が縮小されるタイミングと重なり、産駒はわずか13頭に留まった。2006年、心不全でこの世を去った。

筆者もこの三冠を目撃したひとりである。いつものように先輩・栗原の運転する車で夜通し高速を走り、ほぼ寝ないで目をギンギンにさせながらレースを観た。そしていつものように「俺は予約があるから」と駅で捨てられ、新幹線で帰京。帰りは爆睡し、東京まで数分で着いたような感じがしたことを覚えている。

  • 文・日刊競馬
  • 小山内 完友
  • 写真
  • いちかんぽ

六甲盃 平成8年(1996年)10月16日

アラブ系4歳全馬 1着賞金900万円 園田 2,300m 晴・重

着順 枠番 馬番 馬名 性齢 重量 騎手 タイム・着差 人気
1 6 6 ケイエスヨシゼン 牡4 54 岩田康誠 2,40.1 1
2 4 4 テンリライダー 牡4 54 米田幸治 6 3
3 5 5 イワノダイドウ 牡4 54 松平幸秀 2 5
4 2 2 ユウタ―プラダ 牡4 54 小牧太 2 4
5 1 1 ハッタキセキ 牡4 54 平松穂彦 4 2
6 3 3 センゴクヒット 牡4 54 小林克己 大差 6
7 7 7 ハッコーディガー 牡4 54 松浦政宏 大差 7

払戻金 単勝100円 複勝100円・200円・-円 枠連複310円