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当時の写真や映像を交えて90年代の名勝負を振り返ります!

2019年11月15日(金)

第64回 『ひと呼んで「女オグリ」』
1990年 東海ゴールドカップ
 マックスフリート

笠松の荒川友司調教師といえば、80~90年代に数々の名馬を輩出した名伯楽である。その荒川厩舎で牝馬と言えば真っ先に上がるのがライデンリーダーであることは、疑いようのないところ。しかし、ライデンリーダーからさかのぼる事数年前に、「東海の名牝」「女オグリキャップ」と呼ばれた牝馬がいた。それがマックスフリートだ。

父ダンサーズイメージからくる芦毛馬で、デビューから6戦は井上孝彦騎手、7戦目からは安藤勝己騎手が最後まで手綱を取った。安藤勝己騎手は当時すでに笠松のリーディングジョッキーだったが、その安藤勝己騎手が東海ダービーや岐阜王冠賞、ゴールド争覇、東海菊花賞、全日本サラブレッドカップ、東海ゴールドカップなど、当時1着賞金1000万円以上のレースで騎乗していることからも、その期待度、実力の高さがうかがい知れる。

新馬戦は“因縁の”エスエムグレートと同じレースになり、1番人気に推されたものの、2馬身半差の2着に敗れる。エスエムグレートには東海ダービーでも敗れるのだが、この馬自身、笠松版ダービーの岐阜金賞に勝ち、秋のダービーグランプリでは菅原勲騎手が操るサンドリーズン(ダービーグランプリ、不来方賞、東北優駿に勝ち、南部杯ではグレートホープの3着)の2着。石崎隆之騎手が乗るハセノトライアン(全日本3歳優駿、戸塚記念に勝ち、東京王冠賞2着)には先着しているから、当時の3歳でも全国クラスであったことは間違いない。

デビュー3戦目に初勝利を挙げ、以降3連勝。プリンセス特別2着を挟み、ゴールドジュニア、スプリングカップ、新緑賞など6連勝。牡馬相手も1番人気に推されて勝っているように、世代最強の評価であったことは間違いないだろう。古馬B1に勝ち、前述の東海ダービーは勝ち馬にまんまと逃げ切られ2着に敗れたものの、岐阜王冠賞、そして古馬相手のゴールド争覇にも勝ち、いよいよ「東海最強牝馬」の呼び声も。

しかし、初芝となったターフチャンピオンシップでは内ラチにぶつかるなどのアクシデントもあり5着に敗れた。初馬場の中京競馬場も若干影響したか。生涯で中京と大井が1戦ずつで、あとは全て笠松と名古屋競馬場で走った。「内弁慶」ではないかとの評価がついたのが、4歳時に挑戦した帝王賞だ。この時はパドックでイレ込みがキツく、馬を落ち着かせるために返し馬も出来なかった。さらにはゲートで突進し、安藤勝己騎手を振り落し…。そんな状態でも勝ったチャンピオンスターから1.4秒差の9着。タイムも2分6秒6だから、やはりこの馬は強かった。

3歳秋に話を戻す。ダートに戻ったマックスフリートは、2ハロンの距離延長となる2400mの東海菊花賞に勝ち、1着3000万円の全日本サラブレッドカップでも全国の強豪を破り勝利する。同時期に中央競馬で活躍していた同じ笠松出身の芦毛馬オグリキャップになぞらえて「女オグリ」と呼ばれたのもその頃だ。

3歳の90年、ここまで11戦9勝、2着1回、着外は芝のターフチャンピオンシップ5着だけという堂々の成績で臨んだ第19回東海ゴールドカップ。東海地区1年の締めくくりである。

「東海最強牝馬」から「東海史上最強牝馬」に肩書がグレードアップされ、当然の1番人気。2番人気は同い年のダービー馬エスエムグレート、3番人気は中央準オープンから転入2連勝中のサギヌマスペイン。このレースはハンデ戦で、前年の全日本サラブレッドカップ勝ち馬ポールドヒューマはハンデ58.5キロが嫌われ6番人気。4番人気の同厩タイプスワローは54キロ、同い年のエスエムゴールドは50キロの軽ハンデ。一方、マックスフリートは3歳牝馬にも関わらず55キロと見込まれた。

レースは東海ダービー同様、エスエムグレートが逃げ、サギヌマスペイン、ポールドヒューマ、タイプスワローと古馬勢が続く。マックスフリートはいつものように中団待機。

師走の2500m戦、レースは淡々と流れる。動き出したのは2周目3コーナー。ポールドヒューマとタイプスワローが進出する。それを見た安藤勝己騎手のゴーサインが出るとマックスフリートは芦毛の馬体をゴムまりのように躍動させて、一気に先頭に立ち、さらに後続との差を広げてゴール。2着タイプスワローとの差は5馬身にまで広がっていた。

さすがに疲れが出たか、その後は休養に入り、4歳緒戦は前述の帝王賞。またひと息入れ、秋にA1で3、1着した後、連覇を賭けて臨んだ全日本サラブレッドカップで競走中止。そのまま引退し、繁殖入りした。

「東海史上最強牝馬」の名はダテではなかった。元々きょうだいに東海ダービー馬マックスブレインやダービーグランプリ、オグリキャップ記念に勝ったナリタホマレのいる血統背景もあったが、マックスフリート自身も母として白山大賞典、マーキュリーカップに勝ったミラクルオペラを生み、牝馬の産駒グリーンヒルマックは小倉大賞典など重賞3勝のサンライズマックス、全日本2歳優駿に勝ったビッグロマンスを生み、「東海史上最強牝馬」の血は子や孫へ脈々と受け継がれている。

  • 文・日刊競馬
  • 小山内 完友
  • 写真
  • いちかんぽ

東海ゴールドカップ 平成2年(1990年)12月30日

サラブレッド系オープンハンデ 1着賞金1,200万円 笠松 2,500m 晴・重

着順 枠番 馬番 馬名 性齢 重量 騎手 タイム・着差 人気
1 6 6 マックスフリート 牝4 55 安藤勝己 2.45.5 1
2 8 10 タイプスワロー 牡5 54 井上孝彦 5 4
3 2 2 ポールドヒユーマ 牡8 58.5 青木達彦 2 6
4 5 5 シユンライオー 牡7 55 濱口楠彦 3 5
5 7 8 オグリリーダー 牡5 52 坂口重政 1/2 8
6 3 3 サギヌマスペイン 牡6 54.5 高木健 5 3
7 1 1 エスエムグレート 牡4 50 川原正一 ハナ 2
8 8 9 マーブルジヨージ セン8 53 伊藤強一 5 10
9 7 7 チェリーセイコー 牡6 53 松原義夫 1 1/2 9
10 4 4 コマツノーザン 牡7 56 安藤光彰 大差 7

払戻金 単勝160円 複勝120円・210円・200円 連複670円