当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。

船橋競馬場~ハートビートナイター~スタート

2015年6月19日
文●高橋華代子
写真●NAR


 昨年7月下旬、船橋競馬場でナイター開催が始まるというビッグニュースが発表されてから約11か月……。その時点ではまだまだ先の出来事のように思えましたが、ついにその瞬間を迎えました。

 1950年8月に開設された船橋競馬場は、今年で65周年を迎えます。地方競馬を代表する調教師や騎手が所属し、多くの名馬たちがこの砂上で育て上げられてきました。そんな人馬の宝庫でもある船橋競馬場の記念すべき年、2015年6月15日にハートビートナイターが開幕。全国では7場目(※)、南関東では3場目となるナイター競馬です。

 この日は千葉県民の日で県内の公立学校などが休みだったことはありますが、家族連れやカップルなどが数多く来場。昼間開催のメインレース時と比較しても、客層や場内のにぎわい方はかなり変化があったように思います。
14時過ぎの開門前から多くのファンが集まった
 7レース終了後には、船橋の郷土芸能のひとつ『ばか面おどり』が、地元・浜町東町内会の皆さんにより披露された後、船橋ケイバ・ハートビートナイターオープニングセレモニーを実施。点灯式には、千葉県競馬組合副管理者の松戸徹船橋市長をはじめとした皆さんと、岡林光浩調教師会長や左海誠二騎手会長も登場。岡林調教師会長は、昨年9月に亡くなった前会長の川島正行調教師の写真を抱えていました。

 進行を務める耳目社の大川充夫アナウンサーは、「(ハートビートナイターは)多くの方のご支援ご協力を頂き迎えることになりました。特に、今は亡き川島正行調教師の熱意は開催に向けて大きな推進力となりました。川島先生もこのセレモニーを天国で見守ってくださっていると思います」と。
点灯式に先立ち、船橋の郷土芸能
『ばか面おどり』が披露された
点灯式には左海騎手(右から2人目)、岡林調教師(右端)も登場
 「今日の川島先生はどんな装いで見に来ているかな。ピンクのスーツかな?袴姿かな?」と気心の知れたマスコミの皆さんとも話しながら、川島調教師に思いを馳せる一日にもなりました。

 夏至が近く午後6時半頃でもまだ明るさを残していましたが、たくさんのファンが見守る中で華やかに点灯式が行われると、その瞬間には大歓声が起こり、ついにハートビートナイター開始。

 照明に光が灯って最初に行われた8レースは、3歳馬によるハートビートナイター開幕特別。出走馬9頭のうち船橋勢が7頭、大井からの遠征馬が2頭で行われ、大井からの遠征馬ロゾヴァドリナとトウキョウムテキがワンツーフィニッシュを決めました。

 大井競馬場では1986年7月31日から日本で初めてナイター競馬が始まりましたが、船橋ナイター最初のレースで、その大井勢がワンツーフィニッシュを決めるというのも、競馬のおもしろいところ。
照明に光が灯って最初に行われた
ハートビートナイター開幕特別
勝ったロゾヴァドリナにとっても初のナイターレースだった
 優勝したロゾヴァドリナを管理する森下淳平調教師は、地方競馬を代表する1頭ハッピースプリントでもお馴染みです。

 「昼でも夜でも勝たせて頂けたのはありがたいです(笑)。夏の暑い時期は昼間よりもナイターで走った方が馬の負担も軽減されますから、強い馬を作っていくという意味でもいいでしょうし、これからもいい番組があれば出走させたいです。外から見ている立場でも、こうやって船橋競馬場が盛り上がっているのは本当によかったと感じますし、南関東全体の発展にもつながってくると思います」(森下調教師)。

 船橋競馬場の近くには自然にあふれた谷津干潟があります。貴重な水鳥をはじめとしたたくさんの生き物が生息しており、「ラムサール条約登録湿地」にも指定されている場所。船橋競馬場のナイターは、照明を低くし、光ができるだけ上空に漏れにくいような配慮がされているそうです。
照明を低くし光ができるだけ上空に
漏れにくいような配慮がされている
 その影響もあるのでしょうか?調教師や厩務員からは、「とても明るく見える」と。乗っている騎手たちに聞いても、「大井や川崎よりも明るい」という声や「特に変わらない」という声などさまざまでしたが、至って、「問題はなく乗りやすい」という声が返ってきました。

 南関東リーディングで、現在は全国リーディング争いをしている船橋の森泰斗騎手は、「光の量も十分だし、乗っていても見えにくいところはないですね。こんなにたくさんのお客さんが集まってくれると、うれしいし張り合いになります。でも、最初だけじゃなくて継続的にお客さんに集まってもらうために、ジョッキーとしては一生懸命に乗っていいレースを見せることだと思っています」。

 日もすっかり沈み、光に照らされた空間の中、船橋競馬場のナイター競馬で白熱したレースが展開されていきました。この現実にまだ実感がわかない部分もありましたが、これから船橋競馬場の風物詩として当たり前の光景になっていくのでしょう。イベントなども盛りだくさんで、余韻に浸る時間もないほどに、あっという間に過ぎていったハートビートナイター開幕初日。
 開催3日目の17日には、ハートビートナイター最初の重賞レース・京成盃グランドマイラーズが行われました。インペリアルマーチが競走除外で13頭立てになりましたが、メンバー中10頭が重賞ウイナーという超豪華メンバーが集結。

 ここを圧倒的な強さで駆け抜けたのは、吉原寛人騎手が手綱を取った1番人気ソルテ(大井・寺田新太郎厩舎)でした。レースは2番手から進め、3~4コーナーで先頭に立つと直線で後続をグングン突き放していき、2着馬に8馬身差をつける圧勝。この記念すべき開催に、地方競馬を担っていくマイラーが誕生したと言っても過言ではないでしょう。強すぎました。



 「流れに乗りたいと思っていたので、ソルテらしいレースができてホッとしました。船橋ナイター最初の重賞レースに勝たせて頂けて感謝しています。他の競馬場とも変わらないし、乗っていても安心できるナイターですね」(吉原騎手)。

 ソルテは7月29日のサンタアニタトロフィー(大井1600m)を使ってから夏休みに入る予定です。秋以降の予定は決まっていないそうですが、ダートグレードレースなど全国を舞台に戦って欲しいという声もすでに上がっています。

 南関東生え抜き馬としてデビューした頃は450キロだった体が今は500キロ。顔つきや体つきもごっつくなり、威圧感や風格を感じさせるようになりました。「どんどん変わってくれるのでやっていても楽しい。成長力のすごい馬」と関係者は口にしますが、さらにどこまで成長していくのかは未知の領域です。

 ポルトガル語で幸運という意味があるソルテ。これから南関東の、地方競馬の、明るい希望としてたくさんの幸運を運んでほしいと思います。

 さて、ハートビートナイター開幕初日の来場者は1万1320人、総売り上げも7億5974万2880円(SPAT4含む)と、例年よりも大幅アップ。その後も連日順調で、「目標を大きく上回りそうです」と千葉県競馬組合は話していて、上々の滑り出しに関係者も胸をなで下ろしています。

 「いいスタートを切れたのはよかったですが、これからが大事ですね。持続させて今後さらに盛り上げていけるように、関係者が力を合わせていかなくてはならないと思っています」(左海騎手会長)。

 「全国で言えば7番目(※)のナイターなので、珍しいものではありませんからね。ハートビートナイターを定着させて、この次、さらにその次と考えていきながら、飽きられないようにしないと。若い人たちのためにも、このナイターの光をいつまでも輝かせたいです」(岡林調教師会長)。

 船橋競馬場のナイター~ハートビートナイター~は、第一歩を踏み出しました。


※地方競馬のナイター開催は、廃止された旭川競馬を除いて船橋競馬が7場目。現在は、大井、川崎、帯広(ばんえい)、門別、高知、園田、船橋の各競馬場で、ナイター開催が行われている。