当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。

地元生え抜き5頭がダービー馬に
平成生まれの若手騎手も活躍

2015年6月12日

■まさかの落馬、まさかのしんがり

 「競馬は何が起こるかわからない」という印象が強く残ったのが、10年目の節目を迎えたダービーウイークだった。
 戦前、今回は全体的に中心馬がはっきりしているなあという印象があり、初戦の佐賀は、そのとおり単勝1.6倍のキングプライドが圧勝。続く盛岡でも単勝元返しのロールボヌールが他馬を子供扱いの圧勝。さらに多くの人がここも間違いないだろうと思った門別では、しかし単勝1.1倍のオヤコダカがスタートで躓いて落馬。競馬に落馬があることは誰でも知っているが、断然人気馬がレースをしないままということには、呆然とするしかなかった。さらにまさかと思ったのは名古屋で、こちらは単勝1.3倍のハナノパレードが3コーナー過ぎからずるずると後退してしんがり負け。競馬は難しい。
 今年ひとつ特徴的だったのが、北海優駿を別として、勝ち馬にホッカイドウ競馬デビュー馬が1頭もいなかったこと。過去5年で見ても、北海優駿を除く5戦で、勝ち馬のうち少なくとも1頭は北海道デビュー馬がいて、JRAデビュー馬も少なからずいた。ところが今年は、東海ダービーを勝ったバズーカがJRAデビュー馬だった以外は、(北海優駿も含めて)地元デビューの生え抜きが勝ち馬となった。
 たとえば南関東では一時期、3歳の重賞戦線の活躍馬のほとんどが北海道デビュー馬という印象があったが、ここ何年かは南関東デビュー馬も3歳重賞でかなりの割合で勝つようになってきた。その傾向が全国に広がってきたのかもしれない。
 血統的なことでは、JRAではサンデーサイレンス系全盛の時代に地方では必ずしもそうではなく、ダービーウイークの勝ち馬でも父がサンデーサイレンス系ではない馬も少なくない、ということを何年か前にこのダービーウイーク総括で書いたことがある。
 今回もサンデーサイレンスの血をまったく持たない馬が2頭。
 九州ダービーのキングプライドの父はサウスヴィグラス。地方のダートでは大活躍の種牡馬だが、さすがにこの距離での活躍馬は多くなく、ダービーウイークの勝ち馬では過去に2013年兵庫ダービーのユメノアトサキがいるだけ。キングプライドの距離適性は母からきているようで、母のアイディアルクインは大井から佐賀に移籍後、荒尾・九州王冠(2150メートル)、佐賀・九州大賞典(2500メートル)を勝ったという、佐賀ゆかりの血統でもある。
 もう1頭は兵庫ダービーのインディウム。父パイロは、今北米でもっとも勢いのあるプルピット系。この世代が2年目の産駒で、中央からはまだ重賞勝ち馬は出ていないものの、地方では、2013年大井・ハイセイコー記念のブラックヘブン、2014年浦和・桜花賞のシャークファングなどがいる。また今年のダービーウイークでは東京ダービー2着だったパーティメーカーもパイロの産駒。2年目のこの世代の種付けが112頭で、2012年133頭、2013年171頭、2014年129頭と、かなり高いレベルで交配頭数を確保しているので、今後の活躍もおおいに期待できそうだ。
 一方で、東京ダービーを勝ったラッキープリンスの父サイレントディールは、サンデーサイレンスの直仔。サイレントディールは中央ではGⅢを2勝したのみで、7歳時の佐賀記念JpnⅢが現役最後の勝ち星となった。その成績ではさすがに種牡馬としては恵まれず、これまでほかに重賞を勝った産駒は、福山プリンセスカップのメイライトがいるのみ。またラッキープリンスの1歳上の全兄パンパカパーティに浦和・ニューイヤーカップ2着がある。サイレントディールの全姉ビーポジティブが船橋・クイーン賞GⅢを勝っていることもあり、地方競馬とは相性がいいのかもしれない。サイレントディールは年々種付頭数が減少し、一昨年が5頭、昨年は3頭にまで減ったが、ラッキープリンスの活躍で復活ということはないだろうか。
 そのほかサンデーサイレンスが血統に入っているのは、岩手ダービーのロールボヌールが母の母の父、北海優駿のフジノサムライが父の母の父、東海ダービーのバズーカが母の母の父の父。サンデーサイレンスはもはや3代前、4代前が当たり前ということでは時代の流れを感じさせる。
 この中ではフジノサムライの父スクリーンヒーローに勢いがあり、北海優駿の5日後にモーリスが安田記念を制したほか、ミュゼエイリアン(毎日杯)、グァンチャーレ(シンザン記念)と今年になってJRAの重賞勝ち馬が3頭。またダービーウイークでは、昨年の岩手ダービーダイヤモンドカップを制したライズラインもスクリーンヒーロー産駒で、今年のシアンモア記念も制している。


■断然人気で勝った3頭はいずれも圧勝

 九州ダービー栄城賞は、グランダム・ジャパンを目指して遠征を続けていたユズチャンや、前哨戦ともいえる飛燕賞の1、2着馬が不在となって混戦、とも思えたが、フタを開けてみればキングプライドが単勝1.6倍の断然人気。2番人気マイネルジャスト、3番人気イッセイイチダイの3頭に人気が集中した。とはいえこの3頭には互いに直接対決がないという状況。それでもファンの読みは正しかった。逃げたキングプライドが3コーナーから後続との差を徐々に広げると、脚色を確認しながらマイネルジャストに5馬身差をつけての余裕の圧勝。アイディアルクインの仔ではこれまで何頭かが佐賀でデビューしていて、ネオアサティスが2009年九州ジュニアチャンピオン1着、デロースが2010年九州ジュニアチャンピオン2着、ガルホームが2011年九州ジュニアグランプリ1着など活躍したが、いずれもその活躍は2歳時。そういう意味では“ダービー”を勝ったキングプライドが出世頭となり、今後の活躍にも期待したい。  岩手ダービーダイヤモンドカップは、無敗のロールボヌールがあまりに強く、2番手3番手評価の馬たちが回避しての7頭立て。さらに1頭が出走取消となり、6頭によって争われた。ロールボヌールにあえて不安があるとすればマイルまでしか経験のない距離だったが、力があまりにも違いすぎた。ほとんど、というかまったく追われることのないまま10馬身差の圧勝。2012年から3年連続で岩手リーディング2位と躍進目覚ましい山本聡哉騎手は岩手ダービー初制覇。千葉幸喜調教師は、ヴイゼロワン、ライズラインに続いて3年連続での岩手ダービー制覇となった。  北海優駿が9頭立ての少頭数となったのも、オヤコダカ断然というムードがあったことがひとつの要因と考えられる。昨年まで1200メートルで行われていた一冠目の北斗盃が1600メートルに距離延長されたにもかかわらず、その北斗盃組で出走したのは勝ったオヤコダカのほかに、3、8、10着馬の4頭のみだったことも同じ理由だろう。冒頭でも触れたとおり断然人気のオヤコダカがスタートで躓いて落馬。こうなると他全馬にチャンスありという状況で、勝ったのは5番人気のフジノサムライ。北斗盃は8着だったが、トライアルのローズキングダム賞を勝っての挑戦だった。マイペースに持ち込み逃げ切って見せたのは、デビュー3年目の石川倭騎手だった。  ほか5戦で1番人気馬が単勝1倍台の人気を集めるという確たる本命馬が存在するなかで、東京ダービーだけが唯一の混戦といえた。京浜盃を圧勝して羽田盃2着のオウマタイムが2.9倍、羽田盃を制したストゥディウムが3.1倍と、一応は2頭が人気の中心にはなった。南関東のこの世代の重賞では、前走で大敗していても、「やっぱりこの馬、強かったんだ」と思わせることが何度かあり、それが京浜盃11着から羽田盃を制したストゥディウムであり、牝馬では南関東での初勝利が東京プリンセス賞となったティーズアライズであり、そして東京ダービーを勝ったラッキープリンスもまたしかり。ラッキープリンスは、羽田盃こそストゥディウムからコンマ2秒差の3着と好走していたものの、そこに至る過程では、京浜盃が最下位16着、クラウンカップ10着という成績で、ニューイヤーカップ以来5カ月ぶりの勝利が東京ダービーだった。2着のパーティメーカーも11月の2歳特別を勝って以降は4着が最高という成績で、南関東のリーディングを独走する小久保智厩舎のワンツーという結果。まさに“ダービー”に向けてピークに持ってきたということでは、あらためてその技術の確かさを思い知らされた。それにしても的場文男騎手の東京ダービー2着9回は残念と言ったらいいのか、表現のしようがない。  兵庫ダービーは、インディウムが単勝1.5倍、コパノジョージが3.0倍で、ファンは2頭の一騎打ちという判断を下した。インディウムは今回もスタートがイマイチだったが、この距離で地元同士ではさすがに不利というほどにはならず、すぐ前にいたコパノジョージが仕掛けた向正面から一騎打ち。しかし3コーナーを過ぎて2頭が抜けたあたりでの手ごたえの差は歴然だった。JRA勢と圧倒的に力の差があった兵庫チャンピオンシップJpnⅡではコパノジョージが先着したが、地元馬同士なら、互いに持てる力を発揮してという結果だろう。昨年はわずか2勝差で兵庫と全国のリーディングを田中学騎手に譲ることになった木村健騎手だが、それにしてもオオエライジンでの兵庫ダービー初制覇から5年間での4勝はすごい。  東海地区の2・3歳の重賞戦線で牝馬の活躍が目立つのは近年の傾向だが、それにしても東海ダービーは一瞬、牝馬限定戦なのかと見まごうほどで、フルゲート12頭で牡馬はたった1頭というメンバー。しかし勝ったのは、そのたった1頭の牡馬、バズーカだった。川西毅調教師はこれで東海ダービー4勝目だが、そのうち3頭が中央未勝利からの転入馬(ほか1頭は北海道からの転入)。バズーカもそのうちの1頭だが、他の2頭と違うのは中央から兵庫を経由して今回が転入初戦だったということ。馬主の考えだったのか、調教師の意見だったのかは、取材をしていないのでわからないが、兵庫ダービーにはインディウムがいて勝ち目がないということで、東海ダービーを狙っての転厩だったのだろうか。それにしても川西毅調教師の、馬の潜在能力を引き出す技術はすばらしい。平成生まれの今井貴大騎手は早くも東海ダービー2勝目で、ともに川西調教師の管理馬。  ダービーウイークの勝ち馬で積極的にジャパンダートダービーJpnⅠヘの参戦を表明しているのは、地元南関東のラッキープリンスのみとなっている。


■1日の売上は全場でアップ

 昨年は、地方競馬IPATでの発売があった佐賀、大井、園田で“ダービー”1レースの売上が前年比プラスとなり、発売されなかった盛岡、門別、名古屋で前年割れと明暗がわかれたが、さすがに地方競馬IPATでの発売が3年目ともなれば、そうはならなかった。今年も地方競馬IPAT発売のあったのは佐賀、大井、園田、なかったのは盛岡、門別、名古屋で昨年と変わらず、“ダービー”1レースの売得額前年比は、佐賀132.1%、盛岡95.2%、門別132.9%、大井96.7%、園田120.8%、名古屋109.6%という結果。佐賀、門別、園田での伸びが著しかった一方で、盛岡、大井は前年割れとなった。とはいえ当日1日の売上ではすべての競馬場で前年比プラスを計上しており、その点では地方競馬の馬券の売上が全国的に好調なことを示している。“ダービー”1レースの上昇率がもっとも高かった門別は、1日の売得額でも6場中唯一20%超のアップとなる124.4%だった。一時は廃止の危機にあった馬産地競馬が盛り上がるのは喜ばしい。


文:斎藤修
写真:いちかんぽ