毎年秋に行われる各地の2歳主要競走(計7レース)を短期集中施行するシリーズ(2008年創設)。2014年は10月後半、約2週間にわたり、未来を期待される優駿たちの戦いが繰り広げられます。

 3歳馬によるダービーウイーク同様、各地の主要競走が短期間で楽しめる贅沢感や、先々への期待感を醸成できることが、このシリーズ最大の魅力。また、11月以降のダートグレード競走(11/26・園田競馬場・兵庫ジュニアグランプリ、 12/17・川崎競馬場・全日本2歳優駿)への出走意識を高めることで、競走体系の整備促進にも資することが期待されます。


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小さな馬体に溢れる闘志
不良馬場を逃げ切り快勝

 カツゲキグロリアとユメハオオキクの2頭が出走を取り消し、名古屋6頭、笠松4頭の10頭で争われた、東海地区における未来優駿、ゴールドウィング賞。1番人気は名古屋のメモリードルマン。デビューから5戦3勝、2着1回と安定して結果を残してきた馬で、単勝1.6倍と圧倒的な人気を集めた。
 どんよりと厚い雲が広がって雨は降ったり止んだりを繰り返し、結局メインレースの発走直前で本降りになってしまった。馬場状態は不良。2歳の若馬たちにとっては、厳しい条件の中でスタートを迎えた。
 ゲートが開くと、1番人気のメモリードルマンが出遅れ、2番人気のオーベルジーヌもダッシュがつかない。人気馬が揃って後方を追走する、波乱含みの展開となった。先手を奪ったのは、出走馬の中で一番小柄な牝馬ヒメカイドウ。2番手には笠松のネイチャークルーズが続き、すぐに隊列が定まった。ジョッキーたちはガッチリと手綱を抑え、道中は落ち着いた流れになった。
 直線に入ると、逃げていたヒメカイドウが後続を突き放しにかかり、食い下がるネイチャークルーズに1馬身の差をつけて勝利。3着にも3番手を進んだホウライショコラが踏ん張り、行ったままの競馬で決着。人気薄の馬たちが上位を独占する波乱の結果となった。
 勝ったヒメカイドウの馬体重は388キロ。2歳牝馬といえど400キロを下回る馬は珍しい。しかし、見た目にはそれほど小ささを感じさせない、不思議な体をした馬だ。パドックで歩いている時も、すぐ後ろを歩くネイチャークルーズとの差が約80キロもあるようには見えなかった。騎乗した大畑雅章騎手も、「乗っていてそこまで小さいとは感じないですね。とにかく真面目な馬で、勝負根性があるのでどんな展開でも対応できます。体はまだまだ成長してくれると思いますけど、今のままでも十分戦って行けますよ」と、その完成度の高さを称えた。
 ヒメカイドウの父は、芝の短距離で活躍したカルストンライトオである。最近は種付け頭数が一桁まで減っていたが、孝行娘の出現で、父として初の重賞タイトルを手にした。ヒメカイドウの今後の成長度は未知数であり、さらなる活躍が期待される。
 2着のネイチャークルーズに騎乗した佐藤友則騎手は、「後ろに人気の馬たちがいたので、気にし過ぎましたね。前を楽に逃がしてしまいました」と、悔しさを滲ませていた。人気を集めた馬たちが揃って後方からの競馬になったことも、勝敗を分けた一因だろう。圧倒的な人気を集めたメモリードルマンは、後方から脚を伸ばしたものの、4着に敗れている。もともと繊細な面があるといい、今回は幼さが出てしまった形だ。
 キャリアの浅い2歳馬たちの戦いで、ほとんどの馬が1600メートルを走るのは初体験。現時点での完成度の高さ、そして対応能力の高さが勝負の決め手となった。しかし、勝ったヒメカイドウにとっても、負けた馬たちにとっても、これが戦いの始まりである。未来優駿の名に相応しく、ゴールドウィング賞に出走した馬たちは、翌年の東海ダービーで活躍している馬が多い。この先さらに成長して、新たな戦いを見せてくれるだろう。
大畑雅章騎手
今日は馬場も悪かったし、思い切ったレースをしました。メンバーは揃っていたけど、有力どころが出遅れたこともあって、展開が向きましたね。かなり小さいですけど、馬を見ると格好はいいんですよ。もともと力はあると思っていました。今後の課題はないです。体を増やすくらいですね。
山内和明調教師
行けたら行ってくれと指示していましたが、まさかあんなにスンナリ行けるとは思わなかったです。終わってみれば快勝でしたね。体は小さいですが、勝ち気で根性があって、展開に左右されないのが強みです。ここを目標にしてきたので、次走は未定ですが、大目標は東海ダービーです。



取材・文:赤見千尋
写真:岡田友貴(いちかんぽ)