圧倒的な強さで南関東二冠制覇
金沢の吉原騎手で三冠奪取へ

　“底が知れない”とはまさにこの馬のことを言うのだろう。
　今年の東京ダービーは、羽田盃を完勝したハッピースプリントがどんなパフォーマンスを見せるのかに注目が集まった。その期待は、単勝オッズ1.1倍、支持率約70％という数字にもはっきりと表れていた。陣営のプレッシャーは相当なものだったろうが、それでもハッピースプリントはその重圧をものともしない圧倒的な強さを披露した。
　8枠（15番）からのスタートとなったハッピースプリントは吉原寛人騎手がやや押しながら、先行したエスティドゥーラ、サーモピレーの後ろにつけた。「ジャパンダートダービーのことを考えて、前が速くなっても置かれずついていこうと馬に負荷をかけて乗りました」（吉原騎手）。ダービーという大舞台でも、次走を見据えたレース運びをする余裕には驚いた。馬群は固まった状態で3～4コーナーに入るが仕かける馬はいない。ハッピースプリントは持ったままの抜群の手応えだ。
　直線に入るとサーモピレーが先頭に立ったが、ハッピースプリントはその外から並ぶ間もなくあっさりと抜け出した。そのまま後続を突き放し余裕のゴールイン。力の違いをまざまざと見せつけ南関東クラシック二冠目を獲得した。
　4馬身差の2着には、中団のインで脚を溜め直線で末脚を伸ばしたスマイルピース。先行したサーモピレーが3着を確保した。
　昨年の全日本2歳優駿JpnⅠを優勝した後、北海道・田中淳司厩舎から、大井・森下淳平厩舎に転入したハッピースプリントは、東京ダービーを大目標に調整が進められてきた。京浜盃、羽田盃をいずれも完勝し、クラシックの主役として東京ダービーまで無事に駒を進めた。羽田盃の疲れがあり、状態は七分くらいだったそうだ。にもかかわらず、ライバルたちをまったく寄せつけない、圧倒的な強さを見せた。
　「騎手人生の中で一番走る馬」「古馬より大人しくてどっしりしている」「規格外の馬」「総合的に全てが凄い」。これはハッピースプリントに携わる人たちからこれまでに聞かれてきたコメントだ。今回のレースぶりを見ても、これらの言葉が示すように、まだまだこの馬の潜在能力は計り知れない。
　京浜盃から手綱を任されている吉原騎手は、他地区所属騎手として初めて東京ダービーを制することとなった。地元金沢競馬の3歳重賞にはダービーウイークに組み込まれているレースがないため、“ダービージョッキー”という称号には特別な思いがあったそうだ。
　また、この勝利の裏には、森下淳平調教師との“約束”があった。2年前の東京ダービーで、吉原騎手は森下厩舎のプーラヴィーダに騎乗し、同厩舎のプレティオラスに敗れ2着と悔しい経験をした。この時、「吉原君には絶対ダービーを獲らせる」と森下調教師から言われたそう。「約束が果たせて嬉しい」と森下調教師も笑顔でそのエピソードを語っていた。その約束を果たすこととなった立役者は、もちろんハッピースプリント。1頭の競走馬には、たくさんの人の想いが託されていることを改めて感じるところである。
　ハッピースプリントは当初、東京ダービー後に北海道へ再転入する予定だったが、森下厩舎所属のままジャパンダートダービーJpnⅠを目指すことになるようだ。規定変更により、吉原騎手もジャパンダートダービーでの騎乗が可能となった。馬主である辻牧場の辻助（つじたすく）さんにこれからの目標を聞くと「中央の馬を倒したい！」と頼もしい言葉が聞けた。2度目のJpnⅠ制覇へ、そして南関東三冠馬に向けて、ハッピースプリントへの期待は高まるばかりだ。

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