ダービーウイーク総括 タイトル

9年目に見えた時代の変化
所属の枠を超えての活躍


■ダービーのない金沢の活躍

 新しい時代を感じた、9年目のダービーウイークだった。
 まずは東京ダービーを制したハッピースプリントの鞍上が、金沢の吉原寛人騎手だったということ。レースハイライトの本文でも触れられているが、南関東以外の騎手が東京ダービーを勝ったのは初めてのこと。
 ここ2年ほど、吉原騎手は所属する金沢以外での活躍が目覚ましい。特に今年は年明けから南関東(川崎)で期間限定騎乗し、一時は南関東のリーディングを争ったほど。騎手と厩舎の結びつきが強い地方競馬の厩舎制度では、いくら騎乗技術が優れた騎手でも、他地区での期間限定騎乗でいきなり勝ちまくるということは難しく、吉原騎手は毎年のように期間限定で同じ川崎に所属することで信頼を得て、その積み重ねが今年の活躍につながっている。
 また期間限定騎乗だけでなく、重賞のピンポイント騎乗の機会でも際立っており、ハッピースプリントでの二冠制覇はその制度があって可能となったもの。吉原騎手自身も東京ダービー後のインタビューでは、「時代が変わって、(他地区の重賞に)乗せてもらえるようになって、結果が出せたことがうれしいです」と語っていた。
 期間限定騎乗の制度は、2005年3月に廃止となった宇都宮競馬に所属していた内田利雄騎手が、どこかの競馬場に移籍するのではなく、短期所属のような形でさまざまな競馬場で乗ることはできないものかという行動がひとつのきっかけとなってできたが、その期間限定騎乗と、その後にできた他地区での重賞騎乗の制度を最大限に生かして活躍しているのが、吉原騎手といえるだろう。
 “新しい”ということでは、高知と金沢の所属馬がダービーウイークで勝利を挙げたのも初めてのこと。ともにダービーウイークの該当レースが行われていない競馬場だ。
 九州ダービー栄城賞を制した高知のオールラウンドの鞍上は、地元佐賀の田中純騎手だったが、東海ダービーを勝ったケージーキンカメは人馬ともに金沢からの遠征だった。
 金沢では、かつては北日本新聞杯がダービーの位置づけだった時期があり、1999年には日本海ダービーができたが、それが行われたのも2004年まで。そして2006年にダービーウイークが始まったことで、金沢所属馬が目指すダービーは、名古屋の東海ダービーとなった。所属競馬場にダービーがないのでは、騎手にとっては容易に“ダービージョッキー”になれるものではなく、しかしその金沢から今年は吉原騎手と青柳正義騎手、2名がダービージョッキーの称号を得た。
 東海ダービーのレースハイライトでも触れられているが、青柳騎手は2003年のデビューから10年ほどあまり目立った成績がなく、しかし2012年53勝、2013年82勝と一気に勝ち星を伸ばした。不動の金沢リーディングだった吉原騎手が他地区への遠征で地元を留守にすることが多くなり、タイミングよくその浮いた勝ち星の多くを掴み取ったのが青柳騎手といえるだろう。そういう意味では、この2人が同じ年にダービージョッキーとなったのは必然だったのかもしれない。


■ジャパンダートダービーを目指して

九州ダービー栄城賞
 九州ダービー栄城賞を勝ったのは、高知からの遠征馬でも人気の一角だったニシノマリーナではなく、単勝36.6倍とあまり注目されていなかったオールラウンドのほう。前が競り合って飛ばす縦長の展開。向正面から仕掛けた単勝10番人気のテッドが直線で一旦は抜けだしたが、後方2番手から、さらに遅れて仕掛けたオールラウンドが直線で馬群を一気に飲み込んだ。近年、高知所属馬は遠征しての活躍が目立ち、管理する別府真司調教師は、牝馬のクロスオーバーと合わせ、今年佐賀の3歳主要(S1)重賞で3勝という活躍はすばらしい。
岩手ダービーダイヤモンドカップ
 岩手ダービーダイヤモンドカップは、岩手の2歳チャンピオン、ライズラインが人気にこたえての圧勝。岩手ではここまでデビュー以来3着を外さない成績。しかし冬期間に移籍した大井では、南関東クラシックの前哨戦、準重賞の雲取賞、重賞の京浜盃では、ともに勝ち馬から2秒以上の差をつけられての惨敗。とはいえ相手が、ハッピースプリントは言うに及ばず、ドバイエキスプレス、サーモピレーなど、南関東のこの世代のトップを争う馬たち。そうした強い馬たちとの厳しいレースで揉まれ、岩手に戻ったあとは、やまびこ賞が7馬身差、岩手ダービーが6馬身差(ともに2着はシグラップロード)と、2歳時よりも他馬との力差を広げた。
北海優駿(ダービー)
 ホッカイドウ競馬では、毎年のことだが2歳時の活躍馬のほとんどが他地区に転出してしまい、また一冠目の北斗盃とは距離がまったく異なることから、北海優駿での力の比較が難しい。ポイントは、距離延長への対応と、成長度合ということになるだろうか。ヤマノミラクルは2歳時には短距離を中心に使われていたものが、トライアルの1700メートル戦からこの2000メートル戦を連勝。距離を延ばすことで力を発揮した。岩手のライズラインと同じく勝ち負けにはならなかったものの、南関東での経験が力になったかもしれない。過去、ダービーウイークとなってからの勝ち馬では、三冠を制したクラキンコのほかにも、2008年のボク、2011年のピエールタイガーがその後に南関東で重賞を勝っているように、成長度ということでも、能力の高さを示している。
東京ダービー
 東京ダービーは、断然人気に支持されたハッピースプリントが他馬との次元の違いを見せつける圧勝で南関東の二冠達成。相手候補のサーモピレー、ドラゴンエアル、ドバイエキスプレスらが、京浜盃、羽田盃、そして東京ダービーと戦う中で着順を入れ替えているように、2番手以下は混戦で、ハッピースプリントの力が二枚も三枚も抜けていた。ここまで地方のダートでは無敗ということからも、10年、20年スパンでの最強クラスといっていいだろう。2着に入ったスマイルピースは、東京ダービートライアルを勝ってここに臨んだ。東京ダービートライアルは、春以降に急成長を遂げた馬をすくい上げる目的で2010年に創設され、1着馬のみに本番の優先出走権が与えられるが、その勝ち馬はこれまでいずれも本番では着外だった。スマイルピースはトライアル勝ち馬として初めて本番で結果を出したが、トライアルの勝ちタイムが2分9秒0で、東京ダービー2着のタイムが2分6秒7と、2秒以上もタイムを縮めてきたのは立派。ハッピースプリントを管理する森下淳平調教師は現在34歳で、2010年10月が初出走。東京ダービーの時期を調教師としてまだ4度しか経験していないにもかかわらず、一昨年のプレティオラスに続いて2度目の制覇。ハッピースプリントとともに今後の期待は無限だ。
兵庫ダービー
 兵庫の3歳戦線は、一冠目の菊水賞が有力馬の相次ぐ戦線離脱や別路線への出走によって重賞勝ち馬なしというメンバーで争われたが、三冠目の兵庫ダービーにはその有力馬たちが間に合った。結果、2歳時からこの世代で頂点を争うと目されたトーコーガイアが5馬身差の圧勝。2010年の北海道市場セレクションセールで2415万円(税込)で取引された馬で、同馬主で今回3着のトーコーポセイドンも同セールで1260万円(税込)と、地方デビュー馬としてはかなりの高額。吉行龍穂調教師は「(入厩してから)この1年、毎日がプレッシャーでした」というから、それだけ期待も大きかったのだろう。なお鞍上の木村健騎手は、ここ4年の兵庫ダービーで3勝、2着1回という活躍。兵庫にサラブレッドが導入(1999年)され、2000年にスタートしたこの兵庫ダービー(当初は園田ダービー)では、小牧太騎手、田中学騎手、木村健騎手が最多の3勝で並んでいる。ほかに2勝が岩田康誠騎手、下原理騎手。この名前を見るだけでもダービーというレースの重みがわかろうというもの。
東海ダービー
 東海ダービーは、リーダーズボードの回避はなんとも残念だった。ここまで地元では一方的なレースばかりで10戦10勝。兵庫ジュニアグランプリJpnⅡでも3着と、ダートグレード級の期待馬。脚部不安のため放牧に出され、復帰は未定とのこと。勝ったのは、冒頭でも触れたとおり金沢から遠征のケージーキンカメ。2週前に行われた地元の北日本新聞杯を使わずここを狙ってきたのは、自信があってのことだろう。3コーナー過ぎで先頭に立つと、一瞬気合をつけられただけで後続を突き放したというレースぶりは、まるでリーダーズボードを見るかのよう。リーダーズボードが出ていれば、おそらく2頭の一騎打ちとなったのではないか。金沢所属馬からは、いまだダートグレード勝ち馬が出ていないだけに、ケージーキンカメにはそうした期待もかかってくる。
 ダービーウイーク各レースの勝ち馬で、レース終了直後の話としてジャパンダートダービーJpnⅠ出走に前向きなのは、高知のオールラウンド、大井のハッピースプリント、兵庫のトーコーガイア、金沢のケージーキンカメの4頭。


■佐賀は日本ダービーの集客効果

 2011年から平日のみの開催となっていたダービーウイークだが、今年は佐賀が日曜日に戻したことで、2010年以来4年ぶりに6日間連続での開催となった。
 地方競馬IPATでの発売がはじまって最初のダービーウイークとなった昨年は、地方競馬IPATでの発売があった3場の売得額(ダービー1レースの売得額、以下同)が前年比100%超で、それ以外が前年比ダウンと、はっきり結果が出た。
 果たして今年も同様の結果。特に佐賀は金曜開催を日曜開催にしたことで地方競馬IPATでの発売が可能となり、56,021,500円は前年比130.5%で過去最高の売上げとなった。この日、JRAでは日本ダービーが行われ、佐賀競馬場にはJRAの馬券発売所も併設されていることから、入場人員では昨年の8倍以上となる8,915名が訪れた。残念ながら現地には行けなかったので雰囲気はわからないが、その盛り上がりを少しでも開催中の佐賀競馬に誘導できたのかどうか。
 そのほかでは、大井112.0%(607,259,500円)、園田101.7%(93,299,400円)。前年比でダウンとなったところでも、岩手99.3%(47,799,300円)、北海道97.4%(62,858,100円)、名古屋96.2%(57,766,400円)と、わずかな減少にとどまった。


文:斎藤修
写真:いちかんぽ、NAR




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