今年度は約1カ月半での短期決戦となったレディスヴィクトリーラウンド(LVR)。最終ラウンドの名古屋では、念願の初優勝に喜びいっぱいの騎手と悔しさで顔をしかめる騎手という対照的な姿が見られ、女性騎手たちのLVR優勝にかける思いが垣間見られた。
立冬を過ぎたとは思えない強い日差しの中、「名古屋は暑いですね」と話したのは別府真衣騎手(高知)。過去2度のLVRはいずれも最終戦を勝利して連覇を果たした。今年は名古屋ラウンドを前に暫定3位の35ポイント。暫定トップの木之前葵騎手(愛知)は75ポイントなので40ポイント差だが、名古屋ラウンドの2戦目は女子限定ポイント(女性騎手に限定した順位によるポイント)が2倍になる。ここ名古屋で2戦とも勝利を収めれば「3連覇を目指します」という言葉通り、逆転優勝の可能性も見えてくる。
暫定2位の宮下瞳騎手(愛知)は65ポイント。前回10月28日の高知ラウンドで1位となり、トップとの差を縮めた。「息子たちも応援に来てくれているので、カッコイイところを見せたいです」と意気込んだ。迎え撃つ木之前騎手も「2戦目にはいつも乗っているスタートの速い馬に他の騎手が乗っていて、そのうしろにつけたいですね」と地の利を生かした作戦を語った。
第1戦、好スタートを決めたのは単勝1.5倍の木之前騎手。「スタートだけ気を付けました」と、内外から並びかけてくる馬もいたが先頭は譲らず最初のコーナーを迎えた。そこに大外から出ムチを3発入れ3番手外に収まったのは別府騎手。宮下騎手は徐々に前との差を縮めて向正面では別府騎手の半馬身うしろ。しかし、「気合いを入れながらあそこまで行ったんですが、馬のペースを乱してしまったかな……」と4コーナー手前で手応えが怪しくなった。
2番手の別府騎手も大きく手が動いているのとは対照的に木之前騎手は持ったままで直線に向くと、リードを広げて1着でゴール。5馬身差2着に大畑雅章騎手、半馬身差3着に別府騎手、宮下騎手は7着だった。
レース後、別府騎手は「ひと脚を使ってくれればと思っていたんですが、(木之前)葵ちゃんが仕掛けていったらビューって離されてしまいました」と元気なく話した。最終戦を前に優勝の可能性が消えてしまった。しかし、ポイント詳細は伝えられておらず、「いろんな人に今から話を聞いて、作戦を練ろうと思います」と最終戦に向かった。
一方、依然トップの木之前騎手は最終戦で女子順位で2位以内をとれば優勝確定。こちらもポイント詳細は知らぬまま「逆転される可能性もあるんじゃないですか?」と気を引き締めてレースに向かっていった。逆転優勝の可能性が残されている宮下騎手は「最終戦は1番枠。私の好きなポジションなので、展開を考えながら3人の中で1番にこれるように頑張ります」と話した。
運命の最終戦は1600メートル。ハナを奪ったのは「スタートが速い」と木之前騎手が話していたマイサクラと大畑騎手。それを見るかたちで外に木之前騎手、宮下騎手もコーナーリングを生かしその内につけた。スタートで立ち遅れた別府騎手も「かえってハミ掛かりがちょうどよくなった」と1~2コーナーでは2人の直後。
向正面で宮下騎手が外に持ち出したが、さらにその外を別府騎手が追い上げていき、3~4コーナーでは女性騎手3名が上位を形成。別府騎手と宮下騎手は必死に先頭に迫るも、先に抜け出した木之前騎手がリードを保ち1着でゴール。「最後はもう馬が止まっていて『ハイッハイッ』って声を出しながら追いました」という木之前騎手。2馬身半差2着は別府騎手、さらに2馬身差がついての3着同着で宮下騎手だった。
連勝で総合ポイント175とした木之前騎手は、2位に90ポイントの大差をつけてLVR初優勝を果たした。昨年度は未勝利、一昨年度も1着と2着が各1回あるのみで「これまでいい結果を残せていなかったけど、ずっと優勝したかったんです」と笑顔で話した。「気持ちにゆとりがあるからか、最近ちょっとノッている気がするんです」という彼女には表彰式では「葵ちゃん、おめでとう!」と地元・名古屋ということもありファンから祝福の声が飛んだ。
85ポイントで総合2位は宮下騎手、5ポイント差で3位別府騎手。2人とも落胆の表情を浮かべながら「来年も実施されれば、優勝したいです」と競馬場を後にした。応援に駆け付けたファンは「抽選で女性騎手のトレーディングカードが当たりました」と喜ぶ人たちも見かけられ、盛り上がったLVR。現役騎手の数こそ少なくなったが、地方競馬教養センターには女性候補生も在籍している。来年度も実施されれば白熱した戦いに期待したい。
地方競馬全国協会理事長賞の
副賞として畜産品が贈呈された
取材・文:大恵陽子
写真:桂伸也(いちかんぽ)、NAR
インタビュー
第3ラウンド1位
木之前葵騎手
(愛知)
1戦目は道中の手応えがあまりない馬と聞いていましたが、馬が来たらまた反応してくれました。2戦目は勢いがついていたので早め先頭になりましたが、勝ててひと安心です。LVRで優勝したいなとずっと思っていて、今日は緊張することなく平常心で乗れました。初優勝できてめちゃくちゃ嬉しいです。
宮下瞳騎手
(愛知)
1戦目はズブい馬と聞き、気合いを入れながらポジションを上げていきましたが、前半無理をしすぎたかもしれません。2戦目は逃げ馬の後ろでいいところを取れましたが、私の力不足です。優勝できず残念です。1位じゃなかったら意味がないので、もし来年あれば優勝してポスターのセンターになりたいです。
別府真衣騎手
(高知)
優勝できず悔しいです!1戦目は「ひと脚使ってくれれば」という手応えでしたが、葵ちゃんが仕掛けたら離されていってしまいました。2戦目は終始手応えもよかったんですが、あれで逃げ切られたら相手が強かったです。次回はリベンジできるようがんばります。