好位から直線力強く抜け出す
気鋭の4歳馬が実績馬を一蹴
2016年のダートグレードレースを締めくくる大一番、東京大賞典GⅠが冬晴れの大井競馬場で行われた。当日は、3万4千人を超えるファンが訪れ大盛況。TCKイメージキャラクターの剛力彩芽さんと斎藤工さんもプレゼンターとして揃って登場し場内を彩った。出走馬14頭のうち、JRAからは7頭が参戦。そのうち5頭がGⅠ/JpnⅠ勝ち馬という豪華な面々が集結。中でも、帝王賞JpnⅠを圧勝したコパノリッキー、JBCクラシックJpnⅠでジーワン初制覇を飾ったアウォーディー、チャンピオンズカップGⅠの覇者サウンドトゥルーという、今年ダートジーワンを制している同世代の6歳馬たちに注目が集まった。人気では、ダートに転向して底を見せていないアウォーディーが単勝1.6倍と断然の支持を受けていた。しかし、今年の顔とも言える強豪たちを一蹴したのは、5番人気の4歳馬、アポロケンタッキーだった。
ゲートが開くと、予想通り内枠からコパノリッキーが先手を取った。それをぴったりマークするようにアウォーディーが2番手、3番手にアポロケンタッキーがつけた。いつもは後方待機策のノンコノユメやサウンドトゥルーも、好位でレースを進めていた。1000メートルの通過タイムが64秒8というスローペース。しかし向正面でも動く馬はおらず、直線での瞬発力勝負が予想された。
コパノリッキー、アウォーディー、アポロケンタッキー、サウンドトゥルーの4頭が併走するように4コーナーを回り、いざ直線へ。残り200メートルあたりでコパノリッキーが失速し、3頭の中から力強く抜け出したのがアポロケンタッキーだった。追いすがるジーワン馬2頭をものともせず、1馬身半の差をつけて快勝。内田博幸騎手はガッツポーズを見せ、馬の首筋をポンと叩いた。
2着を死守したアウォーディーだったが、前走に続き1番人気に応えることができなかった。武豊騎手は「道中の手応えはよかったですが、ペースが遅すぎたかもしれません。この馬らしいですけど……。また来年ですね」と残念そうな表情。しかし昨年秋からのパフォーマンスは素晴らしい快進撃だった。今後のローテーションを含め、来年もファンの注目を集めることだろう。
クビ差で3着には2番人気のサウンドトゥルー。「自分から動いていっても崩れなかったのは良かったですね」と大野拓弥騎手は前向きなコメントを残した。こちらも安定したパフォーマンスを続けており、この後もダート戦線の中心的存在になることは間違いない。
そんな実績馬たちを見事にねじ伏せ、ジーワン初制覇を飾ったアポロケンタッキー。「まさか勝てるとは思っていませんでした」と山内研二調教師は開口一番こう話した。ジーワン初挑戦となった前走のチャンピオンズカップGⅠでは、勝ったサウンドトゥルーから2馬身ほどの差で5着と健闘。1カ月経たずしてのこの逆転劇を陣営も予想していなかったようだ。また、「大井に慣れている騎手にお願いしたい」ということで、内田博幸騎手に騎乗依頼をしたとのこと。内田騎手は「走りが力強くて、返し馬の時に大井のコースに合っていると思いました。なかなかないことですが、本当に自分が考えていた通りのレースになって、理想通りの形になりました」とレース後に語った。大井コースを知り尽くしている内田騎手がアポロケンタッキーの強さを引き出したとも言えるだろう。
アポロケンタッキーという新星誕生で、来年のダート界の勢力図はどうなっていくのだろう。2017年の戦いが今から楽しみだ。
今年の東京大賞典GⅠは7着までをJRA勢が独占し、層の厚さを実感する結果となった。地方勢の中で断然の実績を誇るハッピースプリントは8着。しかし、陣営はまったく悲観していなかった。「今日は、展開につきます。今年は1着を獲れませんでしたが、このコンディションでいければまたジーワンを狙えると思います。勝てる馬ですから」と森下淳平調教師は力強く語ってくれた。ハッピースプリントの2017年初戦は、川崎記念JpnⅠを予定している。
内田博幸騎手
大井で東京大賞典に騎乗できて、しかも勝てるなんて非常に嬉しいです。この馬は持久力がある馬なのでバテないことが強味。だから4コーナーから仕かけて早めに先頭に立って押し切るかたちが良いと思っていました。このメンバーに勝ったんですから来年がとても楽しみですね。もっと強くなると思います。
山内研二調教師
前走より状態は良かったので上位のチャンスはあるんじゃないかと思っていたのですが、ペースが遅くて絶好の位置にいたのでひょっとしたらという気はしていました。距離は2000メートル以上で、長ければ長いほど良いです。心配することがない所が強味ですね。この後は一息入れて次走はこれから考えます。
取材・文:秋田奈津子
写真:国分智(いちかんぽ)
写真:国分智(いちかんぽ)