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2016年12月15日(木) 名古屋競馬場 2500m

得意の距離で引退の花道を飾る
地元の期待馬も好走を見せ3着

 名古屋グランプリJpnⅡは第1回の2001年こそ笠松のミツアキサイレンスが制したものの、それ以降はJRA所属馬が13連勝中(2005年は降雪のため中止)。しかも最近8年の3着以内馬はすべてJRA勢で、昨年は1着から5着までを独占された。
 なんとかそこに風穴を開けられぬものか。名古屋地区の新聞上では、その期待は地元重賞で負け知らずのカツゲキキトキトに向けられていた。とはいえ単勝オッズは80.6倍で7番人気。大井から遠征してきたユーロビートのほうが単勝人気としては上だった。
 しかしながら、ダートグレードレースを連勝しているケイティブレイブ、昨年の覇者アムールブリエはかなりの強敵。この2頭の馬連複は1.8倍で、一騎打ち濃厚というファンの予測通りのレース内容になった。
 スタート直後に先手を取ったのはケイティブレイブ。その直後でアムールブリエがマークして、メイショウヒコボシも差なく追走。モズライジンも先頭グループに加わっていった。
 その隊列はほとんど変わらずに進み、2周目の1コーナー手前。アムールブリエ鞍上のクリストフ・ルメール騎手が、マイペースで逃げるケイティブレイブに並びかけようとする感じで差を詰めた。
 それに呼応してケイティブレイブ鞍上の武豊騎手はスピードを上げ、後続を突き放しにかかった。3コーナーあたりでは、2番手を守るアムールブリエとの差は4馬身ほど。それはセーフティリードかに思えた。しかし4コーナー手前からアムールブリエが再び差を詰めにかかり、直線入口で入れ替わって先頭に立った。
 と同時に場内からは大きな歓声がわき起こった。3番手を走っているモズライジンを、カツゲキキトキトがまさに交わそうとしているところが大型ビジョンに映ったのだ。
 そこから先は、前2頭の勝負の行方に注目するファンの数に劣らぬほど、3着争いに釘づけになった人がいたのではなかろうか。アムールブリエはケイティブレイブに3馬身差をつけて連覇達成。2着のケイティブレイブからカツゲキキトキトまでは5馬身の差があったが、地方所属馬としては9年ぶりとなる馬券圏内。その姿に対してゴール前から拍手も聞こえてきた。
 「いやあ、走りましたね」と、カツゲキキトキトから鞍を外した大畑雅章騎手は、驚きの感情が含まれているような笑顔。錦見勇夫調教師は「そのうちダートグレードでも勝てるチャンスがあるんじゃないか」と、興奮ぎみに話した。
 一方、人気を集めたもう1頭の地方所属馬、ユーロビートは7着。吉原寛人騎手は「ノメるような感じで、本当の走りじゃなかったですね」と不満顔だった。しかし実力を持っているのは確か。このあとは大井の金盃を目標にしていくとのことだ。
 勝ったアムールブリエはこれで引退。来春はキズナを配合して、アメリカに渡る予定になっている。「今年はエンプレス杯を連覇、ブリーダーズゴールドカップを連覇、そして名古屋グランプリを連覇。偉い馬です」と、松永幹夫調教師。アウォーディー、ラニのきょうだいでもあるアムールブリエは、その繁栄の枝葉をさらに広げるべく、まずは北海道に旅立っていく。
C.ルメール騎手
スタミナがある馬なので、この距離がとてもよかったですね。2周目の1コーナーで(武)ユタカさんがペースを上げていきましたが、こちらには余裕がありました。そのあとの反応もよかったですし、最後の4コーナーでもよく伸びてくれたので、そのあたりで勝てると思いました。
松永幹夫調教師
長い距離は確実に走ってくれますね。最後のレースを無事に勝ててよかったです。ホッとしています。いい仕上がりで迎えられましたし、名古屋ならとも思っていました。これで引退ですが、これまで十分に走ってくれました。こんどはアムールブリエの仔と、それから兄弟でも頑張っていきたいです。

3着に入ったカツゲキキトキト(愛知)

取材・文:浅野靖典
写真:宮原政典(いちかんぽ)