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2016年12月4日(日) JRA中京競馬場 ダート1800m

後方2番手から直線一気に差し切る
昨年3着の雪辱で念願のJRAGⅠ制覇

 12月に入ったものの、週の半ばからの関東以西は暖かい空気に覆われて、たくさん着こんでいると暑くなってしまうという陽気。その穏やかな気候のなか、水曜日に伝わってきた2つのニュースに競馬ファンは驚かされた。
 ひとつはGⅠ/JpnⅠを10勝しているホッコータルマエが、左前脚に跛行の症状を見せたとのことで、チャンピオンズカップGⅠを回避。そして引退式の予定があった東京大賞典GⅠもキャンセルして、そのまま種牡馬入りすることになった。さらにその数時間後、武蔵野ステークスGⅢをコースレコードで制したタガノトネールが、調教時のアクシデントで骨折を発症したと報道された。
 その2頭が不在となれば、JBCクラシックJpnⅠを制したアウォーディーが人気を集めるのは当然の流れだろう。
 ただ、コーナー6回の競馬からコーナー4回の競馬に変われば、そこで活路を見いだせる馬も出てくる。JBCクラシックJpnⅠで3着だったサウンドトゥルーは、昨年のこのレースでも3着だったが、後方一気の末脚には鋭いものがあった。昨年の2着馬であるノンコノユメは、前走が去勢手術明けでマイナス15キロという馬体重。しかしながら中京競馬場よりも直線が短く平坦の川崎競馬場で見せた瞬発力には、その後への期待を感じさせた。また、JBCクラシックJpnⅠで5着だったコパノリッキーは、昨年のこのレースで単勝1番人気ながら7着に敗れてしまったが、同じコースの東海ステークスGⅡでは圧勝したことがある。
 そういったJBCの上位入線馬のなかに、2番人気で割って入ったのが、武蔵野ステークスGⅢで2着に入ったゴールドドリーム。JBCクラシックJpnⅠは補欠除外となったモーニンも5番人気に支持された。
 ひとつ前のレースまではスタンドとコースの間に多少の余裕があったのだが、チャンピオンズカップがスタートするときには完全に人で埋め尽くされた。
 先行してスピードをいかすタイプのホッコータルマエ、タガノトネールが不在となったことで、ハイペースにならないのではとみる向きもあったが、スタート地点から最初のコーナーまでが270メートルというコース形態だけに、2ハロン目に10秒7という速いラップが記録された。
 1コーナーを回ったところで先頭に立ったのはモンドクラッセで、アスカノロマンが2番手を追走。コパノリッキーは3番手でも砂を被らないような位置を取り、モーニン、アウォーディーなども先行集団を直前に見る位置を確保した。
 3コーナーを迎える手前からレースが動き始めた。コパノリッキー鞍上のクリストフ・ルメール騎手が促しぎみに仕掛け、ゴールドドリームやモーニンなども前を狙って上がっていったあたりは、さすがGⅠという厳しい流れ。勝ち時計が昨年より0秒3速く、道中のラップタイムの波は昨年よりも大きいという展開は、中団から早めのタイミングで追い上げようとした馬たちには厳しかったようだ。
 それは後方2番手を追走していたサウンドトゥルーに向く展開。4コーナーではラチ沿いを回って直線外に持ち出した。押し切りを狙ったアウォーディーにゴール直前で並び、そしてクビ差ではあるが突き抜けた。アウォーディーはダートで初めての敗戦ながらも2着は死守し、先行グループにいた単勝10番人気のアスカノロマンが3着に粘りこんだ。
 「ずっとコンビを組ませてもらっていますので、JRAのGⅠを勝つことができてホッとしています」と、大野拓弥騎手はレース後に話した。夏場は体調がいまひとつに感じたところもあったそうだが、気温が下がって体調がよくなってきたようで「今は本当に状態が良い」とのこと。確かに3月から6月は13戦して1勝、2着1回、3着が7回という結果なのだが、11月から2月までは、これで18戦して5勝、2着7回、3着が3回という成績。となれば、12月29日の東京大賞典では2年連続の優勝が期待できそうだ。

大野拓弥騎手
高木登調教師

 しかしながら、そこは上位拮抗の感があるダート中距離界。アウォーディーも再逆転を期して臨むだろうし、6着に終わったノンコノユメは次が休養明け3戦目となる。もちろん13着に大敗したコパノリッキーも、チャンピオンズカップGⅠ・12着から巻き返して2着に入った2年前の再現を狙ってくるだろう。どのようなメンバー構成になるのか楽しみだ。
 その群雄割拠のなかではあるが、「まだ成長していると感じます」(高木登調教師)というサウンドトゥルーは、6歳でも次代の主役を担っていくことになっていきそうだ。

取材・文:浅野靖典
写真:岡田友貴(いちかんぽ)