スローに流れた末脚勝負を制す
最内を狙った鞍上のファインプレー
“帝王賞の次”というポジションがすっかり定着した感のあるマーキュリーカップJpnⅢ。2000メートルは帝王賞JpnⅠやJBCクラシックJpnⅠ(今年は川崎2100メートル)、東京大賞典GⅠなど地方競馬のダートチャンピオン決定戦にふさわしい距離だが、GⅡ/JpnⅡ、GⅢ/JpnⅢとなると意外に少なく、地方では佐賀記念JpnⅢ、浦和記念JpnⅡのみ(牝馬限定戦除く)。それだけに、この条件を狙う馬は多く、JRA勢も、地方勢も、狙い澄ましたという印象の面白いメンバーが集結する。今年はそれがより顕著になり、第20回にして最高の混戦模様になった。人気は割れに割れて単勝10倍未満が5頭、3連単の1番人気は50倍を超えた。レースの流れも、人気割れを象徴するような展開。徹底先行タイプがおらず、マイネルバイカが逃げたもののペースはスロー。それを目標に各馬が追走し、残り800メートルになっても12頭がほぼ一団。完全な末脚勝負になって最後の直線を迎えた。
4コーナーでは7頭が内から外へ広がったが、この日の盛岡競馬場は内ラチ沿いを開け気味にするレースが多く、コース取りが難しい。ロスの少ない最高のルートで一旦抜け出しかかったのは、真島大輔騎手のタイムズアローだったが、その内に突っ込んできたのがストロングサウザーと田邊裕信騎手だった。「今日の馬場は難しいことを考えさせられたが、直線で内をつくバクチは、調教師と(事前に)話していた」とのこと。8枠13番からの発走だったが、4コーナー手前ではすでに内をつく態勢になっていた。「直線を向いてハミを取り直してくれた」とグイグイ脚を伸ばして突き抜けた。2着争いが大接戦になったことを考えれば、2馬身という着差は結果、完勝と言って差し支えないだろう。
地方最先着の2着タイムズアローの真島騎手は「マイネルバイカをカベにしてうまくレースを運べたが、最後に内から来られるとは……」と悔しがっていた。それでも「昨年(4着)は馬運車(故障)のアクシデントがあって力を出し切れなかった。ずっとグレードレースでやれる馬だと思っていました」とのこと。昨年の覇者ユーロビートは大外から追い込んだが4着止まり。「今年はマクるところがなかった」と吉原寛人騎手。前半スローペースで、残り1000メートルからペースアップする流れでは仕掛けるタイミングがとれなかった。また、昨年と比べて5秒以上速い勝ち時計になる馬場状態だったことも、不利に働いたかもしれない。
今回のレースにつけられたサブタイトルは、先に死亡が報じられた『メイセイオペラ追悼レース』。メイセイオペラはマーキュリーカップGⅢ(水沢)でグレードレースを初勝利し、のちのマイルチャンピオンシップ南部杯GⅠ、フェブラリーステークスGⅠ、帝王賞GⅠの優勝へとつなげた。今回でJpnⅢ・2勝目のストロングサウザーは、見事に2走か3走ごとに勝ち星を挙げて高いステージへと勝ち進んでいるが、どこまでポジションを上げていくかにも注目したい。
田邊裕信騎手
今日の馬場は内が深かったり、真ん中が伸びたりと、考えさせられました。いつになくスタートを上手に決めて、スローペースになったのも良かったですが、あまり外を回るのもどうかと思ったので、調教師と内から攻められないかと話していました。馬が直線を向いてハミを取り直して頑張ってくれました。
久保田貴士調教師