dirt
2016年5月3日(祝・火) 名古屋競馬場 1400m

出遅れも直線鮮やかに差し切る
ダート短距離路線に新星誕生

 憲法記念日の名古屋地方は風こそ強かったが降水はなく、それぞれのレースのゴール前では、例年のかきつばた記念の日以上にファンの声援が響いていた。
 その声援は時間が経つとともに大きくなり、第11レース、かきつばた記念JpnⅢのパドックはまさの黒山の人だかり。「中に入る隙間がない」と、アングルに悩むカメラマンがいるほどだった。
 このレースでは一昨年に兵庫のタガノジンガロが制し、それ以前には愛知のサイモンロード、笠松のラブミーチャンが3着に入ったこともあるのだが、今年は単勝10倍以下が5頭のJRA所属馬によって独占され、6番人気のラブバレット(岩手)でも120倍というオッズ。JRA勢のなかでも人気を集めたのは、先行力があるタガノトネールと、連勝中のノボバカラ。そして重賞2回目の挑戦となるブルドッグボスと続いていた。
 パドックで各馬に見入っていたファンは観戦エリアに移り、そして定刻にファンファーレ。その音楽に合わせて手拍子が沸き起こったのには驚いた。個人的にこのレースを5回ほど見ているが、こういう状況は初めてだ。その様子からは、JRA勢が中心ではありつつも上位拮抗といえる戦いへの期待感が伝わってきた。
 まずタイミングよく飛び出したのはスノードラゴン、タガノトネール、ラブバレット。ノボバカラはその間にはさまれる形で位置取りを下げることになった。
 1コーナー手前ではタガノトネールが先頭に。続く2番手には、初めてブリンカーを装着したレーザーバレットが続いた。その展開に場内からはどよめきが起こったが、レーザーバレット自身は行きたがっているようには見えなかった。
 その2頭は向正面でも先頭、2番手。その後ろにラブバレットが続き、そのほかのJRA勢3頭も先行グループを形成した。そして勝負どころの3コーナー手前で、ノボバカラが追撃を開始し、徐々に進路を外に取っていった。その後ろにいたブルドッグボスはインコースに切れ込み、コーナーワークで鮮やかに先頭を奪った。
 その場所を攻めたクリストフ・ルメール騎手の判断は功を奏したかに見えた。しかし外を回って加速したノボバカラの勢いは本物だった。残り50メートルあたりで先頭に立ち、最後は2馬身差で完勝。重賞初勝利となった4歳馬は、今後が大いに楽しみだ。
 ブルドッグボスはうまく立ち回るも2着。レーザーバレットは先行できたが、いつもの末脚を発揮できず3着に。続く入線順もタガノトネール、スノードラゴンとJRA勢が掲示板を独占した。
 地方最先着の6着はラブバレット。「スタートは速かったですが、内枠で窮屈になりました」と、山本聡哉騎手は消化不良といった表情。菅原勲調教師も「外枠ならスムーズに自分の競馬ができたと思うのですが」と、黒船賞JpnⅢに続いての内枠に、悔しさを感じているようだった。
 ラブバレットは今後、6月1日のさきたま杯JpnⅡを目標にするとのこと。このレースの上位入線馬も、何頭かがそのレースに向かうようだ。しかしラブバレットは地方競馬における期待の1頭。次は好勝負になることを願いたい。
ミルコ・デムーロ
騎手
初めての(古馬)重賞で相手が強いと思っていましたが、勝ててよかったです。スタートで出遅れて、道中も狭くなったところがありましたが、砂をかぶっても大丈夫でしたし、最後は外に出す形でうまくいきました。とても良い馬ですし、まだ成長しそう。次が楽しみになりました。
天間昭一調教師
出遅れたので心配しましたが、ジョッキーがうまく走らせてくれましたね。以前はマイルが中心でしたが、距離を短くしたことが3連勝の要因になったと思います。年明けからタフなローテーションで来ていますから、今後はひと息入れることになるかもしれません。今年はJBCを目標にしたいと思います。


取材・文:浅野靖典
写真:国分智(いちかんぽ)