昨年まで実施されていたワールドスーパージョッキーズシリーズが、今年は『2015ワールドオールスタージョッキーズ』として8月29日・30日に札幌競馬場で行われる。地方競馬からは2人が出場するが、そのうち1人は北海道所属騎手が選定されるため、もう1枠をめぐり全国のトップジョッキーたちの戦いが繰り広げられる。そのスーパージョッキーズトライアル（SJT）に先がけて、本戦への出場をかけた『SJTワイルドカード』が今年は金沢競馬場で開催。2レースのポイント制で上位3名が本戦への出場権を手にすることができる。出場騎手11名のうち、過去にワールドスーパージョッキーズシリーズに出場経験のある騎手が4名、また昨年の全国リーディングトップの田中学騎手（兵庫）など、ワイルドカードといえども全国の名だたる騎手が集結した。
　この日の金沢競馬場はほとんどが逃げ切り勝ちという、極端に前が止まらない馬場となっており、レース前は「どの馬が逃げるのか」「今日は逃げた者勝ちだ」などと先行争いに話題が集まっていた。しかし、そんな傾向通りにはいかないのが騎手対抗戦である。
　第1戦は、単勝1.5倍の1番人気馬に騎乗の赤岡修次騎手（高知）が先行すると予想されていたが、スタートダッシュが効かず中団の位置取りに。1枠を活かして先手を主張した青柳正義騎手（金沢）のペースでレースが進んだ。前残りの馬場ゆえに前方集団がどれだけ粘るのかに注目していたのだが、勝ったのは、なんと道中最後方を追走していた山本聡哉騎手（岩手）だった。「向正面で自分の流れだと思いました」という山本騎手は3～4コーナーで一気に進出すると、直線は大外を豪快に伸び、粘る青柳騎手をゴール前で鮮やかに差し切った。
　「ペースは関係なく、この馬のスタイルに徹しました」と、笑顔はじける山本騎手。このようなシリーズは独特なペースや展開になりやすいのだが、終始、自分の競馬を貫いた山本騎手が大きな20ポイントを手にした。2着に青柳騎手、3着に赤岡騎手が続いた。
　各ジョッキーが自分のポイントを確認して次のレースに向かう中で、第1戦で4着だった川原正一（兵庫）からこんな話が聞かれた。「札幌で乗りたいんですよ。現存している競馬場の中で（地方・中央合わせて）、札幌競馬場だけ騎乗したことないから。でも、もう56歳だし本戦に行けるだけでいいかな」。最後は謙遜した言葉だったが、胸中はかなり気合いが入っていたに違いない。第2戦は、その川原騎手がベテランらしい騎乗を見せつけた。
　「このメンバーなら逃げられる」という陣営の作戦の下、先手を奪った川原騎手。斎藤雄一騎手（岩手）が2番手でピタリとマークし、断然人気に推され連勝を狙う山本騎手は4、5番手に控えた。未経験馬が多い1900メートル戦だけに、誰かが仕かけることもなくレースが進み、勝負どころの3～4コーナーをむかえた。皆が一斉に追い出し始める中、先頭の川原騎手はちらっと後ろを確認。そして直線に入ると、追いすがる後続を尻目にゴール前でもうひと伸びし、まんまと逃げ切ってみせた。混戦の2着争いは、好位でレースを進めた山崎誠士騎手（川崎）が制し、中団から追い込んできた吉原寛人騎手（金沢）が3着に食い込んだ。
　この結果、4、1着で31ポイントを獲得した川原騎手が優勝。2位は、2、4着で26ポイントの青柳騎手。3位は1、7着で25ポイントの山本騎手となった。特に2位以下のポイントは主催者発表があるまで誰にも分からず、名前を呼ばれた山本騎手は思わず大きなバンザイ。第2戦は1番人気で敗れていただけに、安堵と喜びが炸裂した。
　「やっぱり、どんなレースでも勝つのは嬉しいねぇ」と、してやったりの笑みをのぞかせたのは川原騎手。2013年のSJTで、2位と1ポイント差の大接戦を制し優勝したことは記憶に新しいところだ。この勝負強さにファンは魅了されるのであろう。衰え知らずの大ベテランが、念願の札幌競馬場に駒を進めることができるのか注目だ。
　そして、経験豊富なジョッキー達との争いを潜り抜けた若手騎手2人。2戦ともしぶとい競馬を見せた青柳騎手と、肝の座ったレースぶりで豪快な勝利を挙げた山本騎手、どちらも本戦への出場は2回目となる。この勢いを味方にSJTでの活躍を期待したい。
　7月7日に行われるSJT第1ステージは、大井競馬場でさらなる熱戦が待っている。