[戻る]

第11回 リリーカップ 9/4(木) 門別 1200m


今年から1200m戦となった2歳牝馬の重賞・リリーカップ(門別)は、 スウェプトオーヴァーボード産駒ステファニーランが衝撃の末脚を炸裂。



 昨年までの10回は距離1000mで行われていた2歳牝馬重賞だが、8月に距離1000mの「フルールカップ」が新設されたことにより、今年から1ハロン延長の距離1200m戦として行われることになった「第11回リリーカップ」。門別1200mといえば、10月16日に行われる2歳牝馬の頂上決戦「エーデルワイス賞(JpnⅢ)」と同条件。加えてレース間隔も5週間となることから、大一番で中央馬を迎え撃つ地元代表馬決定戦の意味合いがより一層強くなった。

 デビューから2連勝中の素質馬サプライズソング(父ソングオブウインド)が出走を取り消したのは残念だったが、栄冠賞の2着&4着馬、フルールカップの2~7着馬が揃い、朝から降りつづく雨中の門別パドックへ精鋭11頭の2歳牝馬が姿を見せた。

 1番人気は、栄冠賞4着のあと、1200mのウィナーズチャレンジを快勝して臨んできたルージュロワイヤル(父フレンチデピュティ)。母のクリムゾンルージュがホッカイドウ競馬デビューから南関東へ移籍し、マリーンC2着、TCK女王盃3着、スパーキングレディーC3着など、ダートグレード戦線を沸かせた活躍馬であることも、ファンの大きな期待を背負う要因となっていたのだろう。単勝2.0倍と、1頭抜けた存在に支持された。

 少し離れた2番人気(5.0倍)に、未勝利、アタックチャレンジを連勝してきたレッドムーン(父チチカステナンゴ)。こちらも南関東で現役活躍中フォーティファイドの姪にあたる期待の血統馬だ。3番人気(6.2倍)は、前走のフルールカップで1番人気に支持されて4着に敗れたドンローズ(父プリサイスエンド)。4番人気(9.2倍)が、栄冠賞2着、フルールカップ5着と重賞で堅実な成績を収めてきたフィーリンググー(父セイントアレックス)と、ここまでが10倍を切るオッズ。フルールカップの2着馬ホワイトラヴィーナ(父スターリングローズ)、3着馬ジュエルクイーン(父キンシャサノキセキ)は、それぞれ6番人気(14.9倍)と8番人気(22.4倍)。フルールカップがコパノハートから大きく離された2、3着争いだったことから、今回のレースには直結しないと多くのファンが判断した結果なのかもしれない。ただ、この時期の2歳馬は成長途上の若駒も多く、このレースをきっかけに覚醒する大物が出てくる可能性も否定できない。どの馬にもチャンスはある、そんな空気が戦前のパドックには漂っていた。

 ゲートが開いて、ほぼ一斉のスタートとなったが、1番人気ルージュロワイヤルのダッシュがつかず、最後方に置かれてしまう。逆にダッシュよく飛び出したのがホワイトラヴィーナ、ジュエルクイーンのフルールカップ2、3着馬。2頭が並ぶような形でレースを引っ張り、外枠スタートのミラクルフラワー(父プリサイスエンド)、ドンローズ、レッドムーンらも差がなく追走。3~4コーナーに差し掛かかったところで、外をまわしてルージュロワイヤルもポジションを上げていく。直線に入ると、最内に入れたレッドムーンが先頭に立ち、二の脚を使って粘り込みを図ろうとする。後続各馬も差を詰め、横一戦に数頭が並ぶ白熱した展開に。残り200のハロン棒を過ぎたあたりで馬場のまん中からドンローズ、その外からジュエルクイーンが並んで抜け出し、レッドムーンを交わしてゴールを目指す。この2頭で決まるかと思ったところに、大外から飛んできたのがステファニーラン(父スウェプトオーヴァーボード)。直線に入ったところでは最後方に位置していたが、松井伸也騎手がゴーサインを出すと同時にギアが入り、その左ムチに応えて力強く脚を伸ばす。見る見る間に前との差を詰め、ゴール手前で図ったように全馬を差しきって優勝。まさに“ごぼう抜き”という言葉がピッタリとはまる、目の覚めるような末脚だった。

 松井伸也騎手は、栄冠賞のティーズアライズでも同じような戦法で初重賞制覇を成し遂げており、「最後は必ず良い脚を使ってくれる」という愛馬との信頼関係のもと、見事に重賞2勝目を飾った。また先日のブリーダーズゴールドジュニアカップでオヤコダカを優勝に導いた阪野学騎手も、そつのないレース運びでジュエルクイーンを惜しい2着に持ってきている。他地区から移籍してきた若手騎手が、2歳馬たちの能力を存分に引き出している今年のホッカイドウ競馬。馬だけでなく、この地から未来のスタージョッキーも誕生してきそうな勢いだ。

 ステファニーランは、父スウェプトオーヴァーボード、母ティンバーランド、母の父ティンバーカントリーという血統。門別競馬場のすぐ近くにあるむかわ町の上水牧場で生まれており、2008年の日本ダービー2着馬スマイルジャックの姪にあたる。母のティンバーランドは現役時代、フロイラインカップを制した道営所属の活躍馬で、今回の勝利は母娘でホッカイドウ競馬の重賞制覇という快挙でもあった。その血統背景からも、このレースをきっかけとしたさらなる飛躍が期待される馬だ。

 また惜しくも2着に敗れたジュエルクイーンも、エルコンドルパサーが制したNHKマイルカップの3着馬スギノキューティーの孫にあたる良血馬。3着のドンローズまで着差は、半馬身、半馬身と、展開次第では順位が入れ替わっても不思議ではない実力を証明した。いよいよ迫ってきた大一番「エーデルワイス賞」に向けて、強豪JRA勢を迎え撃つ地元馬の体制は整った。



松井伸也騎手コメント
とにかくもまれない競馬をしようと思い、後方からレースを進めました。道中の手応えも十分でしたし、前走でも終いはしっかり伸びてくれたので、今回も自信を持ってイメージ通りに乗れました。素直に反応してくれて、非常に乗りやすい馬。重賞で最高に気持ちの良い勝ち方ができて、本当に嬉しいです。
 
松本隆宏調教師コメント
少し気の悪いところがあるので、砂を被ったりしたらどうかな…という不安もあったのですが、ジョッキーがうまくなだめて乗ってくれましたね。直線は「きたな、きたな」という感じで見てたのですが、まさか全馬差し切るとはビックリです。この調子でエーデルワイス賞へ駒を進められれば良いですね。
  文:浜近英史(うまレター)
写真:中地広大(うまレター)