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2019年11月13日(水)

『この日、今まで見たことのない浦和になる。』

なんとも絶妙なキャッチコピーだと思った。初めて浦和競馬場で開催されるJBC。期待もあれば、不安も少なからずあったはず。だが不安は杞憂に終わり、期待を裏切らない結果になったのではないだろうか。

主催者の最大の課題は競馬場までのアクセスだったという。浦和競馬場駐車場の利用を禁止。住宅街のど真ん中にある競馬場だけに、周辺の道路を一時車両通行止めにするなど、渋滞緩和に努めた。そのうえで、南浦和駅から運行している無料送迎バスのルートを変更。浦和レッズの試合などでノウハウのあるバス会社に委託することで、スムーズなピストン輸送を実現した。約3分おきに2台が同時に発車するため、むしろ通常より快適だったという声もあったほどだ。無料送迎バスは通常は運行のない東浦和駅からも約10分おきに発車。ほかに臨時駐車場(埼玉県庁、大間木公園)からのシャトルバスも運行していたが、あくまでも南浦和駅、浦和駅からの徒歩を推奨。十分すぎるほどの対策が施された。

前夜に強い雨が降る時間帯もあったようだが、当日は朝から好天に恵まれた。午前9時を予定していた開門時刻は午前8時半に繰り上げ。その時点で正門の待機列には1,080人が並んでいたという。いわゆる開門ダッシュが予想されたため、50人ずつの入場にするなどの対応がとられた。入場料は無料。通常は入場料を投入すると開くゲートが開放され、それもスムーズな入場につながったようだ。指定席券はすべて前売りで発売。JBCに向けて新築された今年9月オープンの2号スタンド、4コーナーよりにある平成4年1月オープンの3号スタンドともに完売で、指定席券売り場は閉じられ、その前には仮設トイレが並んでいた。

競馬場内のイベントは最小限にとどめられた。馬場の中央を左右に藤右衛門川が流れる敷地。スタンドは河岸段丘の段丘崖に建てられ、出走馬は段丘面にあるパドックから坂道を下って馬場に入場する。もともとイベントを実施できるような場所が少ないうえに、パドック脇の芝生広場には仮設の臨時記者室と馬主下見所観覧席が設置され、通常よりもスペースが限られていた。イベントを最小限にしただけではなく、予想士の場立ち台を通常とは違う正門通路沿いのパドック向きに移動したり、畜産サンプリングキットの配布が行われたテントは配布終了とともに撤去するなどして、ファンが滞留しそうな場所を広めに確保。北門付近で行われたグルメイベント以外は浦和駅東口駅前市民広場でサテライトイベントを行い、場内は純粋に競馬を楽しみたいファンのための空間になっていたと思う。その甲斐だろうか、1Rから直線の攻防に大歓声。早くも見たことのない光景が広がっていた。

もっとも、初めて浦和競馬場に訪れる若いファンにとっては、場内に残るレトロな売店の数々が何よりのイベントだったかもしれない。その売店に並ぶ待機列をはじめ、この日のために考え抜かれたファンの動線や、場内のいたるところに配置された誘導員の的確さにも感嘆の声が上がっていた。ちなみに黄色いカレーでおなじみの里美食堂のカレーライスは「注ぎ足し注ぎ足しで出したので、何食出たのかよく分からないんです。普段が50食くらいなので、200食は出ていたと思いますが…」と里美さん。午後3時ごろには完売していたという。


  • JBCレディスクラシック

  • JBCスプリント

  • JBCクラシック

3競走の詳細はレースハイライトを参照していただくとして、どれも見ごたえのあるレースになったのではないだろうか。浦和に対応するためにオーバルスプリントを経験して臨んだヤマニンアンプリメの圧勝。地元での開催に合わせて復活のスケジュールを組んできたブルドッグボスの差し切り。浦和でも強い馬は強いと実感させられたチュウワウィザードとオメガパフュームのたたき合い。クラシックなどは小回りの浦和だからこそ生まれた名勝負ともいえそうだが、トリッキーなのは特に1600mがそうなのであって、JBCが開催された競馬場では名古屋や園田に比べれば直線も長い。持ち回りで開催される以上、こういう年があるのもJBCの特色といっていいだろう。無事故で終わることができなかったのは残念だが、事故の起きた場所と内容を考えると浦和だから起きたというものでもない。いつの日かまた浦和で開催されることを期待しながら、まずは負傷した戸崎圭太騎手の一刻も早い回復を願いたい。

浦和で開催されることで期待されたのは地方馬の活躍。特に地元の浦和勢には大きな期待が寄せられた。とはいえ名古屋、園田でも地方馬は勝てなかった。過去2頭の地方馬の勝利は大井が舞台。小回りなら勝てるという単純なものでもない。浦和のブルドッグボスがスプリントを制したのは小久保智調教師が地元での開催に並々ならぬ意欲で取り組んできた成果だろう。史上3頭目の地方馬によるJBC制覇。これも見ごたえのあるレースになったと思える要因といえそうだ。

興行面の目標は入場が30,000人、当日の総売り上げが60億円だったという。結果は入場が29,191人、当日の総売り上げが5,831,511,430円(SPAT4LOTOを含む)。どちらもわずかに届かなかったが、総売り上げについては2016年の川崎で記録した4,874,022,850円(同)を10億円近く上回る地方競馬開催のJBC当日レコード。健闘といえる結果ではないだろうか。京都で行われた昨年の数字には遠く及ばないが、やはりJRA開催は別もの。この10億円がJRAネット投票の購買層を少しでも多く取り込めた成果であれば、昨年のJRA開催による宣伝効果は十分にあったということになる。入場人員についてはどう評価すべきか。場内でもネット投票を推奨していたほどで、混雑に対する心配の方が上回る状況だったが、それでいて2017年の大井、2016年の川崎をわずかながら上回った。藤田菜七子騎手が騎乗したコパノキッキングの参戦によるところもあっただろうが、それも昨年があったからこそと考えるべきなのかもしれない。

レース名 今年度売り上げ 一昨年までの地方競馬レコード
レディスクラシック 1,131,146,900円 851,709,200円
(2016年・川崎)
スプリント 1,626,144,900円 1,079,040,900円
(2017年・大井)
クラシック 1,798,313,800円 1,812,368,300円
(2017年・大井)

今年の3競走の売り上げと、それぞれの一昨年までの地方競馬レコード

レディスクラシック、スプリントで地方競馬レコードを大幅に更新した。3競走すべてで10億円を超えたことはJBCの認知度が上がったことの証明か。スプリントはクラシックに迫るほどの売り上げで大躍進。これは藤田菜七子騎手のコパノキッキングによるところが大きいように思う。高松宮記念を制したミスターメロディ、地元の期待を集めたノブワイルドなどの存在も相乗効果を生んだのだろう。クラシックの売り上げが伸び悩んだのは馬券的には大波乱に終わったスプリントの結果も少なからず影響したか。それでも3競走トータルで最高の売り上げを記録。クラシックがJBCのメインとして定着していることを物語る。

来年は3年ぶり8回目の開催となる大井競馬場で3競走が、そして新設の2歳優駿が門別競馬場で開催される。史上初の2場開催が興行面にどう影響するのか。今後を占う意味でも注目の開催になりそうだ。

  • 構成
  • 牛山基康
  • 写真提供
  • いちかんぽ