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レースハイライト

第39回 浦和記念 JpnⅡ

2018年11月23日(祝・金) 浦和競馬場 2000m

思わぬ展開も一気のマクリ 直線独走で久々のタイトル

 厩舎関係者と話をしていると、ときおり「勝つときはこんなもの」という言葉が口をついて出ることがある。“こんなもの”にはさまざまな意味が含まれているが、主だったものとしてベストな位置取り、有利な展開、そして馬の前向きさや、鞍上の絶妙な仕掛けなどが挙げられる。それらがすべてかみ合った場合は、あっさりと栄冠が訪れるもの。今回のオールブラッシュの完勝劇を見ながら、改めてそんなことを感じた。
 昨年の川崎記念JpnⅠを勝利した際も、今年のかしわ記念JpnⅠで2着した際も、オールブラッシュはハナを切っていた。気分良く運べれば持ち前の高い能力を発揮できるタイプで、田邊裕信騎手もスタート前は先手を奪うつもりでいたという。しかし、内枠のトーセンデューク、東京記念を逃げ切ったシュテルングランツと、浦和・小久保智厩舎勢がダッシュ良く飛び出し、オールブラッシュは6番手のインにつける苦しい展開になった。
 ところが2周目の向正面で外に持ち出したオールブラッシュは、手応え良く加速。そのまま4コーナー手前で先行集団を飲み込むと、2着のグリムに4馬身差をつけて押し切った。
 これまでにない勝ち方、しかも直線独走という圧勝を演じたことで、陣営も喜びと驚きが入り交じった表情を見せた。「ワンペースのところがあって、レースではうまくいかないこともあったけど、きょうは自分から動いて勝つことができた」と田邊騎手が喜べば、村山明調教師も「ジョッキーがこの馬のいい面を引き出してくれた」と話す。JpnⅠを制している実力は言うまでもないのだが、今回は早めに作戦を切り替えて、馬の特長、浦和コースの特性を考慮した鞍上の好騎乗、そして得意な戦法でなくても最大限の走りを見せたオールブラッシュの精神面がもたらした勝利だった。
 一方、1番人気に推されたグリムは先団の追走から2周目の3コーナーで先頭に立ったものの、早めにトップスピードに達していた勝ち馬にまくられて2着。鞍上の内田博幸騎手は「折り合いはついていたけど、今回は勝ち馬が強かったね。でも、これからの馬だから」と話した。伸び盛りの3歳馬だけに、これも経験。さらなるステップの足掛かりにしてほしいところ。
 地方勢では5着のヤマノファイト(船橋)が最先着。ゲートで暴れて出遅れを喫し、本橋孝太騎手も「まともならもっとやれた」と悔しがっていたが、それで掲示板を確保できたなら上々の結果だろう。グリムと同様に、さらなる成長が見込める3歳馬。心身ともに、よりパワーアップした姿を見せてもらいたい。
 概してトップクラスと呼ばれる馬は、実力が拮抗している。それゆえに展開や馬の気持ちひとつで、結果は常に変わるものである。3着のクリソライトにしても4着のアポロケンタッキーにしてもJpnⅠを制している実力馬だが、今回はさまざまな要素がうまくかみ合ったオールブラッシュが勝ち名乗りを受けた。競馬のおもしろさと難しさ――。今回の浦和記念JpnⅡは、それが凝縮された一戦だった。

地方競馬全国協会理事長賞の
副賞として畜産品が贈呈された

地方馬最先着は5着のヤマノファイト(船橋)
取材・文:大貫師男
写真:宮原政典(いちかんぽ)

コメント

田邊裕信騎手

これまでも逃げる競馬をしたかったのですが、スタートが特に速いわけではないので、思うような競馬ができませんでした。ただ、きょうは控える競馬で、自分で動いて勝つことができたので、内容的にはすごく良かったと思います。最後に突き放せる手応えが残っていたのも状態が良かったからだと思います。

村山明調教師

間隔が詰まっていましたが、体調は良かったです。先行したいと思っていたのですが、それができなかったので控える競馬になりましたが、田邊騎手が絶妙なタイミングで仕掛けてくれました。いい勝ち方をしてくれたので、今後の楽しみが増えましたね。年内は休養に充てて、川崎記念に向かいたいと思います。