レースハイライト
第63回 羽田盃
2018年5月9日(水) 大井競馬場 1800m
想定外の逃げでも断然人気に応える
2、3着馬も良化示し、いざダービーへ
2歳戦なら、たとえ重賞でもスピードで押し切ることが可能だが、3歳春、しかも一線級がそろう三冠レースとなれば話は別。問われるのは、苦境を脱する精神面の強さである。
単勝1.8倍の断然人気に推されたヤマノファイトは、ホッカイドウで重賞2勝、船橋転入後もニューイヤーカップと京浜盃を連勝し、ここへ駒を進めてきた。ただ、転入後の2戦はともにスタートが今ひとつ。今回は展開が読みにくくなる不良馬場となっただけに、なおさらスタートをうまく修正できるかが鍵だった。
しかし、それ自体は杞憂に終わる。ゲートが開くと同時に、ヤマノファイトは抜群のダッシュを見せた。鞍上の本橋孝太騎手も、まずは胸をなでおろしたに違いない。ところが好スタートを決めたことで、今度は「想定外の展開」(本橋騎手)が待ち受けていた。
内からハナを切っていくだろうと思われたワグナーコーヴが、主張することなく位置取りを下げる。そのため、ヤマノファイトは他の13頭を引き連れて逃げるかたちとなった。断然の人気馬が逃げれば、格好の目標となる。2番手のリコーワルサーがクビほどの差で追走し、これに終始プレッシャーをかけ続けられる厳しい競馬を強いられた。
それでもヤマノファイトの闘争心はくじけることがなかった。直線に向き、リコーワルサーとモジアナフレイバーが外から猛追してきたが、本橋騎手の渾身の左ステッキを受け、むしろ2頭を突き放すような勢いで疾駆する。外からハセノパイロが強襲してきたが、これも3着までが精いっぱい。結局ヤマノファイトがリコーワルサーに1馬身差をつけて逃げ切り、南関東クラシックの初戦を制した。
「逃げることは想定していなかったけど、無理に抑えるよりはと思った。1コーナーから最後まで厳しい展開。よく我慢してくれた」と、パートナーをねぎらった本橋騎手。気分よく逃げるのとは違う、徹底マークに遭いながらの逃げだったが、その苦しい展開を最後まで耐えた。決してスムーズとは言えなかった過去2戦の経験も生きたのだろう。クラシックを戦い抜くうえで重要な精神面の強さを、この局面でいかんなく発揮した。
また、本橋騎手も自らのレースイメージに固執することなく、柔軟に対処した。「レース前は、めちゃくちゃ緊張していた」と話していたわりに、落ち着き払った騎乗。自身も所属する矢野義幸厩舎が一丸となって仕上げたことへの信頼が、自信の騎乗と的確な判断につながったと見える。
ヤマノファイトを最後まで苦しめたリコーワルサーと森泰斗騎手だったが、追撃及ばず2着。ただ、京浜盃(6着)からの良化は明らかで、「もっと良くなると思う」と森騎手。また、京浜盃で5着だったハセノパイロもさらに1馬身差の3着に前進し、矢野貴之騎手は「距離が延びてよさそうだから、逆転もある」と話した。2歳時に重賞勝ちを果たした両馬が、着実に良化。叩き3戦目で迎える東京ダービーへ望みをつないだ。
キャリアを積み、クラシック初戦で成長と良化を示した各馬。しかし、本当の戦いは次戦・東京ダービーだ。二冠か、逆転か――。南関東の頂上決戦が今から待ち遠しい。
取材・文:大貫師男
写真:早川範雄(いちかんぽ)
コメント
しっかり仕上がっていたから、何の不安もなく乗りました。いろんなパターンをイメージしていたけど、逃げるのは予想外でしたね。最後は他の馬が来れば来るだけ、この馬も伸び続けてくれました。東京ダービーも苦しい競馬になると思いますが、僕自身、馬の負担にならないように乗りたいと思います。
1番人気で勝ててホッとしました。逃げたのは想定外でしたが、道中は折り合いもついていたし、ペースも速くなかったから、大丈夫かなと思って見ていました。だんだんと力をつけて、最近は風格も出てきたように感じます。東京ダービーという目標に向けて、またしっかり仕上げていきたいと思います。