出場3回目の矢野貴之騎手が優勝
南関東初リーディングからの飛躍
川崎が生んだ鉄人・佐々木竹見さんは、1960年の騎手デビューから2001年7月の現役引退までに、国内1位となる通算7153勝(うち中央2勝)を挙げた。そんな偉業を称え、引退後に創設されたのがこの佐々木竹見カップジョッキーズグランプリだ。現役を引退してから16年の月日が流れ、竹見さんも76歳になったという。今でも年齢を感じさせない若々しいルックスが印象的だ。「現役の時よりも筋肉が落ちたので体重は2、3キロ減りましたが、体型はほとんど変わらないですね。食事をする時間や食べる量なども全く変えていません。お蔭様で健康状態もとても良くて元気にやっています」と竹見さん。
竹見さんがトークショーや表彰式に登場するのも、この竹見カップの楽しみで、いつまでも元気な鉄人の姿を見せていただきたい。
川崎競馬場の砂上には、今年も地方・中央からトップジョッキーたちが集結した。2レースのポイント制で争われる戦い。過去15回中、南関東所属騎手の優勝が10回。その傾向は顕著で、今年も大井の矢野貴之騎手が3回目の出場で初優勝を飾った。昨年、南関東リーディングに初めて輝いた33歳だ。
1戦目のマイスターチャレンジ、矢野騎手は1番人気に支持されていた5連勝中のマイネルアクストに騎乗。2番手から4コーナーで先頭に立つとそのまま押し切っての勝利。2着は兵庫の下原理騎手が手綱を取った11番人気ヤクマンブルース。3着は金沢の吉原寛人騎手が騎乗した7番人気キタサンツバキが入った。
「初めて乗せてもらった馬なので何も考えずに出たなりでした。道中も楽で最後の直線では抜け出したら遊んでいるくらいだったので、力が抜けていましたね。いい馬に乗せてもらいました」と矢野騎手。
矢野騎手は2年前の竹見カップでも、1戦目のマイスターチャレンジを勝利したものの、2戦目で12着になり、総合4位になった苦い経験がある。「この後も気を引き締めて乗りたいです。あの時も1戦目で勝たせていただいた時は、こうやってみんなが取材に集まってくれたのに、その後は誰も来てくれなかったんですよ(苦笑)。今年は集まっていただけるように頑張ります」
2戦目のヴィクトリーチャレンジはこれまで2100メートルで実施されてきたが、今年から1600メートルに変わった。
矢野騎手は10番人気のアリオンダンスに騎乗。「終いだけはしっかりしていると聞いていたので、そこまでじっくり乗ろうと思いました」。道中は中団から追走していき、直線で狭くなるシーンもあったが、脚を伸ばしての4着。「最後はもうひと伸びしそうでしたが、狭くなった分ですね。レース中は必死でしたが、ゴールしてからはポイントのこともあったので、前にいる人たちを確認しました(笑)」
このレースで勝利したのは、JRAの戸崎圭太騎手。1番人気に支持されたラーゴブルーで、3番手追走から4コーナーで先頭に立って押し切った。2着は北海道の桑村真明騎手がコンビを組んだ8番人気アルゴノートだった。
この結果、1着、4着で合計77ポイントを獲得した矢野騎手が総合優勝。4着、2着で65ポイントの桑村騎手が2位。3位は12着、1着で54ポイントの戸崎騎手となった。
矢野騎手はもともと2002年4月に高崎競馬からデビューした。しかし2年8カ月後の2004年末に高崎競馬は廃止。大井に移籍はできたものの、環境や雰囲気になかなか馴染めず、移籍して数年の間はひと桁か、やっとふた桁程度の勝ち星が続いた。「自分自身が腐っていていつ辞めてもいいと思っていた時期もありましたが、今は諦めないでよかったです」。気持ちを入れ替え、競馬に対しての向き合い方なども変えたことで、持ち合わせていた素質が開花。勝負の世界に生きていく人間としては控えめな優しい性格だが、多くの人たちが応援したくなるような人柄も魅力だ。
矢野騎手は昨年、自身最高の238勝を挙げ南関東リーディングに初めて輝いた。今度は全国の名手たちが集う竹見カップで堂々優勝。
「技術ではうまい人たちがいますから。まだ上にいるという感覚もないですし、1戦1戦を大事に乗るということに変わりはありません。去年はたまたまいっぱい勝たせてもらって特別な年になりましたが、戦国時代の今年が本当の勝負だと思っています」
今年も矢野騎手から目が離せない1年になりそうだ。
矢野貴之騎手
(大井)
桑村真明騎手
(北海道)
戸崎圭太騎手
(JRA)