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2015年12月23日(祝・水) 名古屋競馬場2500m

好位から一気の脚で差し切る
15回の歴史で牝馬に初の栄冠

 今年の名古屋グランプリJpnⅡには、過去に2勝しているエーシンモアオバー、1勝しているニホンピロアワーズが出走。さらにダートグレードレースの常連となっているソリタリーキングを含めた8歳以上のベテラン勢に、次代の主役を目指すJRAの4歳馬2頭の争いという様相になった。
 しかしながらJRA所属馬と地方所属馬の人気は極端なもの。JRA勢5頭がいずれも単勝10倍未満で、地方の7頭はすべて200倍以上。3連複はJRA同士の組み合わせのみが20倍未満で、地方所属馬が1頭でも絡むと100倍以上になっていた。
 そういったなかでの単勝1番人気は、昨年のジャパンダートダービーJpnⅠを制したカゼノコ。2番人気にはアムールブリエと、4歳勢が高い支持を受けた。とはいえ、その2頭は後方から差を詰める脚質で、このレースで優勝経験がある2頭は、ともに逃げ先行タイプ。コーナーが8回もあるという小回りコースが舞台だけに、エーシンモアオバーとニホンピロアワーズが先頭と2番手という展開は、ファンにとっても想定内だっただろう。
 その2頭は昨年の1、2着馬でもある。昨年2着だったニホンピロアワーズの酒井学騎手は、「昨年は前を意識しすぎて、逆に粘られた」という経験を踏まえてか、エーシンモアオバーとの差を1馬身程度でキープする作戦を取った。
 対するエーシンモアオバーは、鞍上の岩田康誠騎手が、「うしろの馬にまくられないようなペースで」という流れを作った。
 しかし、アムールブリエが3番手を追走していたことは、岩田騎手にとっては想定外だったかもしれない。アムールブリエは2周目の向正面でゴーサインを出されると、そこから一気に加速して、最後は馬なりのままという脚いろで勝利。2着のニホンピロアワーズとの差は1馬身でも、鞍上の濱中俊騎手が直線半ばで股の間からうしろの様子を見る余裕まであった。
 もう1頭の4歳馬、カゼノコは、アムールブリエの直後から同じようにスパートをかけ始めたが、その後の伸びはいまひとつで、ギリギリ3着に届いたという結果。秋山真一郎騎手は納得いかぬという表情のまま、着替えたあとにも改めてパトロールビデオを凝視していた。
 勝負どころまでレースを引っ張ったエーシンモアオバーは5着。岩田騎手は「今日は残念でしたが、馬自身はまだまだやれますよ」と、予定では引退レースとなっていた相棒に現役続行のススメ。ニホンピロアワーズは本来、チャンピオンズカップGⅠで引退する予定だったが、「着順は悪くても、走りには若々しさが戻ってきていたので、もう1走することになった」とのこと。「最後に力があるところを見せられましたね」と、完敗ではあっても、酒井騎手の表情からは満足感があることが見て取れた。
 それでも今回は4歳馬が1着と3着。東京大賞典GⅠでは、今年9歳ながらかしわ記念JpnⅠを制したワンダーアキュートもラストランを迎える予定になっている。そういったことを考え合わせると、これからのダートグレード戦線は新旧交代が一気に進んでいく可能性がありそう。そう思わせる一戦だった。
濱中俊騎手
JBCではいい結果が得られませんでしたが、今日はずっと手応えがよかったですし、安心して乗っていられました。この馬に合うと思って3番手につけましたが、うまく流れに乗っていけました。でも今日は馬の力で勝てたという印象ですね。これからもっと活躍できると思います。
松永幹夫調教師
ここ2走が人気ほどの結果ではなかったですが、状態は変わらず良かったんですよ。今回はスタートでうまく出られましたし、外枠もプラスでしたね。脚を溜める競馬ができたことも収穫になりました。これからもゆったり走れる距離のレースを選びたいので、次は川崎記念を目指していきたいと思います。


取材・文:浅野靖典
写真:岡田友貴(いちかんぽ)