2016年3月20日(日) 帯広競馬場

障害4番手からでも冷静な判断
力強い脚取りで一気に差し切る

 レース前日の帯広は小雨が降り続いたことで、第2障害を越えたもの勝ちというレースが続いた。しかし迎えたばんえい記念当日は青空。やや強く吹いていた風は冷たかったものの、それゆえに馬場は急速に乾いた。前日最終レースで2.1%だった水分量は、レースを追うごとに下がり、後半になると1.7%。ばんえい記念の舞台は整った。
 1番人気に支持されたのはフジダイビクトリー。初挑戦だった昨年のばんえい記念では、障害先頭からレースを引っ張ったが、ゴール寸前で止まって4着。今シーズンは前半に北斗賞、ばんえいグランプリと重賞2勝。単勝オッズは1倍台で推移し、最終的には2.5倍となったが、早い時間から単勝が売れていたのは、それだけファンの期待が大きかったということだろう。連覇のかかるキタノタイショウが2番人気、昨年2着のニュータカラコマが3番人気で、三つ巴の人気となった。
 第2障害で最初に仕掛けたのは、フジダイビクトリーだったが、ニュータカラコマが3腰で天板に脚をかけると、そのまま先頭でクリア。やや離れて、若い6歳から挑戦のコウシュハウンカイ、そしてトレジャーハンターと続いた。フジダイビクトリーは4番手、一昨年の覇者インフィニティーも続いた。
 さすがにその位置からではフジダイビクトリーは無理だろうとも思えたが、ぐいぐいと前との差を詰めた。残り30メートルを切ってコウシュハウンカイを交わし去ると、残り10メートルではついに先頭のニュータカラコマをとらえた。ニュータカラコマも食い下がったが、フジダイビクトリーがそのまま押し切っての勝利。勝ちタイムは3分41秒5だった。
 ニュータカラコマは昨年に続いての2着。6歳のコウシュハウンカイが3着で来年への期待をつないだ。これで引退のインフィニティーは4着。キタノタイショウは障害をなかなか越えられずに6着。そして障害の上でへたり込んでしまい、1頭だけ取り残されたのがフクドリ。それでもなんとか立て直し、9着のオイドンから3分ほども遅れて8分33秒6でゴール。今回も全馬の無事ゴールには、競馬場を埋めたファンから大きな拍手が贈られた。
 勝ったフジダイビクトリーは、年明けから金山明彦調教師の管理となって、ばんえい記念を目指していた。金山調教師は“ミスターばんえい”といわれた騎手時代、ばんえい記念を6度制しているが、調教師としては17年目で初勝利となった。
 フジダイビクトリーの勝利には、陣営の作戦と、過去に2度カネサブラックで制している松田道明騎手の冷静な判断があった。
 金山調教師から松田騎手には、「2障害を降りてから、慌てて追わないように、焦るな」という指示があったという。そして松田騎手は、前半目標としていたキタノタイショウは、第2障害までの位置取りが悪いので相手ではないと思ったという。さらに第2障害では、ニュータカラコマの仕掛けが早いと判断。相手は障害を越えてから3回は止まるだろうから、自分は2回しか止まらない競馬をすれば差し切れるかもしれないと読んだ。実際にニュータカラコマは第2障害からゴールまでに8回も止まっている。一方のフジダイビクトリーは、ニュータカラコマの直後まで迫ったところで1回止めただけ。息を入れて一気に差し切った。障害を越えたあと、なんと一度もムチで叩かずのゴールだった。
 平地の競馬ではよく「計ったように差し切った」というが、松田騎手は、ニュータカラコマの早めの仕掛けからレース全体の流れを計算し尽くして差し切った。年に一度しかない大一番の勝利は、騎手の経験によってもたらされたものでもある。
松田道明騎手
去年の暮れからこのレースを意識した乗り方をするようにいわれて、調教も重い荷物で時間をかけてやってもらいました。今日の後半のスタミナは、その結果が出たと思います。ゴールに入ったときは倒れる寸前で、それまでムチひとつ入れなくても、頑張って引っ張るぞという馬の気持ちを強く感じました。
金山明彦調教師
障害では、よくても2着かなと思って見ていましたが、あれだけ差してくるレースができるとは思っていませんでした。今回の1000キロで後遺症が残らないように、重い重量のレースばかり使っているとレースぶりが渋くなってくるので、リフレッシュさせながら大事にレースを使っていきたいと思います。



取材・文:斎藤修
写真:中地広大(いちかんぽ)