dirt
2016年3月17日(木) 名古屋競馬場1900m

ステッキを使わず大差圧勝
妹とともにダートの頂点目指す

 降雪のため順延となった新春ペガサスカップが、名古屋大賞典JpnⅢの準メインとして行われた。優勝したのは1番人気に応えたカツゲキキトキト。その手綱を取ったのは、これが重賞初制覇となった木之前葵騎手だ。「周りの方々に支えていただいて勝てた重賞なのでとても嬉しいです」と大勢のファンの前で感謝の言葉を口にした。競馬界は今、女性騎手が注目されているが、木之前騎手はデビュー当初から精力的に名古屋競馬のピーアールを重ねており、ファンの多い騎手である。昨年は、地方通算100勝達成や、海外に挑戦するなど経験を積み、NARグランプリ2015の優秀女性騎手賞も受賞した。デビューから丸3年、騎手として着実に力をつけている。
 木之前騎手の勝利で盛り上がった場内は、その熱気のまま、今年度最後のダートグレードレース、名古屋大賞典JpnⅢを迎えた。そして、単勝1.4倍と断然の支持を集めたアウォーディーと武豊騎手が、ファンの期待通り圧巻のパフォーマンスを披露したのであった。
 ゲートが開くと、1番枠のダブルスターが先手を主張し、高知のサクセスコードも果敢に先行、11番枠からマドリードカフェもそれに加わろうとする中、アウォーディーは内の3番手。1~2コーナーでは外に出し2番手に上がった。3コーナーあたりで逃げていたダブルスターに並びかけると、あっさりと交わし、その後は独壇場。「向正面も直線も、ずっと楽でした」という武騎手は、ノーステッキのまま後続をぐんぐん突き放し、2着のバンズームに2秒4秒という大差をつけての勝利。余裕たっぷりの圧勝劇にスタンドからは大きな拍手が沸き起こった。
 現在6歳のアウォーディーは、昨年秋からダートに転向し、これで3戦3勝。シリウスステークスGⅢに続き重賞連勝となった。「芝でも走れる馬ですが、前からダートを使いたいと思っていたんです」と、母であるヘヴンリーロマンスの主戦騎手だった松永幹夫調教師。そして「お母さんも初勝利がダートだったんです。芝のGⅠ(天皇賞・秋)を勝ちましたが、ダートを走ってもかなりやれたと思いますよ」と続けた。そう聞くと、半妹のアムールブリエ(ダートグレード4勝)など、産駒にダートの活躍馬が多いことも頷ける。血統は奥が深い。
 武騎手はアウォーディーの素質を非常に買っているようだった。「前走と比べると、かなり良くなっています。この馬強いですよ。一線級の馬たちと戦ってみたいなぁ」と、その口調からも期待の高さが伺えた。
 次走はアンタレスステークスGⅢ(4月16日)を予定しており、上半期の大目標は帝王賞JpnⅠとのこと。出走が叶えば、アムールブリエとの兄弟対決も見られるかもしれない。
 そして武豊騎手は、エンプレス杯JpnⅡ(アムールブリエ)、ダイオライト記念JpnⅡ(クリソライト)、そして今回と、ダートグレードレース騎乗機会3連勝と絶好調。名古屋競馬においては、現在行われている3つのダートグレードレースと、過去2回行われたJBC競走(JBCクラシック)という、ビックレース完全制覇となった。インタビューでその話題があがると、「新聞を見て、このレースは勝てていないと知ってプレッシャーでしたよ(笑)」とファンの笑いを誘った。全国どこの競馬場であっても、武豊騎手の人気は絶大で、その存在感は圧倒的だ。
武豊騎手
ダートが合うのもそうですが馬自体の体調がすごく良くなってきました。小回りだからある程度ポジションを取りたいと思っていたのでスタートを出た時はホッとしました。自分は乗っていただけでしたよ。今年初戦を勝てたしこれからが本当に楽しみです。アムールブリエより兄の方が機動性がありますね。
松永幹夫調教師
メンバー的にも絶対勝ちたいという気持ちでした。小回りは不安でしたが武騎手がしっかりスタートを出てくれて、うまく外にも出してくれたので安心して見ていました。だんだんダートの走りも覚えてきて力強くなっています。アムールブリエとはトビが大きいところが似ています。どちらも良い馬ですね。



取材・文:秋田奈津子
写真:国分智(いちかんぽ)