レースハイライト タイトル
dirt
2013年11月4日(振・月) 金沢競馬場 1400m

短距離戦でもスピードを発揮
古豪健在を示してJpnⅠ連勝

 JBCスプリントJpnⅠのゲートが開く数日前、日本中の競馬ファンに残念な知らせが伝えられた。
 「ラブミーチャンがJBCを回避」
 今年は4月に東京スプリントJpnⅢを勝ち、8月にもクラスターカップJpnⅢを勝利。2001年に始まったJBCでは、2007年にフジノウェーブが挙げた勝利が地方馬による唯一のものとなっているが、ラブミーチャンにはそれ以来の期待が大いにあった。しかし調教中に右前脚を骨折。夢の続きはその産駒で見られることを祈りたい。
 それでもJBCスプリントJpnⅠには魅力的な役者が揃った。なかでも最大の注目は、GⅠ/JpnⅠを8勝しているエスポワールシチーである。しかし同馬はダート1400メートルが初めてで、芝を含めても2008年以来の短距離戦。ならば、スプリント路線を主戦場としてきた馬たちが黙っておれまい。タイセイレジェンドはこのレース連覇に向けて虎視眈々。さらには2年連続で2着の実績があるセイクリムズンや、フェブラリーステークスGⅠのタイトルがあるテスタマッタも出走メンバーに名を連ねた。また、ドリームバレンチノは今回が初のダート戦とはいえ、今年の高松宮記念GⅠでの2着が光る。大井のセイントメモリーは前走でJpnⅢのオーバルスプリントを制しており、こちらにも期待がかけられた。そしてレースも、その6頭が激しく火花を散らす展開となった。
 ゲートが開いた瞬間に真っ先に飛び出したのはセイントメモリー。セイクリムズンがその直後でダッシュ力を効かせ、大外枠からスタートしたエスポワールシチーも先行争いに加わっていく。さらにタイセイレジェンドも先頭集団を目指していくその流れは見た目にも速く、スタンドのファンからは早くもどよめきが上がった。
 向正面でもそのスピード争いは続いたが、3コーナーでタイセイレジェンドが脱落。代わって中団からレースを進めたテスタマッタが馬群の外から先頭に接近し、4コーナー手前では4頭が鎬を削る形になった。その後方ではドリームバレンチノがインコースに狙いを定めて追撃開始。しかしエスポワールシチーのスピードは、やはり一枚上だった。
 4コーナーのカーブでさらに加速して、直線入口では先頭に立って押し切ろうという態勢に。その後ろではセイクリムズンが懸命に粘り、テスタマッタが差を詰めてくる。レースを引っ張ったセイントメモリーはここで失速。そして内ラチ沿いの狭い隙間をドリームバレンチノが割ってきた。
 エスポワールシチーは激しい2着争いを尻目にゴール板を通過。1馬身半離れた2着にはドリームバレンチノが入り、セイクリムズンは3着。セイントメモリーは4着のテスタマッタから3/4馬身遅れの5着となった。
 レースが終わり、勝利を飾ったエスポワールシチーは馬場をもう1周。再びゴール地点に戻ってきたところで鞍上の後藤浩輝騎手が馬を止め、スタンドのファンに向かって手を高く突き上げ、湧き起こる「ゴトウ」コールにリズムを合わせて指揮をとった。それはJBCスプリントJpnⅠで見せたトップクラスのスピード感が、金沢競馬場を埋め尽くした観客に間違いなく伝わったと感じさせられる瞬間でもあった。
 「今回のガッツポーズは(佐藤)哲三さんの意見も聞きつつ、自分のやりかたも主張しつつ、という感じですね」と、後藤騎手はそのアクションを振り返り、さらに「哲三さんとはレースプランについて電話で相談させてもらいました。だから2人で作ったレースといえるかな。そしてその通りにできたことがうれしいですね」と、大怪我からの復帰を目指す主戦ジョッキーへの想いを語った。後藤騎手自身も大怪我から1カ月ほど前に復帰したばかり。命を賭けて戦うアスリート同士の絆が、その言葉にこめられていた。
 一方、連覇を狙ったタイセイレジェンドは7着。内田博幸騎手は「ゲートのなかで待たされましたし、内枠も苦しかった。馬体も少し重かったかな(プラス15キロ)。でも、まだまだやれる馬ですよ」と捲土重来を誓った。また、地方馬最先着となったセイントメモリーの手綱を取った本橋孝太騎手は、「ゲートが速かったですし、理想のレースができました」と言いつつも、「ただ、最後の直線はいつもの感じがなかったですね」と残念がった。このあたりは初の長距離輸送が影響したのかもしれない。
 それでも、各馬が披露してくれたスピードはまぎれもなく一流のもの。この先もこのメンバーたちがハイレベルな戦いで、我々を魅了してくれることだろう。


後藤浩輝騎手
距離がどうなのかなと思っていましたが、勝ってホッとしました。3~4コーナーでは前にいた馬の手応えが怪しくなっていましたし、あとは後ろからどれだけ来るのかなと。3番手から競馬ができたのも収穫ですね。とにかく強いですし、僕の気持ちも汲んでくれる馬。この先も活躍できると思います。
安達昭夫調教師
(前走の南部杯のあとは)オーナーと相談して、JBCスプリントを選びました。前走のダメージがほとんどなかったのでいいレースができるとは思っていましたが、最後はなんとか踏ん張ってくれという思いで見ていましたね。この先の予定は、またオーナーと話し合って決める予定です。

セイントメモリー(大井)が果敢に先手を奪う

取材・文:浅野靖典
写真:いちかんぽ(宮原政典・国分智)、NAR

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(YouTube地方競馬チャンネル内)