マイペースで人気馬を振り切る
衰え知らぬ8歳馬が南部杯3勝目
マイルチャンピオンシップ南部杯JpnIは、ダートGI/JpnI戦線の秋初戦としてここから始動する有力馬が目立つ。そして今年はGI/JpnI勝ち馬が3頭。JRA勢は例年以上に充実したメンバーとなった。ダートグレード5連勝で、かしわ記念、帝王賞とJpnIも連勝してきたホッコータルマエが単勝1.3倍の断然人気。しかし勝ったのは2番人気、このレース連覇に加え3勝目がかるエスポワールシチーだった。昨年のこの南部杯の原稿では「7歳でもまだまだ衰えることを知らないエスポワールシチー」と書いたが、それは8歳になった今年も変わることはなかった。
スタートしてエスポワールシチーがすんなり先頭に立つと、直後2番手の外にホッコータルマエ、内にグレープブランデーと、GI/JpnI勝ちのある人気3頭がレース序盤から前を固めた。そのうしろをセイクリムズンが追走するという展開。
3~4コーナーで鞍上の手が動き始めたグレープブランデーが単独3番手に下がり、やがてホッコータルマエの手綱もせわしく動きはじめた。しかしエスポワールシチーの手ごたえはまだ楽なまま。4コーナーで後藤浩輝騎手が肩ムチを2発、3発と入れると、直線を向いてホッコータルマエとの差をあっという間に3馬身ほどに広げ、ここで勝負がついた。ホッコータルマエの幸英明騎手が必死に追い、ゴール前で差を詰めたものの1馬身半まで。3馬身離れた3着にセイクリムズンが入り、フェブラリーステークスGI勝ち以来の休み明けだったグレープブランデーは4着。エスポワールシチーの鮮やかな逃げ切りとなった。
勝ちタイムの1分35秒1は、2010年のオーロマイスターによるコースレコードにコンマ3秒だけ及ばないというもの。良馬場でこのタイムで走られては、地方馬は手も足もでない。JRA6頭が上位独占となり、地方最先着は勝ち馬からちょうど2秒差があって高知のコスモワッチミー。今年のサマーチャンピオンJpnⅢ(佐賀)で3着に好走していただけに、これも順当な結果といえるだろう。
盛岡のダートコースで行われるGI/JpnIは、かつて交流として行われていたダービーグランプリや2002年のJBCなども含め、このコースを得意とする馬が、より強いパフォーマンスで複数回勝つというパターンが目立つ。ユートピア、アドマイヤドン、ブルーコンコルド、そしてもちろんエスポワールシチーだ。過去に出走した3度の盛岡の南部杯でエスポワールシチーの鞍上にあった主戦の佐藤哲三騎手は落馬負傷のため療養中で、今回、後藤騎手は初騎乗。にもかかわらず、「残り800メートルからが勝負だと思っていたので、そこから一気にペースアップして、4コーナーで1~2馬身リードがあればそのまま伸びきれる馬だと思っていたので、そのイメージ通りでした。ライバルたちの不得意なレースと、こちらができることを照らし合わせて出した結果がこのレースでした」と、このコースを得意とするエスポワールシチーを完全に手の内に入れていたかのよう。
後藤騎手も落馬負傷での長期療養があり、8日前の東京開催で、復帰しての初勝利を挙げたばかりだった。「(2000年の南部杯で自身GI初制覇となった)ゴールドティアラのことは意識していました。初めて勝ったGIレースで、そして今回復帰して初めて騎乗するGIを勝てたら最高だなと思いながらこの日まで来ました」。表彰式終了後、パドックを取り囲んだ多くのファンが差し出す色紙に最後まで丁寧にサインをしていたのは、昨年の佐藤騎手と同じような光景で印象的だった。
ダート中長距離路線は昨年あたりから世代交代で、今回2着だったホッコータルマエをはじめ新興勢力の台頭が目立っている。しかし今後のGI/JpnI戦線の能力比較をしていく際、このエスポワールシチーに関しては、「8歳だから」ということは忘れたほうがよさそうだ。なお次走にはJBCを予定しているが、1400メートルのスプリントのほうも選択肢にあるとのこと。
後藤浩輝騎手
(佐藤)哲三さんだったらどのようにするだろうかということを常に馬に聞きながら乗っていました。この馬の力は信じていましたし、調教で乗った時から年齢を感じさせない若々しい動きだったので、去年より強いメンバーでしたが、自信を持って、来るならいつでも来いという気持ちで乗りました。
安達昭夫調教師
今回は休み明けで、後藤騎手へのバトンタッチで、スローに落としてうまく乗ってくれました。グレープブランデーにもホッコータルマエにも負けてるんで、そろそろ(年齢的に)厳しくなってきたかなという気持ちはあったんですけど、そういう気持ちを持ったことを、エスポに失礼だったかなと思います。