絶好の手ごたえで直線弾ける
理想のペース配分でJRA勢を完封
東京スプリントJpnIIIがダートグレード競走に昇格してから今年で5回目。過去4回はいずれもJRA所属馬が優勝している。今年も全国から実績馬が集結したが、黒船賞JpnIII出走組が6頭と、再戦ともいえるメンバー。その黒船賞で約10カ月ぶりの勝利をあげ2連覇を達成したセイクリムズンは、ここも連覇を狙いにきた。単勝オッズは1.6倍と断然の支持を集め、昨年同様の連勝街道に乗るかが期待された。しかしその勢いを止めたのが、笠松の快速馬ラブミーチャンだった。初コンビの戸崎圭太騎手を背に、昨年のNARグランプリ・年度代表馬の底力をまざまざと見せつけた。
激しい先行争いの中、ラブミーチャンは内に4頭を見る形で先団の大外を追走した。一方、人気のJRA勢は先行集団の後ろに構え、セイクリムズンも虎視眈眈と前を伺っているように見えた。3~4コーナーに入ってもラブミーチャンは大外を回っていたが、他の先行勢たちとは明らかに手ごたえが違っていた。「抜け出すのは少し早いと思ったけど、馬のほうが、もうそろそろいいよという感じだったので」と言う戸崎騎手とラブミーチャンは、残り200メートルあたりで先頭に立ち、後続を突き放した。直線では後ろからセレスハントが脚を伸ばし、ゴール前ではセイクリムズンが猛然と迫ったが、「後ろから来たら反応してくれた」(戸崎騎手)というラブミーチャンがそのまま押し切り、JRAの有力馬たちを一蹴した。
半馬身及ばなかったセイクリムズンの岩田康誠騎手は、敗因は?の問いに、「相手が強い」と即答。セイクリムズンは年齢的なこともあり、現段階では1400~1600メートルが合っているという陣営からのコメントが聞かれた。服部利之調教師によると、フェブラリーステークスGI(4着)の走りからも、次走はかしわ記念JpnI(5月6日・船橋)に進みたいとのことだ。
これで重賞13勝目、交流重賞では4勝目をマークし、実力を存分に示したラブミーチャンだが、前走の黒船賞JpnIIIは長距離輸送の影響もあり6着に敗れていた。そのダメージは大きく、昨年東京盃JpnIIを勝った時に比べると状態は良くなかったそうだ。「正直な馬なので、馬房から出ると力を放出してしまう」(柳江調教師)というラブミーチャン。今回の輸送では、なるべく馬房から離れる時間を短くするように、ギリギリまで出発を遅らせてレースに臨んだ。陣営の細心の注意と努力がラブミーチャンの好走に繋がった。
そして、状態面の不安をレースでカバーしたのは、元地方の全国リーディング・戸崎圭太騎手だ。小林祥晃オーナー、柳江仁調教師は、「戸崎騎手じゃなかったら勝てなかった」と口を揃えた。柳江調教師は加えて「ペース配分だけ気をつけてもらいましたが、私の頭の中を見ているかのような乗り方をしていたので、恐れいりました」と絶賛した。当の戸崎騎手は「こちらの指示に素直に応えてくれて、とても乗りやすい馬」とラブミーチャンを評価。返し馬だけで手の内にいれ、能力を最大限に発揮させる技術はさすがとしか言いようがない。
ラブミーチャンは年内で現役を退くことが表明されている。小林オーナーは「この仔は、何かもうひとつ大きいことをやってくれる気がして仕方ないんです」と語った。その大仕事を期待しながら、残り少ないラブミーチャンの一戦一戦を目に焼き付けたい。
戸崎圭太騎手
返し馬ではフットワークが凄く、体全体で走る馬だなと感じました。外枠でしたし、出していくよりは内を見ながらリズムを崩さないようにと考えていました。終始外を回りましたが、手ごたえも十分だったのでいけるなと思いました。まさかこの勝負服でまた勝てると思わなかったので、凄く嬉しいです。
柳江仁調教師
同じ条件の東京盃で勝った時より、自信の度合いはちょっと低かったです。そんな状態でも、馬自身はがんばって走っています。今はレースに応用が利くので騎手次第のところがありますが、戸崎騎手だからこの結果がでました。来年お母さんになる予定ですので、それまで無事に元気に走ってもらいたいです。