レースハイライト タイトル

2014年3月23日(日) 帯広競馬場

1トンでこそのパワーを発揮
重賞初挑戦から1年で頂点に

 かつて1着賞金1000万円で争われていたばんえい競馬最高峰のばんえい記念だが、昨年度は300万円にまで落ち込んだ。しかし今年度は地方競馬のほとんどの主催者で馬券の売上が前年度比100%超となり、地方競馬IPATの発売が行われていないばんえい競馬でさえもそれは例外ではなく、ばんえい記念の1着賞金も500万円に増額となった。
 絶対王者と言われたカネサブラックが昨シーズン限りで引退。その最後のレースとなった1年前のばんえい記念で、カネサブラックの2、3着に迫ったのが、ギンガリュウセイとキタノタイショウ。今シーズン、前者は北見記念で3連覇、後者は重賞3勝と期待どおりの成績を残し、ばんえい記念はこの2頭が中心になるかに思われた。しかしギンガリュウセイは体調が整わずに回避。1本かぶりの人気となったキタノタイショウが頂点に立つのか、それとも新興勢力の台頭があるのか。
 果たして結果は大波乱となった。ばんえい記念初挑戦で6番人気のインフィニティーが制し、2着のフクドリは昨年7着で今回は8番人気。3着のホリセンショウも9歳とはいえ、この年の帯広記念が重賞初勝利だったという新興勢力だった。
 注目の第2障害。いずれの馬も1トンの重量に苦戦し、じりじりとしか上げることはできず、重賞実績馬ですら何度も膝をつく場面があった。
 ようやく最初に天板に脚をかけたのが、帯広記念でも単独先頭で障害を降りたホリセンショウで、すぐに隣のインフィニティーが続き、この2頭が半馬身ほどの差で坂を下った。すぐに交わしたインフィニティーが単独で先頭に立って主導権を握ると、3番手に続いたフクドリが迫ってきた。しかしインフィニティーは先頭を譲らず、その後も何度かフクドリに並びかけられる場面はあったが、インフィニティーは並びかけられるたびに突き放してそのままゴール。馬を止めた浅田達矢騎手の右手が高々と上がった。
 2着にはフクドリが入り、3着にホリセンショウ。ばんえい記念出走馬としては若い6歳ながら2番人気に支持されたニュータカラコマが4着。どうやら本来の調子になかったらしいキタノタイショウは5着で、ゴールを過ぎた瞬間にバタッと倒れ、しばらく動けなかった。ゴールまでなんとかもたせたのは鈴木恵介騎手の技術だろう。
 9着馬がゴールしたあとも第2障害を越えられないでいたシベチャタイガーも、勝ち馬から4分近くののちに無事ゴール。ファンからの大きな拍手で第46回ばんえい記念が終了した。
 酷量1トンを曳くばんえい記念は、他馬との争いであると同時に、自分の馬との戦いでもある。「他の馬のことは考えないで、自分の馬だけ、全能力を発揮させようと思っていました」という浅田騎手は、今年がデビュー10年目。今シーズン、インフィニティーでの北斗賞が重賞初制覇で、ばんえい記念は今回が初騎乗だった。過去のばんえい記念の映像を何度も見て、どのくらいのタイムで走れば勝てるか研究したという。
 管理する金田勇調教師は、2010年のニシキダイジンに続いてばんえい記念2勝目。奇しくも同じ6番人気馬での勝利だった。「700キロや800キロではこの馬の持ち味は出せない。オレと浅田だけが、この馬の強さを確信していた」という。昨年7月の北斗賞以降ここまで勝ち星はなかったが、1トンならという自信はゆるぎなかった。
 まさにパワー勝負のばんえい競馬らしい、新王者の誕生となった。

浅田達矢騎手
ホリセンショウより障害で先に仕掛けるつもりが1テンポ遅れて、先頭で降りるつもりだったのがそれもできなかったので、気持ちを切り替えて、あとはどれだけ辛抱できるか。ゴール前は一杯でしたが、底力を見せてくれました。夢のようなレースで優勝できて、まだ実現したという実感が沸かないです。
金田勇調教師
オッズパーク杯で初めて重賞に出て、どこか1つ重賞を獲れば、ばんえい記念だなと思っていました。馬場状態も最高でした。ちょっと水分が高ければ負けていました。浅田が自分の厩舎に来たときに、自分が騎手としてできなかったこと、頂点を獲らせようと思っていたので、うれしくて目から汗が出ました。


取材・文:斎藤修
写真:中地広大(いちかんぽ)、NAR