第1戦 |
第2戦 |
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新人王の座を賭けた懸命の勝負
第2戦を制した鴨宮騎手が優勝
「高知で会おう。この合言葉のもとに、今年も新人ジョッキーたちの登竜門、全日本新人王争覇戦競走が、ここ高知競馬場で行われます」第1レース後に行われた出場騎手紹介セレモニーにおける橋口浩二アナウンサーの発声で、28回目の幕が開いた。今年は10名参加の予定が、船橋の山本聡紀騎手が前年の10月30日に負った落馬負傷の影響で参加を断念したことで、9名での争いとなった。
そのセレモニーが始まる前、バックヤードでは出場騎手の集合写真が撮影された。そのあと各騎手は検量室方向へと向かったが、下村瑠衣騎手だけは馬場脇にとどまったままだった。下村騎手が第1戦で騎乗する予定だったリワードシオンは、脚元に不安が出たために出走取消。第1戦の準備をする必要がなくなっていたのだ。下村騎手は「これでは優勝できませんよ」と苦笑いをしていたが、それでも両親が青森県から来場しているということで、気合が入っているようだった。
この舞台に出場するのは、全国各地で実力本位の世界に飛び込んだばかりの騎手。「同期といろいろなことを話しました」と、佐賀から参戦の日野太一騎手が言っていたように、ベテラン勢にもまれる日々から脱出してのひとときが楽しめる場所でもある。しかし、同騎手は「九州以外で乗るのは初めて」とのこと。全日本新人王争覇戦は、そこが各騎手にとってもファンにとっても難しいところになっている。
今年の出場騎手のうち、高知競馬で騎乗経験があるのは、地元の下村騎手と船橋の山中悠希騎手だけ。波乱になることが多いのは、コース経験が乏しい騎手が多いことに尽きるだろう。第1戦は8名のうち7名が初コース。本馬場に入ってから各騎手はそれぞれに返し馬へと散っていったが、中井裕二騎手(JRA)だけは馬に内ラチ沿いを歩かせて、砂の深さを確かめていた。「どのくらい深いのかなと思いまして。それで、ここでは内を回ったらダメということがわかりました」というその意識は、さっそく第1戦で生かされた。
中井騎手は、好スタートから先手を取った日野騎手のランギョクのすぐ後方につけて、3コーナー手前まで2番手をキープ。そこから外を回って先頭に立つと、後続に差をつけて押し切るという騎乗で勝利を飾った。
そのほかの逃げ先行勢は後半が苦しくなるという形。2着の鴨宮祥行騎手(兵庫)と3着の笹田知宏騎手(兵庫)は1コーナーで後方2番手と3番手にいた馬で、全体的には「前崩れ」といえる結果だった。
それでも、第1戦を終えた騎手からは「乗りやすいコース」という声が多数。JRAの菱田裕二騎手と北海道の阿部龍騎手からは「砂の粒が大きくて顔が痛いです」という感想も聞かれた。
そして各騎手は、第1戦の感覚をもとにいろいろと考えたのだろう。第2戦は第1戦より出走馬の格付けが上でも、最初の400メートルの通過タイムが遅くなるという流れに。そのため向正面では、逃げる鴨宮騎手と最後方の川島拓騎手(佐賀)まで、あまり差がないという展開になった。それでも3コーナー手前からは、後続の各馬が続々と先頭を狙う動きを見せていたが、鴨宮騎手のディンプルは先頭をキープ。最後の直線では日野騎手のヘイハチプリンセスが一気に差を詰めて、ゴール地点では接戦に。その結果は写真判定に持ち込まれたが、最後まで鴨宮騎手が先頭を守り切っていた。
第2戦が終わり、多くの騎手が口を真一文字に結んで引き揚げてくるなか、笑顔を見せていたのは下村騎手。5番人気馬を3着に食い込ませた結果に、地元の意地を見せられたという満足感が伝わってきた。
対して、悔しそうな表情をしていたのが6着だった中井騎手。「3コーナーでの手応えはよかったんですが……」と残念がっていたが、総合2位という速報を聞くと一転して笑顔になった。そして中井騎手以上に喜んでいたのが、総合優勝となった鴨宮騎手。「先輩がたからけっこうプレッシャーをかけられていましたから」と、うれしさを隠せない様子だった。
一方、総合第3位だった日野騎手は納得いかぬという顔つき。「(第2戦が)ちょっとの差ですからね。勝って締めたかったですよ。1コーナーで掛かったときに行っておけばよかったかなあ」と反省しきりだったが、「いい経験ができましたし、これを今後につなげていきたいです」と最後は未来を見据えたコメントを残した。
そう、デビューから間もない騎手たちが集う祭典はこの日だけのこと。明日からは再び、若手もベテランも関係ない世界に戻っていく。その思いが各騎手にはあるのか、2つのレースが終わったあとも、浮かれた姿を見せている騎手がほとんどいなかったのが印象的だった。
取材・文:浅野靖典
写真:桂伸也(いちかんぽ)
写真:桂伸也(いちかんぽ)
鴨宮祥行騎手
(兵庫)
中井裕二騎手
(JRA)
日野太一騎手
(佐賀)