レースハイライト タイトル
dirt
2012年12月29日(土) 大井競馬場 2000m

人気馬を競り落としGⅠ初制覇
年の瀬に前走の無念を晴らす

 ダート路線を締めくくる大一番というのみならず、日本の競馬の1年を締めくくる東京大賞典GⅠ。天候にも恵まれ、また仕事納めが終わったあとの土曜日ということもあり、場内は早い時間から多くのファンで賑わいを見せていた。長きに渡ってダート戦線で活躍を続けてきたフリオーソ、ボンネビルレコードが、これを最後に揃って引退ということでの盛り上がりもあっただろう。
 しかし人気の中心は、やはり中央勢。JBCクラシックでJpnⅠ初制覇を果たし、ジャパンカップダートGⅠでも2着だったワンダーアキュートが単勝1.8倍、ダート6連勝でジャパンカップダートでは1番人気に支持されながらも4着に敗れていたローマンレジェンドが2.6倍で、2頭の馬連複が2.0倍と人気が集中した。
 ジャパンカップダートではハイペースで逃げたエスポワールシチーがスタートで躓いて出遅れる波乱の幕開け。ダッシュよく飛び出したフリオーソには競りかけてくる馬もなく、2コーナーを回るあたりではペースを落とし、現役最後のレースでこれ以上ない展開に持ち込んだ。
 ハタノヴァンクール、ローマンレジェンド、ワンダーアキュートら人気上位馬はやや離れて4番手から中団を追走。ボンネビルレコードは定位置ともいえる後方からの追走となった。
 4コーナー手前でもフリオーソの手ごたえは十分。しかし直線を向くと戸崎圭太騎手の手が激しく動きだし、ローマンレジェンドに交わされると徐々に後退した。「調子もよかったし、逃げようと思っていたのでフリオーソらしいレースはできました」と戸崎騎手。現役最後の舞台で勇姿は見せた。
 先頭に立ったローマンレジェンドを追ってきたのはワンダーアキュート。残り200メートルの標識のあたりで2頭が馬体を併せ、叩き合いとなった。人気2頭の一騎打ち……そう思われた直後、ラチ沿いから迫る馬がいた。ジャパンダートダービーJpnⅠの覇者ハタノヴァンクールだ。
 ゴール前、ローマンレジェンドがワンダーアキュートを競り落としたところ、内からはハタノヴァンクールが差を詰めてきた。しかしローマンレジェンドはこれを半馬身差でしのいで勝利。ワンダーアキュートはアタマ差で3着だった。
 4歳、3歳という若い2頭での決着。対照的に、5着エスポワールシチー、6着フリオーソ、7着トランセンドと、これまでダートGⅠ(JpnⅠ)戦線の主役を張ってきた馬たちは完敗。10歳のボンネビルレコードは9着で、世代交代を感じさせる結果となった。
 そして鞍上はと見れば、ローマンレジェンドの岩田康誠騎手は、今年、中央・地方・香港でGⅠ(JpnⅠ)勝ちを重ね、これが8勝目。ハタノヴァンクールの内田博幸騎手も今年GⅠ(JpnⅠ)4勝。GⅠ戦線を勝ちまくった地方出身の騎手同士での決着というのも、この1年を象徴するシーンとなった。
 勝ったローマンレジェンドは、前走ジャパンカップダートは岩田騎手の騎乗停止でミルコ・デムーロ騎手に乗り替って連勝が途切れた。直線伸びなかったのは力負けではなく、ズブイところが出てのもの。当時、藤原調教師は、むしろ初騎乗のデムーロ騎手をかばっていたほど。それだけに岩田騎手は自分が乗れなかった悔しさと責任も感じていたようで、「まだまだこの馬の本気度が伝わってこない、これからの馬なので、来年はさらに飛躍の年にしたいと思います」と、ローマンレジェンドへの期待の大きさを語った。
 最終レース終了後には、引退する2頭のセレモニーが行われた。

 フリオーソの戸崎騎手は、「今、フリオーソに声をかけるとしたらどんな言葉になりますか」という司会の大川アナの問いに、声を詰まらせるシーンがあった。
 中央在籍時にもボンネビルレコードの手綱をとり、帝王賞JpnⅠ、かしわ記念JpnⅠなどを制した的場文男騎手は、「ほんとうにまじめな馬で、ゴール板まで一生懸命走ってくる馬。それでこれだけの成績を残したと思います」と語った。
 大井競馬場には前年比111.1%となる35,595名の入場があったのは、レースのみならず、地方での活躍馬の引退という注目度の高さもあってのことだろう。東京大賞典1レースの売得金額22億4299万3600円は、前年比120.2%。そのうち地方競馬IPATの売得は3億8099万1200円で17.0%を占めた。地方競馬IPATでの馬券発売が始まったことも、2012年の大きなニュースだった。
岩田康誠騎手
今日は勝つために来ました。2番人気だったので、負かしてやろうという気持ちもあったし、ジャパンカップダートの成績がちょっと思わしくなかったので、自分自身が乗れなかった悔しさをここで爆発できたと思います。今年最後のレースを勝って締めくくれてうれしく思います。
藤原英昭調教師
今回は乗り慣れている岩田君で、自信を持って馬をつくれたと思います。(マイナス13キロは)初めての地方競馬と、ほとんど初めての輸送競馬で、たぶん減っているなと思いましたが、それで勝てたというのは収穫です。来年はジャパンカップダートにもう一度チャレンジして勝ち獲りたいですね。

エスポワールシチーが痛恨の出遅れ
引退レースでフリオーソも見せ場を作る

取材・文:斎藤修
写真:いちかんぽ(国分智・トム岸田・川村章子)、NAR