マイペースに持ち込み直線突き放す
10度目の挑戦で念願の重賞タイトル
2012年最後のダートグレード短距離戦、兵庫ゴールドトロフィーJpnⅢが園田競馬場で行われた。日本列島に訪れていた寒波の影響で、この日の園田競馬場も痛いくらいの冷たい風が吹きつけており、メインレースのパドックの時間帯には、粉雪も舞っていたほどであった。
1年前、デビューから無傷だったオオエライジンは、このレースで連勝がストップ。その時の勝ち馬スーニが、今年も59.5キロを背負い連覇を狙いにきた。今年はまだ勝利を挙げられずにいたが、前走のJBCスプリントJpnⅠは復調気配を感じるレースぶりだった。同じく斤量59.5キロのセイクリムズンは昨年2着に敗れたが、今年に入ってスーニに先着を許していない。メンバーや実績を考えると、最有力候補というのは当然のこと。単勝オッズは1.9倍で抜けた人気となった。園田のトップホース、オオエライジンは、前走の園田金盃で初めて地元所属馬に敗戦。そのショックは残るものの、もちろん人気、実力は折り紙つきだ。昨年の雪辱も期待され、地方馬で唯一単勝オッズ10倍を切る評価を受けた。
ゲートが開くと、先手を主張したのはティアップワイルド。逃げが予想されたコスモワッチミーはあまり競りかけることなく2番手に控え、各馬の態勢はすぐに落ち着いた。セイクリムズンやスーニは好位で前を伺っている様子だ。オオエライジンは、その直後につけた。
向正面に入ると、完全にティアップワイルドのペースになった流れを打破するかのように、オオエライジンが外から進出を始め、3コーナーあたりでは先行集団に並びかけた。騎手たちの腕が一気に動き始め、直線の攻防へと移る。しかし逃げていたティアップワイルドの手ごたえが違った。石橋脩騎手の懸命な鞭に応え、後続をさらに引き離し、突き抜けて見せた。最後は後続に3馬身半の差をつけ、逃げ切り快勝だ。
JRA勢の中では一番後方からレースを進めていたダイショウジェットが末脚を生かし、2着まで追い上げた。見せ場を作ったオオエライジンは、3~4コーナーでかなり外を回ってしまったが、直線はしぶとく粘って3着を確保した。
「よかったー!」と、レースから戻ってきた石橋騎手は喜びを爆発させていた。ティアップワイルドはこれが10度目の重賞挑戦。これまで惜しいレースはあったものの、なかなかタイトルには手が届かなかった。「どうしても、今年はこの馬に重賞を勝たせてあげたかった」という石橋騎手の思いきった逃げ、絶妙なペース配分が、ティアップワイルドを優勝へと導いた。また、現在のダートスプリント界を牽引している実績馬たちを一蹴したその価値も大きい。この路線にニューヒーローが誕生したといえよう。次走は、3月に高知競馬場で行われる黒船賞JpnⅢを予定しているという。
そして、このレース初の地方馬の優勝が期待されたオオエライジンだが、昨年と同じ結果となった。「4コーナーをまわって内にささってしまった」と木村健騎手。それでも、以前から先頭に立つと遊ぶ癖があると言われてきたオオエライジンが「今日は直線で遊ばずに、必死だった」という。まだまだ課題もある中で、このメンバー相手に3着なのだから、改めてこの馬のポテンシャルの高さを感じた。「一歩ずつしっかりと成長してくれています」と木村騎手は語っていた。来年こそはという思いは、みな同じだろう。
石橋脩騎手
競馬場に来てからレースを見て、園田のコースがどんな特徴があるのか把握してからレースに臨みました。逃げることも戦法のひとつにいれていましたし、思いきって行きました。自分のペースだったし、途中で息もいれられたし、3~4コーナーの手ごたえもとても良かったです。最後まで必死に追いました。
西浦勝一調教師
これで地方の重賞もどんどん使えると思うので、これからもっと活躍してくれると思います。これまで賞金が足りなくて出たくても出られなかったので、この勝利は大きいです。今回は状態も良かったので自信を持って送りだしました。小回りの1400メートルに対応できたのも収穫ですね。