直線一騎打ちをレコードで制す
鞍上は19年目でのグレード初制覇
名古屋グランプリの過去の優勝馬には、ヴァーミリアンやフィールドルージュなど、のちのジーワン馬たちが名を連ねている。また、昨年の覇者ニホンピロアワーズが今年ジャパンカップダートGⅠを制したことで、さらに注目度が高まった。この時期は東京大賞典GⅠと日程が近いため、一線級の馬の出走はなかなか叶わないが、今後のダート界を見据えるうえで、このレースはいわば出世レースともいえよう。
過去4年は、人気も結果もJRA所属馬が上位を独占しているこのレース。しかし今年は、白山大賞典JpnⅢでニホンピロアワーズの2着だった金沢のナムラダイキチが2番人気とファンの期待を集めた。JRA勢には抜けた実績馬がおらず、人気は4頭が分け合うような状況の中、レースがスタートした。
「ひきつけながら逃げようと考えていた」という岡部誠騎手のエーシンモアバーが外枠から先手を主張した。しかしその態勢は1周目の向正面あたりで一変、スタートからかかり気味だったトリップが一気に先頭に躍り出た。「2番手になってしまいちょっと心配しました」と岡部騎手は振り返ったが、2周目のスタンド前ではJRA勢4頭が後続を少し離す展開でレースは終盤へと進んだ。3コーナー手前でトリップが失速しはじめると、エーシンモアオバーとクラシカルノヴァが後続を引き離しながら一騎打ちムード。直線に入ると、先に抜け出したエーシンモアオバーめがけてクラシカルノヴァが猛追したが、エーシンモアオバーは一歩も譲らず、岡部騎手のガッツポーズと共に2500メートルの激戦を制した。そして、勝ちタイム2分40秒3はコースレコードとなった。
注目のナムラダイキチは、終始、中団でレースを進め、2周目の向正面で動きはじめたものの、前との差が開きすぎていた。それでも最後には伸びを見せ4着に食い込んだ。「道中揉まれるレースをしたことがなかったので、終始行きっぷりが悪かったです。でもいい経験になりました。いつか大きいレースを勝ちたいです」と畑中信司騎手。来年金沢で行われるJBCに向け、一歩前進といえよう。
勝ったエーシンモアオバーは、重賞挑戦10度目にして念願の初タイトル。これまで重賞ではすべて入着しており、超がつくほどの堅実派だ。「年齢的にも、今年は重賞を勝てる最後のチャンスかもしれない」と陣営は思っていたそう。6歳最後のレースで見事に花開いた。当初は、次走に佐賀記念JpnⅢを予定していたようだが、今回勝ったことで川崎記念JpnⅠも視野に入れるとのこと。このレースからまた新たなジーワン馬が生まれるのだろうか。
そして、この日一番の歓声を受けたのは、エーシンモアオバーを優勝に導いた地元の岡部誠騎手だ。騎手生活19年目にして、初めてのダートグレード制覇。表彰式のインタビューの最後で、岡部騎手は声を詰まらせた。今年は3月の落馬事故により4カ月もの休養を余儀なくされ、6年間守っていた名古屋リーディング(名古屋競馬場のみの勝利数)の座も明け渡した。表彰台の上で様々な思いが駆け巡り、いつも支えてくれる地元ファンの前で思わず涙が溢れた。「勝って泣いたのは初めてです。今年はケガなどいろいろあったけど、それでもたくさんの方が応援してくれていることを改めて実感しました」。そう語る岡部騎手の表情は、穏やかで優しかった。「これをステップに、もっと上手くなりたい」という名古屋のトップジョッキーは、来年、さらなる進化を見せてくれるに違いない。
岡部誠騎手
2番手になってちょっときつかったんですが馬の力を信じて乗りました。3コーナーでもバテてなかったのでなんとか押し切れるかなと。最後は馬の根性で抜かせませんでしたね。交流重賞には縁がなかったんですがようやく勝つことができました。この調子でステップアップしていきたいです。
沖芳夫調教師
前走がマイナス21キロ。そこからプラス23キロだったので急激に戻りすぎたという心配は少しありました。でも調教はとてもスムーズだったのでチャンスかなと思っていました。この馬は力以上に頑張って走ってくれる馬です。大きなタイトルをひとつ獲らせてあげたかったので嬉しいです。