2012年12月2日(日) JRA阪神競馬場 ダート1800m
直線先頭に立ち後続を寄せつけず
支えてくれた人へ恩返しのGⅠ初制覇
黒く厚い雲に覆われた阪神競馬場は、最高気温が10度に届かず真冬を思わせる寒さ。夕方からは雨の予報もあり、実際にジャパンカップダートGⅠのパドックから本馬場入場のころに雨が落ちてきたが、それでも最終レースまで傘をさすほどの降りにならなかったのは幸いだった。
3年前の覇者エスポワールシチー、一昨年、昨年と連覇しているトランセンドが出走してきたが、1番人気に支持されたのは、6連勝の快進撃で一躍ダート戦線の本命と目されるようになったローマンレジェンド。マイルチャンピオンシップ南部杯JpnⅠ圧勝で衰えのないことをアピールしたエスポワールシチーがやや離れて2番人気、差のない3番人気にはJBCクラシックJpnⅠを5馬身差の圧勝でGⅠ・JpnⅠ初制覇を果たしたワンダーアキュートで、新興勢力と実績馬が人気の中心となった。しかし勝ったのは、単勝19.9倍の伏兵ニホンピロアワーズだった。
佐藤哲三騎手の怪我によって武豊騎手に乗替りとなったエスポワールシチーがすんなりと先頭に立ってレースを引っ張る。ホッコータルマエが2番手で、差なくトランセンドが併走、ニホンピロアワーズ、ワンダーアキュート、グレープブランデーらが続き、ローマンレジェンドはその後ろ中団から。
勝負どころを前にした3コーナーでトランセンドが後退し、エスポワールシチーも4コーナーから直線で徐々に下がっていったところは、このレースのひとつ印象的なシーンだった。
代わって抜群の手ごたえで先頭に立ったのはニホンピロアワーズ。同じような位置を追走していた好位勢が必死に追っていたが、ニホンピロアワーズの酒井学騎手はがっちり手綱をおさえたまま。ようやく追い出されたのは残り200メートルを切ってから。あっという間に後続を突き放し、馬群を捌いて2着争いから抜け出してきたワンダーアキュートに3馬身半差をつけての完勝となった。
勝ったニホンピロアワーズは、普段は抜け出すとソラを使うところがあるそうなのだが、「これならという手ごたえで、追い出したらよく伸びてくれました。後続の脚音も聞こえなかったので、こんなに強い勝ち方をしちゃうのかとびっくりした」と酒井騎手。前々走の白山大賞典JpnⅢをはじめ、地方でのダートグレード3勝ではいずれも強い勝ち方を見せていたが、中央のダート重賞では善戦するも勝ちきれないでいた。それだけに、「前走から今回にかけての変わりようがびっくりするくらいすごかった」とも。
一方、昨年に続いての2着だったワンダーアキュートは、前走JBCクラシックではマイナス21キロだった馬体重を再び同じだけ戻してプラス21キロ。直線では前が壁になる場面があり、外に持ち出してから追い出し、伸びてはいたものの、今回は勝ち馬の勢いには及ばなかった。
3着に3歳のホッコータルマエが入り、注目のローマンレジェンドは4着まで。主戦の岩田康誠騎手がジャパンカップでの騎乗停止のため、乗替ったミルコ・デムーロ騎手は「ずぶくて押しても行ってくれなかった」と。管理する藤原英昭調教師は、「展開もハマったと思ったんですが、勝負どころでイメージよりも伸びなかった。ずぶくて難しいところがあるから、ミルコがかわいそうだった。まだ若いし、これからです」と騎手をかばった。
エスポワールシチーは10着、トランセンドは最下位16着に沈み、2着のワンダーアキュートこそトランセンドと同じ6歳だが、それ以外は6着のミラクルレジェンドまで若い5歳以下の馬が上位を占め、いよいよ世代交代を感じさせた。また近年、JRAのGⅠでは社台グループの生産馬による上位独占が目立っているが、上位3着まで日高の生産馬が占める結果ともなった。
酒井学騎手
大橋勇樹調教師
ニホンピロアワーズをGⅠ制覇に導いた酒井学騎手は、川崎の酒井忍騎手の弟で、これがデビュー15年目でのGⅠ初制覇。「怪我をしたりの中で支えてくれる方がいて、勝つことでしか恩返しができないので、ようやくひとつはできたかな、もっともっと恩返しをしたいと思います」と、騎乗馬が少なく落ち込んだ時期にも乗せ続けてくれた“ニホンピロ”のオーナーや、一時期ニホンピロアワーズの手綱をとっていた幸英明騎手らに対しての感謝の言葉が印象的だった。
酒井騎手(左)とプレゼンターのF1ドライバー、小林可夢偉さん
取材・文:斎藤修
写真:桂伸也(いちかんぽ)、NAR
写真:桂伸也(いちかんぽ)、NAR