地元ヒロイン2頭の一騎打ち
年上の女王が引退レースを飾る
地方競馬IPAT元年。全国の競馬ファンに魅力ある笠松グランプリを提供しようと、設定された1着賞金は昨年の3倍以上となる1000万円。となれば出走メンバーが充実するのは当然のことで、南関東から3頭が参戦し、地元の女傑2頭もエントリー。そのなかでも大きな注目を集めたのは、笠松では2年ぶりの出走となるラブミーチャンだった。平日でも場内は賑わいを見せ、2台のテレビカメラもこの一戦に注目。それに呼応するかのように、ラブミーチャンの単勝オッズは1.3倍と、圧倒的な数字になっていた。
しかし、ラブミーチャンはJBCスプリントJpnIで9着に惨敗。そこから中16日での実戦である。はたして立ち直っているのかどうか、最初の焦点はそこだった。
そのファンの心配をよそに、パドックでのラブミーチャンは元気一杯。2人曳きでも抑えるのに苦労している姿は、体調良好を思わせた。エーシンクールディも2度の南関東遠征で減り続けた体重を一気に戻して雰囲気は良好。南関東から遠征の3頭はいずれも初コースだったが、イレこむ様子をさほど見せず、返し馬へと移っていった。
そしていよいよファンファーレ。しかし遠征馬のなかの何頭かが、なかなかゲートに入らない。ようやくゲートが開いた瞬間、ラブミーチャンはお尻が落ちるような格好で、後手を踏むことになってしまった。
対するエーシンクールディは好スタートを切ったが、今回は笠松コースに慣れていない人馬が多数。勢いよく先手を取ったのは兵庫のフィオーレハーバーで、川崎のセンゲンコスモがそれを追いかけ、本来は差しタイプのヤサカファイン(大井)までもが先頭集団に加わる形。いつもの笠松競馬とは違う流れのなか、ラブミーチャンは4番手で折り合い、エーシンクールディは5番手を追走して、3コーナー手前からレースは動いた。
「インが空いたので」と、ラブミーチャン鞍上の濱口楠彦騎手がゴーサインを出して一気に先頭に。「それを見て、一瞬あせった」というエーシンクールディ鞍上の岡部誠騎手が外を回って追撃開始。4コーナーでは地元のヒロイン2頭に勝負の行方が絞られた。
その状況に「ラブミーチャン頑張れ」の声があちこちから上がった。しかし逃げ込みを図るラブミーチャンに、白い馬体が徐々に接近。残り50メートルあたりでその順位は入れ替わり、エーシンクールディが笠松グランプリ連覇を成し遂げた。
その2頭の攻防には、観客の多くが満足気な表情。オッズ的にはラブミーチャンが負けてくやしい人は多いはずだが、頑張っているところを見られて何より、という感覚が地元ファンにはあったのかもしれない。
ただ、エーシンクールディにも負けられない理由があった。レース後に伊藤強一調教師に次の出走予定を確認したところ、「ありません」と一言。選出されていた12月5日のクイーン賞JpnIIIも、このレース前に辞退の連絡を入れていたそうだ。つまりこれが引退レース。「結果が出てよかったですよ。これで肩の荷が下りました」と、安堵の表情で話す姿が印象的だった。
岡部誠騎手
逃げられれば逃げたいと思っていましたが、ほかの馬が速かったので控える形に。砂をかぶっても大丈夫でしたし、道中はどれだけリラックスして走らせるかということだけを考えていました。姫路のレース(兵庫サマークイーン賞)で差せることもわかっていましたし、最後の直線では差し切れるなと思いました。
伊藤強一調教師
JBCでの疲れがけっこうありましたし、絶好調だった去年と比べると、出来としては7分くらいではないでしょうか。それでも勝つことができたのは、岡部騎手が流れにうまく乗せてくれたおかげ。これから北海道で繁殖入りする予定ですが、ぜひこの馬の産駒を手がけてみたいと思っています。
その一方、1歳年下のラブミーチャンは現役続行の予定。「JBCのときよりは良かったけれど、本調子にはまだまだ。やっぱり乗り込みが足りなかった分かなあ」と、濱口騎手。それでも来年3月1日には同じ舞台でオッズパークグランプリが予定されている。今後の選択肢はそれを含めて考えられることになりそうだが、これからもファンが喜ぶ走りをきっと披露してくれるはずだ。
ラブミーチャンは体調良好を思わせたが、2着だった。
取材・文:浅野靖典
写真:NAR、宮原政典(いちかんぽ)
写真:NAR、宮原政典(いちかんぽ)