マイペースの逃げから粘り込む
厩舎・鞍上とも念願のタイトル
日高地方はこの秋一番の冷え込みという予報もあり、気温は0度近くまで下がった。それでも開催最終日の門別競馬場には、メインレースが近づくにつれて来場者が増え、ゴール前の従来のスタンドも、ポラリスドームも、溢れんばかりのファンや関係者で熱気に包まれた。
そしていよいよ迎えた、ホッカイドウ競馬のシーズンを締めくくる道営記念。フルゲート16頭には多彩なメンバーが集まった。
1番人気のリアライズノユメは、南関東から転入してまるで馬が変わったかのように3連勝の快進撃で瑞穂賞まで制した。道営記念連覇を目指すショウリダバンザイは、グランダム・ジャパン古馬シーズンの遠征帰りで、地元での出走は7月のノースクイーンカップを勝って以来。クラキンコの今シーズンは星雲賞を勝ったのみで、ここで巻き返したいところ。
そして今シーズン、ホッカイドウ競馬の古馬戦線を盛り上げてきたのが、中央のオープン・準オープンからの転入馬だ。ステイヤーズカップを制したシャア。モエレビクトリーはA1特別で4着のあと2連勝。エイシンナナツボシは瑞穂賞2着。ジョーモルデューは転入初戦のコスモバルク記念を制し、その後も重賞で善戦。そのほか、エイシンダッシュ、ジートップキセキらもシーズン中の転入。昨年の古馬戦線とはかなり顔ぶれが変わった。
さらに有力馬には、典型的な先行馬、追い込み馬がいて、レースの流れや展開予想も興味深い一戦となった。
好スタートは最内枠のシャアだが、外枠からモエレビクトリーがじわじわと交わして先頭に立った。リアライズノユメも差なく続き、エイシンナナツボシ、クラキンコらはそのうしろ。ショウリダバンザイ、ジョーモルデューらは例によって後方に控えた。
隊列にそれほど変化がないまま迎えた直線、モエレビクトリーが一旦は後続を突き放したが、エイシンナナツボシがじわじわと差を詰め、しかしモエレビクトリーはこれを3/4馬身差で振り切って勝利。徐々に位置取りを上げてきたショウリダバンザイがゴール前で迫ったものの1馬身半差3着。直線で勢いをなくしたリアライズノユメは4着だった。
結果、田中淳司厩舎のワンツー。勝ったモエレビクトリー、2着のエイシンナナツボシは、ともに転入後3戦という道営記念の出走資格をギリギリ満たしての挑戦だった。
中央からの転入馬がいきなり古馬戦線のトップに立つというのは、ホッカイドウ競馬に限らず近年いくつかの地方競馬で顕著に見られるようになった傾向で、これには否定的な意見も聞かれる。しかし中央のダート戦線はオープンまで出世すると、ある程度賞金を稼がなければ自由にレースが選択できないような飽和状態。一方で実力差が広げられつつある地方にとっては、中央でやや頭打ちになったこうした馬たちが転入し、そして持てる力を発揮するようになれば、トップレベルの底上げが図れる。こうした傾向は、いわば“適材適所”で、日本の競馬全体を考えれば悪いことではない。
服部茂史騎手
やっと勝てました。もうちょっとのところで勝てないことがあったり、このタイトルはどうしても欲しかったんで、今日は最高の気持ちです。テンにハナに立てたんで、あとは馬に任せて、自信を持って乗っていました。馬がペースをつくってくれました。
田中淳司調教師
ここ何年か、(道営記念は)ずっと2着とか3着だったんで、ようやく勝てました。前走も六~七分の状態で、中央の実績を考えれば、勝ってもおかしくないと思っていました。ここを勝ったら東京大賞典と思っていたので、脚元の状態を見て、行きたいと思います。
シーズン終盤に来ての熾烈な騎手リーディング争いも注目となった。最終日を迎えた時点で五十嵐冬樹騎手と服部茂史騎手が111勝で並び、2着の差で五十嵐騎手がトップに立っていた。この日、第7レースで勝利を挙げた服部騎手が一歩リード。最終レースとして行われた道営記念をカネマサゴールドの五十嵐騎手が勝てば再度逆転という可能性もあったが、結局モエレビクトリーの服部騎手が2勝差をつけて3年連続のリーディングを確定させた。道営記念初勝利と二重の喜びとなった服部騎手の「最高の形で締めくくれた」という言葉で、ホッカイドウ競馬の2012年シーズンは幕を下ろした。
取材・文:斎藤修
写真:中地広大(いちかんぽ)、NAR
写真:中地広大(いちかんぽ)、NAR