JRAの伏兵が内を突いて抜け出す
わずか1頭の生産馬が重賞勝ち
北海道2歳優駿JpnIIIの2週間前に行われた、エーデルワイス賞JpnIIIでは、ホッカイドウ競馬所属のハニーパイが優勝。2着にも同一馬主(グランド牧場)のピッチシフターが入って、地元勢でのワンツーフィニッシュを達成した。
北海道2歳優駿でも人気を集めたのは、ホッカイドウ競馬の所属馬で、同一馬主(サンデーレーシング)のアウトジェネラルとジェネラルグラント(馬連複ではこの2頭の組合せが1番人気)。その2頭と同じ廣森久雄厩舎に所属するカイカヨソウを加えた3頭は、地方・中央を合わせた総合ブリーダーランキングで首位を走る、ノーザンファームの生産馬でもある。
この北海道2歳優駿には毎年のように有力馬を送り込んでいるノーザンファームだが、“3本の矢”を揃えた今年は、勝利という的を射貫くどころか、同一生産者による上位独占の期待すらあった。
中央勢では、来シーズンから日高町・ダーレースタリオンコンプレックスに繋養されるストリートセンス産駒の持ち込み馬、マルヴァーンヒルズが単勝では2番人気の支持を集め、ノーザンファームとブリーダーランキングを争う、社台ファームの生産馬であるファイブタブレットが4番人気。2頭出しとなった五十嵐忠男厩舎では、アルムダプタが7番人気、コスモコルデスが8番人気と、ホッカイドウ競馬勢に人気を奪われたような形となった。
ゲートが開き、大外から一気に主導権を奪いに行ったのは、前走のサンライズカップでも逃げ切りを決めたジェネラルグラント。その後をカイカヨソウ、コスモコルデスが続いた。1番人気のアウトジェネラルは後方3番手を追走。しかし先頭との差はそれほどなく、しかもよどみのない流れのまま、レースは直線へと入っていく。
前を行くジェネラルグラントに並びかけたのがコスモコルデスとカイカヨソウ。そして最内からするすると伸び、その叩き合いに加わってきたのがアルムダプタだった。
向正面でアルムダプタに他馬の蹴り上げた砂が当たった際、嫌そうな素振りを見た五十嵐調教師は、「直線では外に馬を出せれば」と思ったという。幸英明騎手もまた、ひとつ前のレースで騎乗したときの感触や、他の騎手と話をした中で、「砂が深くなっているインコースは避けよう」と作戦を決めていた。
しかし、勝負どころでぽっかりと空いたインコースに幸騎手が進路を向けた時、アルムダプタは飛んでくる砂の固まりどころか、深い砂もまったく気にすることなく、直線で抜け出し先頭でゴール。
ジェネラルグラントがラスト1ハロンで失速していく中、アルムダプタに食い下がって2着を確保したのがコスモコルデス。カイカヨソウがこの2頭に続き、大外から追い込んできたアウトジェネラルは、ジェネラルグラントを交わしての4着までだった。
優勝したアルムダプタを生産した、浦河町・安原実さんの牧場には、繁殖牝馬が同馬の母であるリベラノ1頭しかいないという。つまりこの世代は僅か1頭の生産馬で、ダート交流重賞制覇という快挙を果たしたことになる。
生まれ育った環境からすれば“1本の矢”どころか、“1本の針”のようなアルムダプタではあるが、それでも大牧場の生産馬たちに先着してみせるのが競馬の面白さ。今後は“針の一差し”と言わんばかりのレースぶりで、小さな生産牧場に日本一大きなタイトルも届けてくれそうだ。
調教師