レースハイライト タイトル
dirt
2012年11月5日(月) 川崎競馬場 1400m

この秋一気に頂点を極める
晩成の血が花開いての勝利

 今年のJBCスプリントJpnIは注目馬多数のメンバー構成。最終的には4頭が単勝10倍以下となったが、セイクリムズンが1.5倍で断然人気。続いてタイセイレジェンドとラブミーチャンが5倍前後と、この3頭がやや抜けた人気となっていた。
 JBCの3レースのうちレディスクラシックは終了していたが、それでも観客は川崎競馬場へ続々と入場。人垣の厚さがいっそう増したパドックにJBCスプリントの出走馬が入ってきた。それと同時に小粒の雨が落ちてきたが、騎乗合図の頃には止む程度のもの。霧雨のなか、蹄音を立てる馬がほとんどいないパドックは、静かな闘志に包まれていた。
 関東では初めてとなる1400メートルのJBCスプリント。小回りコースの川崎だけに、どの騎手もまっさきにスタートを切りたいと思っていたであろうところで、アクシデントが起こった。ゲートが開いたその瞬間、チョウサンペガサスが大きくつまずき、ラブミーチャンもタイミングが合わずに出遅れ。内枠ではセイクリムズンとダイショウジェットが空脚を踏むような格好で、最初の踏み出しが遅くなってしまった。
 それとは対照的に、すぐさま先手を取り切ったのがタイセイレジェンド。好スタートを切ったシャイニングアワーと立て直したラブミーチャンが馬群の外から追いかけるが、1~2コーナーでは体半分ほどリード。向正面では先行する3頭に向かって、スーニがアウトコースから、オオエライジンがインコースから攻め上がっていくが、タイセイレジェンドは後続各馬に並ばせない。4コーナーを回り終えるあたりでは、むしろ2番手以下との差を広げていった。
 そして最後の直線は独走。このレースぶりは、まさに好スタートから逃げて最後の直線で追いかける各馬を置き去りにしたクラスターカップJpnIIIのような、圧倒的なものとなった。さらに勝ちタイムは1分26秒6のレコード。このレースでは最下位に敗れたが、チョウサンペガサスの従来の記録を0秒2短縮する快記録である。
 3馬身遅れの2着には、最後の直線で瞬発力を見せたセイクリムズン。さらに2馬身差でスーニが粘り込み、中団から流れ込んできたセレスハントとダイショウジェットが続いて入線。JRA勢が上位独占という結果になった。
 検量室前で、「よく、ここまでたどりついた」と感慨深そうに声を発したのは、タイセイレジェンドを管理する矢作芳人調教師。この馬自身、久々となる520キロを切る体重は、陣営が勝負をかけてきたという証拠だろう。対して、昨年2着の雪辱を期したセイクリムズンは、岩田騎手が「スタートで滑ったのがすべて」と悔しがった。
 地方所属馬で最先着したのは6着のオオエライジン。木村健騎手は「1コーナーで外に行きたがって……」と、左回りに敗因を求めた。そして地方競馬ファンの期待を背負ったラブミーチャンは9着。柳江仁調教師は上がり運動をしているラブミーチャンを見ながら「パドックでこんなに元気がなかったのは初めて。馬体も思っていたより減っていましたし」と、首をひねった。「それでも今の歩様などを見る限りでは、脚元に問題があったとかではなさそうですし、笠松グランプリに向けてまたがんばります」と、気を取り直していた。
 その近くには、表彰式を終えて、タイセイレジェンドの様子を確認に来た矢作調教師が。花束を抱えながら愛馬を見ている矢作師の後姿は、いかにも肩の荷が下りたという安堵を感じさせる背中だった。
内田博幸騎手
逃げたら強いということはわかっていましたが、もし逃げられなかったら好位でと思っていました。でもスタートがすごくよくて、いい形で勝たせてもらえました。返し馬のときから馬がすごくやわらかくて、いい雰囲気でしたね。この川崎競馬場で、南関東出身の矢作調教師、内田博幸のコンビで勝ててよかったです。
矢作芳人調教師
東京盃(2着)は、クラスターカップから少し間隔があった分かなという感じでしたが、それからずいぶんと状態が上がりました。逃げられれば大丈夫だと思っていましたし、大井の1200より小回りの1400のほうがベターですからね。今後は来年のフェブラリーステークスを目標にしていきたいと思います。


取材・文:浅野靖典
写真:いちかんぽ(川村章子、森澤志津雄、国分智)、NAR