初の重賞制覇は6馬身差
秋への夢が広がる勝利
この日は関西地方で大雨による被害や交通機関の乱れなどが早朝から多発したが、遠く離れた盛岡競馬場でもその影響が。当日、競馬場入りする予定となっていたセレスハント騎乗の岩田康誠騎手が盛岡に到着できない状況になってしまったのだ。このため、同馬は条件交流競走で盛岡に来ていた田中勝春騎手に乗り替わることが発表された。
盛岡も関西ほどではないものの、朝方に強い雨が降った。6時すぎには上がったが、馬場コンディションは第1レースから不良。しかしそれも夏の陽射しが強くなるのに伴って解消されていき、第4レースからは重に回復。クラスターカップJpnⅢが行われる頃には、ダートコースの表面は明るい色に戻っていた。
それでも気温は30度を下回っており、空気は快適。パドックに入場してきた12頭は皆、鞍下にうっすらと汗をかいていたが、したたり落ちているという馬はおらず、JRA5頭、地方他地区4頭、そして地元代表の3頭はすべて、真っ向勝負が期待できるコンディションが整っているように感じられた。
しかし馬場入場のときに再びアクシデント。浦和から遠征のトーセンクロスが何かに驚いたのか、急に横っ飛びしてゴール前の外ラチに激突、騎手を振り落として走り出してしまったのだ。放馬したトーセンクロスは馬場を順まわりに1周したところで装鞍所に引き入れられたが、白いガードレールを支える金具が破損して外ラチ5メートル分ほどが落下。それを針金で元の位置に固定する応急処置が取られたが、その影響もあってファンファーレは予定より5分遅れになった。
それでも短距離戦だけに、スタートに向けての集中力は切らせられない。そのなかでゲートが開いた瞬間に一気の飛び出しを見せたのは、アイルラヴァゲインとブリーズフレイバーの8枠2頭。そこに単勝1番人気のタイセイレジェンドも加わっていく。僅差2番人気のセレスハントはやや後手を踏んだが、すぐに挽回して先頭を射程圏にとらえる位置へ。3番人気に支持された船橋のスターボードも先頭集団のなかにいた。
スタートから200メートル後には先頭に立っていたタイセイレジェンドの行き脚は快調。3~4コーナーの下り坂で息を入れたものの、ホームストレッチの上り坂で豪快に加速。逃げた馬に上がり3ハロン35秒2という最速タイムを出されては、後続はなすすべなしという状況で、残り100メートル地点では、2着セレスハント、3着アイルラヴァゲインの順で決着という形になっていた。
「脚抜きのいい馬場が向くタイプなので、今朝の雨がよかったですね」と、矢作芳人調教師はホッとした表情。「今回も選定順が5番目でギリギリ。賞金を加算しないと出たいレースに出られないから、この勝利は本当に大きいですよ」とも。その意味でも今後への糧になる6馬身差といえるだろう。
タイセイレジェンドは待望の初タイトルをきっかけに、頂点まで登りつめていくことになるのだろうか。この日の圧勝ぶりならその可能性は十分にありそう。JBCスプリントJpnⅠのタイトルをめぐる路線にまた1頭、新たな役者が加わった。
内田博幸騎手
2カ月ぶりでしたが、いいスタートが切れて、逃げる馬もいなかったので下げることはないと思って先頭に立ちました。後続に強い馬がいましたが、直線でビジョンを見たら離れていたので余裕をもってゴールできました。矢作調教師(父が大井の元調教師)と同じ大井出身コンビで重賞を勝てたこともうれしいです。
矢作芳人調教師
斤量的に恵まれたなと思っていたので、ある程度やれるかなという思いはありました。夏があまりよくないので、北海道の放牧先から函館競馬場に入厩させて、そこから盛岡に移動させるという作戦もうまくいきましたね。これで胸を張ってJBCを目指せます。このあとは栗東に戻して、東京盃に向かう予定です。