レースハイライト タイトル
dirt
2013年3月13日(水) 船橋競馬場 2400m

スローに持ち込み人気馬を完封
母と同じ逃げの作戦で快心の勝利

 昨年秋からの、マイルチャンピオンシップ南部杯、JBCクラシック、ジャパンカップダート、東京大賞典、川崎記念、フェブラリーステークスというダートGⅠ/JpnⅠの勝ち馬がすべて異なっているように、群雄割拠のダート中長距離戦線。そうした中の1頭が、川崎記念JpnⅠの覇者ハタノヴァンクールだ。実績を見ても今回の出走メンバーでは一枚抜けた存在。もちろんそれは単勝オッズにも表れ、1.2倍の圧倒的な支持を集めた。それに続くのは昨年の日本テレビ盃JpnⅡの勝ち馬ソリタリーキングで4.4倍。単勝オッズ10倍以下はこの2頭のみでレースがスタートした。
 最初の3コーナー手前で先手を取り切ったのはオースミイチバンだ。直後2番手の外にクラシカルノヴァで、行き脚がつかなかったトーセンアドミラルは3番手の内に控え、ソリタリーキングは4番手、それをマークするようにハタノヴァンクールが続いた。地方勢で期待されたシーズザゴールド、トーセンルーチェは中団でレースを進めていた。
 マイペースに持ち込んだオースミイチバンを先頭にゆったりとレースが流れ、2周目向正面でペースが上がっても隊列はなかなか変わらない。そんな中、3コーナー手前で動いたのがハタノヴァンクールだった。ソリタリーキングを交わし一気に2番手まで押し上げると、あとは突き抜けるだけ、そんな手ごたえに見えた。しかし、直線に入るとオースミイチバンがもうひと伸び。ハタノヴァンクールはなかなか差を縮められない。そして川島信二騎手の懸命なアクションに応えたオースミイチバンは、追いすがるハタノヴァンクールをクビ差で凌ぎ、2400メートルを逃げ切ってみせた。
 ダイオライト記念の過去10年のデータを見ると、1番人気が6勝で、勝ち馬はすべて3番人気以内。6番人気、単勝4590円という高配当の伏兵馬が勝利することは、近年のダート交流重賞では珍しいこと。
 勝ったオースミイチバンは、今回初めて逃げの手に出た。「お母さんのオースミハルカが逃げて活躍していたので、その戦法を一度試してみたかった」という川島信二騎手の作戦がぴたりとはまったのだった。昨年のジャパンダートダービーJpnⅠではハタノヴァンクールの4着に敗れていたが、ここで雪辱。「(ハタノヴァンクールに)初めて先着したし、たまたまです」と荒川義之調教師は謙遜気味だったが、JpnⅠ・2勝馬をねじ伏せたこの勝利は大きな価値があるだろう。賞金が加算され今後のレースも選びやすくなり、4月以降どのような路線を歩むのかにも注目だ。
地方馬最先着は5着のトーセンアドミラル
 一方、2着に敗れたハタノヴァンクールの四位洋文騎手はレース後、「川崎記念と比べると、3~4コーナーの手ごたえが悪かった。でもこのメンバー相手に負けたくなかった」と悔しそうな表情を見せた。昨年末からの激戦続きで疲れがあるのかもしれない。大目標の帝王賞JpnⅠへ向けて不安の残る結果になったが、巻き返しに期待したい。
 さて地方勢に目を向けると、最先着は5着のトーセンアドミラルで、昨年3着のトーセンルーチェはスローペースに泣き6着に終わった。古馬中長距離のダート交流重賞(牝馬限定戦は除く)で地方馬が3着以内に入ったのは、昨年10月に行われた白山大賞典JpnⅢでのナムラダイキチの2着を最後に途絶えているが、それが現実だ。昨年引退したフリオーソの功績にいつまでも甘えているわけにはいかない。上半期の大一番に向けて、タイトルを狙える馬の出現を願うばかりだ。
川島信二騎手
逃げは最初から考えていましたが、上手くいきましたね。ハタノヴァンクールが詰めてきても、3~4コーナーではこのペースならいけると思いました。前のレースに乗せてもらい、コースや馬場を確かめることができたのも良かったです。家族の前でなかなか重賞が勝てなかったので嬉しいですね。
荒川義之調教師
これまで賞金が足りなくて使えるところに出るしかなかったのですが、これで選べそうですね。距離は長くても、もう少し短くても折り合いがつくので大丈夫です。この馬の良いところは最後まで一生懸命走るところ。行き脚が速くないので、同じ脚質の馬がいると今日みたいな競馬がしづらくなりますね。


取材・文:秋田奈津子
写真:森澤志津雄(いちかんぽ)、NAR