従来、単独の競馬場で行われてきた女性騎手招待競走を、複数場で施行することにより、シリーズ化(3ラウンド6レースの総合ポイント制)。2006年度から現在の形態で実施されている。
 女性騎手のみで行われるレースは年間を通じて当シリーズのみで、注目度も高く、日本一決定戦の側面だけではなく、普段の競馬場では見られない華やかな雰囲気とお祭り感も特徴の一つ。

 三部作のノンフィクション DRAMATIC3
 【第三部 レディースジョッキーズシリーズ】
 〜今年、何度、女の強さを見せつけられるのだろう。この走りには必ずドラマがある〜


2011年LJSスナップレポートはこちらです。
※下の“タブ”をクリックするとご覧になりたいレースの記事に切り替わります。

3年ぶりに掴んだ嬉しい勝ち星
初優勝へと近づく大きな1勝

 上位4名が20ポイント台にひしめく接戦で迎えたレディースジョッキーズシリーズ(LJS)第2ラウンドの舞台は、荒尾競馬場。ここでは04年から全日本レディース招待競走が行われ、06年からはLJSに引き継がれた経緯があり、毎年必ずレースが行われてきていたお馴染みの競馬場である。しかしご存知の通り、荒尾競馬は年内でその83年の歴史に幕を下ろすことが決定。今年は例年とは違った雰囲気の中での開催となった。
 特に大きなトピックとなったのは、自ら荒尾に来ることを提案したという武豊騎手の存在だった。JRAとの条件交流シーサイドカップに騎乗した他、トークショーや女性騎手達との記念撮影会、表彰式にも積極的に参加し、場内を大いに盛り上げた。この日の荒尾競馬場の入場人員は2147名。去年、荒尾でLJSが行われた12月16日の入場が1044名だから、実に2倍もの人が詰め掛けたことになる。競馬場内はたくさんのファンであふれ、ちょっとしたお祭りムード。その声援はもちろん、女性騎手達にも届けられていた。
 盛り上がる場内の支持を受け、1.6倍の1番人気に応えたのが、ダイワジョリーに騎乗し第3戦のアテナ賞を制した増澤由貴子騎手(JRA)だ。レース前、「調教師からは2〜3番手でレースをしてほしいと指示があった」とのことだが、スタート後は3〜4番手を追走。3コーナー手前から皆川麻由美騎手(岩手)が乗るオーマイマミーと共に進出を開始し、増澤騎手が4コーナーで先頭に立つ。直線では皆川騎手が追いすがり、この2頭の争いと思われたが、外から山本茜騎手(名古屋)と岩永千明騎手(荒尾)が猛追し、ゴールは4頭による大接戦。ハナ、クビ、ハナ差の大接戦を制した増澤騎手は、「最後は手応えが怪しくなりましたが、なんとか残ってくれて良かったです。本当に嬉しい」と、とても晴れやかな笑顔を見せてくれた。それもそのはず。増澤騎手が最後に勝利を挙げたのは08年の12月3日。それは奇しくも荒尾で行われたLJSのレース(第6戦)であり、今回はそれ以来3年ぶりに掴んだ勝ち星だった。
 「陣営から最後は確実に良い脚を使う馬だと聞いていたので、それを信じて乗りました」とレース後に話したのは、第4戦のデメテル賞をメルシーレインボーで制した別府真衣騎手(高知)。地元開催で力の入る岩永騎手のフリークムーンが予想通りに逃げる展開となったが、別府騎手は慌てず騒がず、中団を追走。3コーナー手前でムチを一発入れて徐々に前に進んでいき、直線は外へ。残り100メートルを切ったところで岩永騎手を捉えて先頭に立つと、最後は4馬身引き離しての完勝だった。レース後、別府騎手は、「一度ムチを入れたら反応が良かったので、これは勝てると思いましたね」と、納得の表情。しかし勝っても、「第3戦が6着となってしまったのが痛い」と、悔しさを滲ませていたのが印象的だった。
 後ほど発表された荒尾ラウンドの結果を知り、別府騎手が悔やんだ理由がわかった。1位は1着・5着で25ポイントを獲得した増澤騎手で、6着・1着の別府騎手は23ポイントで2位だったのである。
 そんな、熱い闘いを目の当たりにした武騎手は、「女性同士のバトル、楽しかったですね。全国に女性ジョッキーがいることをアピールする機会になるから凄く良いと思う。これを見て、騎手を目指す女性がたくさん出てくるといいですよね。今後もこういう企画が増えればいいと思います。大変だと思うけど頑張ってほしい」とコメント。スーパージョッキーである武騎手から送られたエールは、今後の女性騎手達にとっても、大きな励みとなることだろう。競馬業界を取り巻く環境はより一層、厳しいものとなってきているが、競馬そのものが持つ影響力、パワーは大きいもので、まだまだ出来る努力はあるのではないかと、改めて感じさせてくれる言葉だったように思う。
 さあそして、注目の総合優勝争いだが、荒尾ラウンドを制した増澤騎手が、これまでの通算ポイントを50とし、暫定トップに躍り出た。「盛岡から良い流れで来ているので、最終戦の福山でも頑張りたいです。LJSは08年に2位になったのが最高なので、是非、初優勝を狙いたいですね」と増澤騎手は意気込みを語ったが、トップの50ポイントから4位山本騎手の43ポイントまで、その差はたったの7ポイント。去年の最終ラウンドで2連勝を決め、大逆転で優勝した岩永騎手のように、今年も最後に大きなドラマが待ち受けているかもしれない。泣いても笑っても、12月19日の福山競馬場ですべてが決まる。意地とプライドを賭けた華麗なる闘いを最後まで見届けよう。
取材・文:小島友実
写真:トム岸田(いちかんぽ)
荒尾ラウンド
優勝

増澤由貴子騎手
ダイワジョリーは3〜4番手からのレースでしたが、途中でスムーズに上がっていけたので良かったです。ゴール前は手応えが怪しくなりましたが、凌いでくれました。3年ぶりに勝利を挙げることが出来て、本当に嬉しかったです。現在、暫定で総合1位。LJSは2位が最高なので、最後の福山も頑張って、是非、初優勝を狙いたいですね。
荒尾ラウンド
2位
別府真衣騎手
第4戦で勝ったメルシーレインボーは最後確実に脚を使う馬だと聞いていたので、それを信じて乗りました。ムチを入れたら反応してくれたので勝てると思いましたね。今回は第3戦の6着が痛かったです。6人だけに、1戦1戦の着順が大きく響く。福山では勝たないと優勝は難しいと思うので、勝つ気で乗りたいです。
荒尾ラウンド
3位
岩永千明騎手
今回は地元の開催。荒尾は今年で終わってしまうので、ファンの皆さんになんとか勝つところを見せたかっただけにとても残念です。でもまだ優勝を狙える位置にいますし、先日、福山競馬場の交流レースに乗せていただいたので、その経験を活かしたい。気合を入れて頑張ります。