レースハイライト タイトル
dirt
2011年9月28日(水) 大井競馬場 1200m

内からゴール前鮮やかに抜け出す
一昨年の短距離王者が復活の勝利

 昨年、このレースからJBCスプリントJpnTを連勝してダート・スプリントのチャンピオンとなったサマーウインドの復帰が遅れ不在となったのは残念だが、09年のJBCスプリントの覇者スーニをはじめ、JRA勢はこの路線の新興有力馬が参戦。中でも昨年末から重賞3勝のセイクリムズンが単勝2.0倍の断然人気で注目を集めた。一方の地方勢は、今年から始まったスーパースプリントシリーズ・ファイナルの1〜3着馬が揃って参戦。
 JBCスプリントへ向け、充実のメンバーで争われた最重要ステップレースを制したのは、短距離王者復活ともいうべきスーニ。直線先頭のラブミーチャンが粘って2着と好走を見せた。
 絶好のスタートはジーエスライカーで、ゲートが開いた瞬間、他馬より1馬身ほど前に出ていたのはいつものこと。ラブミーチャン、ブリーズフレイバーと、ダッシュ力のある2頭がすぐに並びかけ、予想されたように3頭がハナを争う展開となった。しかし無理に競り合うこともなく、枠順どおり内枠のブリーズフレイバーがハナに立ち、控えてラブミーチャン、ジーエスライカーと続き、1番人気のセイクリムズンはその外、2番人気のドスライスは最内の、ともに好位を追走した。
 直線を向いて先頭に立ったのはラブミーチャン。前走クラスターカップJpnVでは直線半ばで一杯になっていたが、今回は大井の長い直線でもその行き脚は鈍ることなく、残り100メートルを切っても先頭で、そのまま粘り込むかと思われた。しかし、ラチ沿いからするすると伸びてくる馬が1頭。ゴール直前で並ぶ間もなく差し切ったのが、スーニだった。ラブミーチャンが1馬身差で2着に入り、セイクリムズンも直後で食い下がっていたが、後方から直線外を追い込んできたマルカベンチャーがこれをとらえて3着に食い込んだ。
 スーニは1年以上勝てない時期があり、長いトンネルに入っていたが、これで完全復活。前走、1年4カ月ぶりの勝利となったサマーチャンピオンJpnVでもトップハンデ58.5キロで強いレースをしていたが、有力馬が限られる中での勝利。しかし今回は、JBCを前に力をつけてきたライバルが何頭もいる中での争いとなっただけに、その意味は大きい。中団追走から「内側の狭いところを強引に出させてもらってからも、前との距離があったので、届いてくれと願って追っていました」と川田将雅騎手。勝ったとはいえ、楽なレースではなかっただろう。吉田直弘調教師にしても勝ったことを喜ぶよりも、「さらに進化するために課題が見つかったことが一番大きかった」と淡々と語っていた。本番ではさらに力をつけてくる可能性もあるということだ。今回、別定58キロを背負ったスーニにとっては、本番は定量戦ということも大きなアドバンテージとなる。
 そして2着に負けたとはいえ、ラブミーチャンも大きな収穫を得た。2歳時は圧倒的なスピードで全日本2歳優駿JpnTを制したものの、3歳以降のダートグレードでは4度の3着が最高という成績。抜群のダッシュとスピードは見せても、直線半ばで中央の有力馬にあっさり交わされるというレースが多かった。しかし今回は、5月のかきつばた記念JpnVでまったくの子ども扱いをされていたセイクリムズンに対しても、並びかけることを許さなかった。濱口楠彦騎手が「いい意味でズブくなっている」と言うように、2歳から3歳前半にかけてとは違い、パドックや返し馬でもかなり落ち着いてきている。それゆえ持てる能力を発揮できるようになったのだろう。今回は笠松からの当日輸送でプラス5キロの520キロ。決して太目残りではなく、デビュー以来の最高馬体重というもの、充実ぶりを示している。次走に予定されているJBCスプリントが楽しみだが、父のサウスヴィグラスが6歳で本格化し、引退レースとなった7歳時のJBCスプリントでGT初制覇という、スプリンターにはめずらしい晩成タイプだっただけに、ラブミーチャンには来年、再来年への期待も大きい。
川田将雅騎手
ちょっと心が折れた時期もありましたけど、ようやくまじめに一生懸命走ってくれるようになって、強いスーニが戻ってきてくれたので、うれしく思っています。一度JBCスプリントを勝たせていただいて、それからちょっと時間はたっていますけど、またこうしていい状態で本番に向かえるということで、なんとかもう一度スーニとともに短いところのてっぺんに立ちたいと思います。
吉田直弘調教師
スーニの走りだけを見ていて、レースの流れとかポジションとか、全体はあまり見てなかったので、帰ってからビデオを見てもう一度研究したいと思います。今回見つかった課題を修正していけば、さらに強くなれると思っています。

ゴール直前で差し切ったスーニ(左)
惜しくも2着に敗れたラブミーチャン

取材・文:斎藤修
写真:いちかんぽ(川村章子、森澤志津雄、国分智)