障害先頭ゴールまで止まらず
引退レースを圧巻の勝利で飾る
ばんえい競馬の年度を締めくくる大一番、ばんえい記念を前に厩舎関係者を大いに悩ませたのは、コロナウイルスの蔓延だった。2月下旬から熱発の症状を示す馬が出始め、ここに至るまでにも取消、除外などが相次いだ。
そして発表されたばんえい記念の枠順には、誰もが「えっ?」と思ったのではないだろうか。NARグランプリ2011ばんえい最優秀馬に選出され、ばんえい記念連覇を目指していたカネサブラックの名がなかったのだ。さらには今シーズンの北見記念を制し、高重量戦線の有力馬として名を連ねるようになったギンガリュウセイもまた、熱発のため回避となった。
それでも、今シーズン限りでの引退を表明していた活躍馬3頭、07〜09年にばんえい記念3連覇を果たしたトモエパワー、一昨年のばんえい記念を制しているニシキダイジン、そして重賞12勝を挙げ芦毛の牝馬として絶大な人気を誇ったフクイズミが、無事に出走できたことは関係者やファンをホッとさせたのではないだろうか。この3頭は、翌日に合同の引退セレモニーが行われる予定にもなっていたからだ。
3月のこの時期の帯広市内は、例年であれば雪はほとんどなくなっているのだが、今年は道路脇などにもかなりの雪が残り、前日土曜日も粉雪ではあるがほぼ1日降り続いた。当日は、午後になってようやく薄日が差すようになり、馬場も若干乾いてきたが、それでも水分量は5.1%。タイムの出やすい軽い馬場で注目の大一番を迎えることとなった。
レースは、やはり速いペースで流れた。先行したのはニシキダイジンで、ナリタボブサップ、フクイズミ、トモエパワーらの有力勢が続く。注目の第2障害は、最初に仕掛けたニシキダイジンが3腰でクリアし、溜めて仕掛けたナリタボブサップが2番手に続いた。障害を降りた時点では2馬身ほどの差だったが、絶好の手応えのニシキダイジンは徐々にその差を広げ、障害を越えたあとは一度も止まらずに圧巻の勝利で引退を飾った。
そして障害で一度はヒザをつきながら、3番手でクリアしたのがフクイズミ。前を行くナリタボブサップが何度か止まりながら懸命にゴールを目指していたが、ついにゴール前でとらえたフクイズミが2着を確保した。
ニシキダイジンの勝ちタイム2分34秒0は、ばんえい記念(旧農林水産大臣賞典)が1トンで争われるようになってから最速の決着。ばんえい競馬の馬場状態は水分量で表されるが、この時期は単純にその水分量で馬場の重さは測れない。すでにこの時期はコースのヒーティングシステムは稼働しておらず、夕方になって気温が下がり、凍って滑るような状態できわめてスピードの出やすい馬場になっていたようだ。
ニシキダイジンの手綱をとった鈴木恵介騎手は、ばんえい記念初制覇。今シーズンは前日までに244勝を挙げ、ばんえい騎手の年間最多勝記録の更新を続ける不動のリーディング。表彰式後のインタビューでは、義父である鈴木勝堤元騎手がミサキスーパーで3年連続2着がありながら手の届かなかった念願のタイトルを獲ったことを問われると、涙で声を詰まらせる場面もあった。
そして3頭の名馬の引退とともに、32年間に渡ってばんえい競馬の名実況を語り続けてきた井馬博アナウンサーも、翌日の今季開催最終日をもって勇退を決めたことを付記しておきたい。
鈴木恵介騎手
馬場が軽くなったこともあって、ほかの馬に楽をさせないように先手をとって行きました。障害は心配ないんですが、降りてからはよく一度も止まらずにゴールできたと思います。3分くらいの決着と思っていたんですが、2分半はちょっと想像できませんでした。
村上慎一調教師
とにかく熱が出ないように、そればかりが心配でした。年齢のこともあって疲れが残るので、調教はあまり重い荷物ではやらず、軽い荷物で時間をかけました。他の馬の倍ほど、2時間から2時間半ですね。それで結果的に、障害を降りてから一度も止まらずにゴールできたと思います。