レースハイライト タイトル
dirt
2012年3月20日(祝・火) 高知競馬場 1400m

高知競馬がもっとも熱くなる日
ダッシュよく飛び出し接戦を制す

 2年ぶりの黒船賞JpnV。高知県内の民放では黒船賞のテレビCMがたくさん流され、地元のFM局でも場内イベントなどの告知が放送されていた。高知の競馬ファンが待ち望んでいた黒船賞には、県外からも多数の観客が来場。特設屋台にて限定200杯で提供された特製ラーメンは、第1レースのスタート前に早くも完売御礼となっていた。場内イベントもにぎやかに行われてお祭りムードが漂う競馬場。そこに黒船賞の出走馬が姿を現すと、パドックをひな壇状に囲む観覧席は、隙間をみつけるのが困難なほどの人々で埋め尽くされた。
 そのなかの多くの人がカメラを向けたのは、やはり武豊騎手。黒船賞では騎乗合図後に各馬がパドックを2周するが、早々にスタンド方向に向かう人が少なかったのは、ゼッケン11番の馬に騎乗した武豊騎手の効果が大きかったように感じられた。
 とはいえ、断然人気を集めたのはスーニ。前回、つまり2年前の覇者であり、そしてダートグレード4連勝中。他馬より2キロ以上重い斤量だろうが、過去の実績で比べれば人気の中心に推されるのは当然というところだろう。
 しかしスーニは休み明け。さらにマイナス11キロの馬体重で登場してきた。筆者は前走、前々走とも現地でその体を見ているが、前2走よりはやや背中が下がり、歩幅も小さくなっているように感じられた。
 それでもさすがにスーニということで、単勝オッズは1倍台を堅持。ただ、重賞未勝利のトウショウカズンが2.4倍と1番人気に肉薄する数字だったのは、武豊騎手だけが理由というわけではあるまい。その2頭にセイクリムズンを加えた3頭が単勝5倍以下の支持を集めたが、それはJBCスプリントJpnTを2勝している王者に不安を感じていた人が多かったことの裏返しなのかもしれなかった。
 その漠然とした不安は3コーナーで現実となった。ダッシュ力を効かせて先手を取ったセイクリムズンをトウショウカズンと船橋のケイアイライジンが追いかけて、スーニは1コーナーで後方2番手ながらいつも通りといえる位置。向正面で外に出して順位を上げていくのもまた、いつも通りの姿に見えた。しかし3コーナー地点で大型ビジョンがアップで映したスーニは、鞍上の川田将雅騎手が激しく手を動かしても先頭までは遠いという手応え。逆にスーニの後ろにいたダイショウジェットのほうに圧倒的な勢いがあった。
 直線に入っても競り合いを続けるセイクリムズンとトウショウカズンに、ダイショウジェットが大外から一気に接近。その3頭はゴール地点をほとんど同時に通過していった。
 スーニがそこから4馬身後方に置かれた4着に敗れたということにざわつく場内。続いてそのざわめきは上位3頭がどの順で入ったかに変わっていく。しばらくして大型ビジョンに表示されたスローリプレイで、1着は2番人気のセイクリムズン、2着は3番人気のトウショウカズン、3着は4番人気のダイショウジェットということがわかって、場内からは再び歓声があがった。
 ウイニングランをするセイクリムズンをファンは拍手で迎え、僅差で敗れたトウショウカズン鞍上の武豊騎手は苦笑いしつつ検量室へ。ダイショウジェット鞍上の柴山雄一騎手は「いやあ、惜しかった。でも小回りコースは走りますね」と、9歳でも実力が衰えていないことを再確認した様子だった。
 2000人を超える観衆を集めた今年の黒船賞。表彰式のあとには餅撒きのイベントが実施され、再びスタンド前は大歓声に包まれた。年に一度の大イベントである黒船賞の開催日は、まちがいなく高知競馬場が1年でもっとも熱くなる日であった。
岩田康誠騎手
フェブラリーステークスでの行きっぷりがよかったので、今回も同じように逃げられればと思っていました。ゴール前はギリギリでしたが、この馬のよさを信じて追いました。もともと力がある馬ですし、今日みたいなパワーが必要な馬場も合いますね。今回は逃げましたが、どの位置でもいい競馬ができるタイプだと思います。
服部利之調教師
夏休みで大事にしすぎた感じで、調子が上がってくるのに時間がかかりました。デキはよくても結果が伴わないので、ずっと歯がゆい思いをしていました。でも今回は強い相手によくがんばってくれて、前走のフェブラリーステークスのときに思い切り行かせたことがいい転機になったのかなと思いますね。黒船賞を勝つのは2006年のブルーコンコルド以来。このレースの黒い優勝レイが大好きなんですよ(笑)。ブルーコンコルドのように、またJBCを目指していきたいと思います。

スタート後 各馬それぞれの位置取りへ
表彰式後に行われた餅まき

取材・文:浅野靖典
写真:桂伸也(いちかんぽ)、NAR