レースハイライト タイトル
dirt
2011年12月29日(木) 大井競馬場 2000m

息をのむ大接戦のゴール
底力でねじ伏せ8連勝

 今回から国際GTとなった東京大賞典。しかし残念ながら外国からの参戦はなく、地方勢ではフリオーソが調整中で、スマートファルコン1強ムードで年末の大一番を迎えた。
 そして、単勝元返しの圧倒的人気となったスマートファルコンが8連勝でGT(JpnT)5勝目……と書くと、圧倒的な強さで連勝を伸ばしたような印象を受けるが、今回は薄氷を踏むような勝利だった。
 外枠でもスマートファルコンが楽にハナを奪ったのは予想どおり。そして3〜4コーナーから直線で後続を突き放すのがいつものパターンだが、今回は2番手で併走していたワンダーアキュート、テスタマッタとの差はなかなか広がらない。それどころか、直線ではワンダーアキュートがじりじと差を詰め、ピタリと馬体を併せたところがゴール。スマートファルコンが粘ったか、それともワンダーアキュートが差しているのか。武豊騎手も自信がなかったようで、検量室前に戻ってくると、スマートファルコンを2着の枠場に導いた。「ゴールした瞬間は、わからなかったですね。負けたかなという気もしました」と武騎手。
 スマートファルコンの今回の1000メートル通過は59秒5。大井の2000メートルでは、過去に昨年の東京大賞典JpnT、今年の帝王賞JpnT、JBCクラシックJpnTを勝っているが、いずれも良馬場で、それぞれ58秒9、59秒8、60秒7というもの。スマートファルコン自身のペースとしては、今回は平均的な通過タイムだった。しかし上り3ハロンのタイムを見ると、同じく過去に3回勝ったときが、それぞれ37秒3、36秒0、37秒3なのに対し、今回は38秒2もかかっている。好調時に比べて少なくとも1秒近くは上りがかかっていることになる。今までどおりの上りで走っていれば、少なくとも5〜6馬身は突き放していたはずだ。それが「4コーナーでもっと離したかったんですけど、なかなか離せなくて……」という武騎手のコメントなのだろう。
 スマートファルコンは、前走JBCクラシックJpnTを勝ったあと、出走を予定していたジャパンカップダートGTを体調が整わないとして回避。今回は「状態はしっかりしていて、追い切りも順調にできた」(小崎憲調教師)とのことだったが、武騎手によると、本来の行きっぷりではなく、道中は妙に落ち着いていて心配になるほどだったという。
 陣営が以前からドバイワールドカップを最大目標としてしていたことは広く知られるところとなっているが、今回の結果で今後の予定を白紙に戻して慎重に考えるという。
 さて、今年のダート中距離戦線を振り返ると、スマートファルコンは地方の舞台で5戦全勝。一方トランセンドは、東京競馬場での開催となったマイルチャンピオンシップ南部杯JpnTを含めて中央のGT・JpnTを3戦3勝。それぞれの舞台で完璧な成績を残した。
 この2頭の出現によって、ダート競馬のレベルは格段に上がった。かつて、アジュディミツオーがカネヒキリを寄せ付けなかった06年の帝王賞JpnTでの2分2秒1というタイムは、当時は驚異のレコードと言われた。しかしスマートファルコンが大井2000メートルのGT・JpnTを制した4戦のタイムは、JBCクラシックJpnTがアジュディミツオーのレコードと同じ2分2秒1で、そのほかの3戦は2分0秒台か2分1秒台。昨年あたりから大井の馬場自体が時計が出やすくなったと言われているが、それを差し引いたとしても、以前では考えられないほどのレベルアップといえるだろう。
 今回、中央勢6頭が上位6着までを独占し、南関東勢3頭が7〜9着という結果は、スマートファルコンとトランセンドの実力だけが突出しているわけではなく、中央所属のダート馬が全体的に底上げされていることを如実に物語っている。
 地方勢では大将格のフリオーソが今年後半不在だったが、そのフリオーソも年が明ければ8歳。若い世代から中央勢とのレベルの溝を埋めるような実力馬が出現することを期待したい。
武豊騎手
今日は4コーナーでうしろをそれほど離せなかったので、最後はなんとかがまんしてくれという気持ちでした。今年1年、すべて勝ってくれたことは、ほんとにすばらしいですね。そのぶん、最後に少し疲れが出たのかなという走りでしたが、それでも1着になったのは大きいですね。
小崎憲調教師
今日は思ったほどのパフォーマンスが見せられなかったので、気持ちを引き締め直して、しっかりつくり直したいと思います。古馬になって、輸送もおとなしいし、パドックでも以前ほどは気合を出さない、いろんな面でズブさが出てきたのかなと思います。今日は厳しい展開にはなったかとは思いますが、勝てたのはこの馬の底力だと思います。

3万人のファンが激戦を見届けた
直線は熾烈な追い比べとなった

取材・文:斎藤修
写真:いちかんぽ(トム岸田・森澤志津雄・川村章子)、NAR